日本が世界に誇るパンク・バンド、SAがニュー・アルバム『REVOLT 'N' ROLL』を発表する。今こんなにも真摯に音楽と向き合い、全力でライヴをやり抜くバンドは数少ない。自分は年間500本以上のライヴを見ているが、昨年のベスト・ライヴのひとつが12月に見たSAだった。SAのライヴを見て大いに感銘を受け、自分の人生を振り返り、決意を深め動かされた。決して若くはない彼らがそのすべてを出し切った渾身のアルバムを完成させ、そしてその真骨頂を発揮するワンマン・ライヴを2月21日に我が新宿LOFTで開催する。こんなに光栄なことはない。是非彼らのライヴを体感して欲しい。今こそ立ち上がる時だと感じるはずだから。(interview:大塚智昭/新宿LOFT店長)
ライヴの空気を何色にでも変えられる
──実は今回、僕がSAを表紙にしたいと編集部に拝み倒したんですよ。自分がそうやってお願いするのは年に1、2回くらいで、凄く珍しいことなんです。
タイセイ(vo):おお、それは有り難いね。
──何故そこまでSAを推すのかと言えば、去年の12月にウチでやった2本のライヴ(『SET YOU FREE VOL.263 〜YEAR END SPECIAL 7DAYS』と『URASUJI.』)が凄く良くて、去年見たライヴの中で1、2を争うくらい素晴らしかったんですよね。その時に今のSAをもっとたくさんの人たちに見て欲しいと思ったんです。
タイセイ:なるほど。嬉しいこと言ってくれるね。
──特に『SET YOU FREE』の時は、SAよりも若いバンドたちが割と淡々としたライヴをやっていたんですよね。
ナオキ(g):決して恵まれた状況じゃなかったもんね、あの日は。SAを知らないお客さんもいっぱいいたし。
──そんな状況の中で、SAが狼煙を上げてイヴェントの流れを一変させたんですよ。パンク・ロックは衝撃を与えてナンボだし、SAは聴き手の感覚に訴えかけられる数少ないバンドのひとつだと僕は思っているんです。
タイセイ:ライヴをやる以上、見に来てくれるお客さんには何らかの思いを持ち帰って欲しいんだよね。俺たちも持ち帰りたいしさ。その思いが何なのかは判らないけど、そんなライヴができるように心懸けてはいるね。
──他のバンドも、口ではそういうことを言うんですよね。でも、その結果がなかなか出てこない。
ナオキ:そうだね。心が折れそうになって、会場の空気に呑まれるミュージシャンは多いと思うよ。
タイセイ:途中でライヴを投げる奴が最近は多いよね。
ナオキ:2曲くらい強めのボールを投げて、全然返ってこないともう折れてるみたいなね(笑)。俺は決してドMじゃないけど、そういう状況が嫌いじゃないんだよ。フロアにお客さんがいっぱいいたほうがもちろん嬉しいけど、それはそれで楽しめるから。
──『SET YOU FREE』の時も、SAがライヴを始めたら後ろのほうにいたお客さんが前へ詰め寄って、一気に一体感が生まれましたよね。ライヴをやって訴えて、それが伝わっていく瞬間を目の当たりにしましたよ。僕はその姿にあまりに感動して、逆にフロアから離れていったくらいですから(笑)。
ナオキ:正直、こんなに力を付けていくバンドだと最初は思わなかったね。タイセイとペアを組んでこの面子になって今年で9年目を迎えるんだけど、よくここまで続いてるなと思う。俺が入る以前の再結成したSAを見て、"ウォッ、スゲェ!"って思ったよ。そこで俺が一緒にやることで相乗効果が生まれるだろうと思って始めたけど、これだけ長い間ブレずに折れないでいられるとは思ってなかった。まさか9年目を迎えられるなんてさ。
──そういうものなんですかね。
ナオキ:タイセイも俺も、今までのキャリアの中でひとつのバンドを続けることにかけてはどんどん最長記録を更新してるからね。俺の場合、コブラを3回やって6年、ラフィン・ノーズが5年、ドッグ・ファイトが6年半やから、9年目なんてビックリだよ。
──今のSAは、ついこの間のライヴが一番いいっていう状態をずっと保っていると思うんですよね。
タイセイ:そうかもね。だから、もっとできるんじゃないか、もっともっと行けるんじゃないか、っていう気持ちになるし、その場の空気をどう色付けできるかを考えるようになる。ステージに立つ人間なら判ると思うけど、あの独特の空気を何色にでも変えられると、こんなに気持ちいいことはないわけよ。ちょっと抽象的な言い方だけどね。
──いや、よく判りますよ。キャリアを積んだバンドが陥りがちなのは、ベスト・ライヴだった頃のモードをポイントで繰り返すんですよね。それは見てる側も一度体験したことだし、最初の感動は超えられないと思うんですよ。SAはそういうことを絶対にやらないじゃないですか。
タイセイ:同じことをやるつもりは毛頭ないし、実際、全く同じにはならないからね。
ナオキ:ステージに向かう以前の姿勢っていうのもあってね。タイセイも俺も、今度のライヴは何を着よう? あんな格好がしたい! っていうところから始まってるから。セットに1時間20分掛かる俺のヘア・スタイルも大変だけど、冗談半分でタイセイに「そろそろイメージ・チェンジしていいかな?」って訊いたら、即座に「ダメ!」って言われたもんね(笑)。そういう見てくれの部分で自分たちを鼓舞してるところはあるよね。ステージに上がりたくて上がってるんやからさ。それがいいステージへ結び付く姿勢やと思ってんねんけどね。だって、見て欲しいし、見せ付けてやりたいっていう思いがあるわけやから。
