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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】滝 善充 (9mm Parabellum Bullet) (2010年5月号)- 様式美への愛と革新性が共存した"ギターの妖精"が語る飽くなき創作意欲

様式美への愛と革新性が共存した“ギターの妖精”が語る飽くなき創作意欲

2010.05.01

スナッパー1本で全部を録り切った

──アルバムの方向性に確信を持てた曲は何だったんですか。

滝:“これは行ける!”と思えたのは『Black Market Blues』ですね。これは絶対に間違いないなと思いました。凄い面白い曲だという自信もあったし、自分の中でも聴く人の中でもかなり特殊な響き方をしてくれるだろうなと。あと、『Lovecall From The World』が出来た時はめったに聴けない凄いテンションだなと自分でも思いましたね。

──一番最初に完成に漕ぎ着けた曲は?

滝:今期では『Black Market Blues』と『The Revolutionary』ですね。それを2曲同時に作ったんです。『Black Market Blues』のアレンジをみんなで考えていた最中は、かなり漲るものがあったんですよ。『Black Market Blues』があまりにも風変わりな曲だったから、和彦が『Cold Edge』という凄くストレートな曲を持ってきたのもいい相乗効果でしたね。いい流れはあったと思います。

──知らず知らずのうちに役割分担みたいなものがあるんですかね?

滝:役割として感じてるんじゃなくて、個々人の感じ方なんでしょうね。その頃はストレートな曲を手掛けてなかったので、それで単純にストレートな曲をやりたかったんじゃないかと思うし、かみじょう君に至っては“好きに作ってくれ”みたいな感じだったし。自分としてはネタ的に大被りするような曲は絶対にやりたくないし、むしろ全曲違うタイプの曲にしたいくらいなんです。目まぐるしいくらいにどんどん変えていきたいんですよ。

──菅原さんが作曲を手掛けた曲がないのは、作詞もしくは歌に徹してもらおうという配慮からですか。

滝:作詞に特化してもらおうと思ったんです。アレンジを詰める時間を削ってでも詞を書かないとレコーディングに間に合わない状況だったので、曲はある程度僕が詰めてメンバーのところに持っていって、卓郎を除いた3人でアレンジを詰めていく手法を取ったんです。その間に卓郎は歌詞に専念する分業制だったんですよ。

──菅原さんの作詞はいつもかなりの難産だと伺っていますが。

滝:確かに。でも今回は、めちゃめちゃ苦労したということもなくて、いいペースで書けてたみたいですけどね。

──滝さんとしては、サウンド面の現場監督としての責任が一気にのし掛かってきた感じだったんですね。

滝:まぁ、メロディは早めに出ていたので、どう聴こえるかというサウンド的なところを詰め切るのを卓郎抜きでやった程度ですよ。曲の長さと文字数くらいは卓郎に伝えておかないと全く進めなくなるので、彼がやらなきゃいけないところを真っ先にやりましたね。

──かみじょうさんがドラムセットを替えたことで上物の音も必然的に変わったと思うんですが、具体的にどんな変化がありましたか。

滝:何と言うか、上物は落ち着いた感じですね。『VAMPIRE』は曲にヴァリエーションがあって、1曲ごとに音が全然違うみたいなアルバムだったんですけど、今回はほとんど同じような音で弾いたんですよ。音が定まったし、敢えていろんな音を出すこともないなと思って。もっとパンチを出すためにドラムセットを替えたので、ギターも一番パンチの出るセッティングじゃないと渡り合えないし、ライヴの音で弾かないと全然しっくり来なかったんです。ほとんど同じギターの同じ音で弾くというのも、ある意味で度胸が必要なのかなと。音色の変化で逃げられないですからね。

──ギターは変わらずESPのスナッパーを?

滝:はい。スナッパー1本で録り切った感じです。

──ある種、ギタリストとしての技量と真価を問われたアルバムとも言えるんじゃないですか。

滝:そうですね。どうにかこうにかな感じでしたけど。ちょっとしたことで違ったふうに聴かせたりとか、音で全体の方向性を持っていくんじゃなくて、小技、小技でどうにか頑張った感じです。

──小技は随所で効果を発揮していますよね。『光の雨が降る夜に』のワウペダルとか。リフやギター・ソロで曲をぐいぐい引っ張っていくのではなく、あくまで曲のパーツの一部としてギターの音が鳴っている印象を全体的に感じますね。

滝:突出した判りやすいリフは少なくなったかもしれませんね。『Black Market Blues』でも全体のバランスを重視して作りましたし。

巧く弾くよりもパンチを出したい

──結成当初から技量も経験値も増したと思いますが、ご自身ではギタリストとしてどう変化してきたように思いますか。

滝:技術的にもサウンド的にも全然良くなってきた自負はありますけど、変わったのは音くらいですね。どんどんいろんな曲をやっていきたい欲求から出てくるギターのアイディアでしかないし、それはインディーズの頃から変わってないです。最初から腹は決まってたと言うか、むしろそのやり方を変えたくないと思うし。あと、巧く弾きたいとは思いますけど、巧いよりかはパンチが出たほうがいいですね。仮にレコーディングで多少荒れてしまったり、大ミスをしてしまっても、いくらでも弾き直すから思い切り弾かせてくれと思います。今回は特にそんな感じだったんですよ。

──ライヴでの勢いをそのまま伝えたかった?

滝:そのままではないですね。人間、誰しも調子のいい時と悪い時があるし、いい時に出せる最大の勢いみたいなものは記録しておきたかったですけど。“これくらいの勢いは常に出していたい”という基準を作りたかったんですよ。自分の中の理想の自分を刻み込んでおきたかったと言うか。

──今回はセルフプロデュースということで、各パートの音決めひとつを取ってもかなりの時間が掛かったのでは?

滝:その辺はエンジニアの日下(貴世志)さんといいやり取りができましたね。日下さんもかなり考えてきてくれたし、特にストレスはなかったです。日下さんのアドヴァイスで曲が劇的に変わったことはなかったですけど、要所要所の聴かせ方はいろいろヒントをくれましたね。『Lovecall From The World』の最後に凄い音圧のファズ・ギターが入りますけど、あそこは12〜13本くらいファズを重ねてあるんですよ。その過程で、上寄りなシャリシャリの音になっちゃったんです。それに対して「もっとちょっとコクがあったほうがいいよ」と日下さんに言われたので、シャリシャリを減らしてコクのあるギターを増やしました。1秒あるかないかですけど、あんな音圧はなかなか聴けないと思いますよ。

──率直なところ、セルフプロデュースをやることに不安はありませんでしたか。

滝:なかったですね。できるなと思っていたし、本気で自分たちの好きなようにやれることが楽しみでもあり喜びでもありましたね。ある意味、自分たちに対する吹っ掛けでもあったし、そこでバンドの力量も見れて面白いんじゃないかと思ったんですよ。(いしわたり)淳治さんにプロデュースをお願いしていた時は淳治さん基準みたいなものがあって、その基準を突破すれば必ず格好いいものが生まれたんです。セルフプロデュースは自分たちで基準を設けることになるんですけど、自分たちが格好いいと思えたり、グッと来る部分を時間の許す限りたくさん増やせばいいんだなと思って。

──いしわたりさんから学べたことはどんなことですか。

滝:淳治さんがそれまでに携わってきたいろんな音源で得た経験値を、噛み砕いた状態で見て学べたことですね。音作りの上でもの凄い近道を教えてもらえたと言うか、確実な方法である上に究極のスタンダードだっていう。それを学べたのは凄くでかかったです。

──セルフプロデュースでこれだけの会心作を完成させて、どんどんハードルが上がっていきますね。

滝:初めて自分たちでプロデュースを手掛ける1作目のアルバムだし、かなりのクオリティの作品にしなきゃいけないなと思ったんですよ。プロデューサーがいなくなったらしょぼくれちゃったよみたいなものには絶対にしたくなかったので、めちゃくちゃハードルを上げて頑張ったんです。その目標をとりあえず僕は超えられたと思うし、次は一気にすっぽ抜けるかもしれないです(笑)。できる上でやらないというのも面白いかなと思うので。

──セルフプロデュースというのは、バンドを結成して初めてアルバム作った時の感覚に近いものなんですか。

滝:全然違いますね。締め切りに追われて余裕のない状況も違うし、当時とはケタ違いの人に聴かれているのも違うし。最初のデモCDなんて、聴かれても何十人程度のものでしたから。ただ、恐ろしい数の人に聴かれるから本気度は今のほうがありますけど、やってることは変わらないんですよね。スピーカーから聴こえてくるのは自分がいいと思えるものなのか、好きな音なのかを追求しているだけですから。

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