タイセイ:SEが流れて、舞台袖のスタッフの横をすり抜けてステージに立つ時、俺たちはいつもいい意味で緊張してるんだよね。気持ちを集中させて、いい緊張感を保ってステージに向かってる。LOFTでもモニターを見ながら"どれくらいのお客さんが俺たちを見に来てるのかな?"なんて思いながらさ。その緊張感がいいんだよ。それがなくなったら終わるなと思ってるよ。緊張感を保ちながら楽しもうとするから凄くハイになるし、100を超えたくなるんだよ。自分の限界を超えて120の力を出したくなる。そうすると何でもできるような気がしちゃうんだよね。
ロック・スターであるべきという自覚
──SAみたいにロック・スター然としているバンドは、こちらの想像を超えたことをやってくれるんですよね。ロック・スター幻想を抱かせてくれるバンドが最近は少ないように感じます。
タイセイ:確かにね。SAがパンク・ロックというカテゴリーの中で位置付けられているのは誇りにも思ってるんだけど、ロック・スターであるべきだという自覚もあるんだよ。最近は格好付けてロックやってる奴がいないし、格好いい奴もいないし、格好付けてサマになる奴もいないしね。
ナオキ:ホントだね。たくさんのバンドと対バンしても、5回くらい会わないと顔を覚えられない子も多いからね。ステージに上がってる人間なのに、こんなに覚えられないものかな? って思うよ。向こうはこっちのことを一発で認識してくれてるけどね。見た目が鬱陶しいから(笑)。
──SAはまぎれもなくパンク・バンドでありながら、その音楽性はジャンルに囚われない幅広さがあるのが魅力ですけど、今回発表される『REVOLT 'N' ROLL』ではいつになくストレートなパンク・ロックを体現していますよね。
タイセイ:いろんな壁を突き破って幅広い音楽性を志向してきたからこそSAを続けていられるんだと思ってるけど、音楽性が幅広いから筋が一本通っていないかと言えば絶対にそんなことはない自負がある。今度のアルバムみたいに直球のパンク・ロックは飛び出して聴こえるかもしれないけど、俺の中ではそんなに飛び出してないんだよね。俺たちの世代は特にそうだけど、パンク・ロックというものをあまりにも狭く決め込みすぎてる。俺にはそれがつまらないし、SAがいろんな音楽をやってるんじゃなくて、みんながいろんなことをやらなさすぎてるんだよ。
──歌詞がいつになくシンプルでポジティヴになったのを個人的に感じたんですよ。歌詞がパンクなイメージで、サウンドはストレートなロックンロールと言うか。
タイセイ:そこは今回、凄く気に留めた部分なんだよ。それは去年、アメリカでライヴをやったことが大きいと思う。SAは英語でも唄うし、日本語の曲もあるけど、向こうではどっちでもいいわけよ。それなら、伝える側としては日本語で唄いたい意識が芽生えたって言うかさ。それ以降、曲作りをしていく中で歌詞には引っ掛かりを覚える言葉を入れたいなと思ってね。あと、なるほどなって感じる言葉とか。時間が経ってから判る言葉もあるかもしれないけどね。念頭にあったのは、日本語を聴こえやすくすること。その一方で、英語で唄うところはガッツリと唄いたかった。1曲目の『Hey, Hello Mr. Freedom』は90%が英語で10%が日本語だけど、いい感じで英語と日本語を振り分けたかったんだよね。英語でガッツリ、日本語でガッツリっていうさ。そのほうが唄ってても気持ちいいわけよ、実際。伝えたいことや感じてることをひん曲げるよりは真っ直ぐ唄ったほうがいいに決まってるしね。
──確かに。となると、発せられる言葉は自ずとシンプルになっていきますよね。
ナオキ:俺は今回、いい大人が敢えて稚拙な言葉を使ってるのがいいなと思ってね。本来なら10代の衝動で言うような言葉を、40を過ぎた大人がハンマーのように言ってしまってるところが面白い。
タイセイ:いい意味で青臭い言葉を使いたかったんだよね。いつだって青臭くいたいしね。
──『RAD』の歌詞はまさにそんな感じですよね。「やっぱ俺たちイカすぜ No.1」ですから(笑)。
タイセイ:今回のアルバムは、1曲目から6曲目までがひとつの物語になってるんだよ。『Hey, Hello Mr. Freedom』は、くすぶった地下室の中で少年がロックに目覚めるイメージ。『HANG OUT』はその少年が仲間と集まって街角に佇んでる感じで、そいつらが『BASEMENT RAMPAGE』みたいにイノセントなパンクを唄って、連中が東京に出てきて壁にブチ当たるのが『WAITING MAN』。東京で出会った女の子と一緒にロック・スターを夢見るのが『RAD』なんだけど、結局ロック・スターにはなれない。だけど、そんな挫折した男が今は自分の仕事で吠えまくってるのが『RAIN DOGS』なんだよ。そういう流れのあるアルバムが作りたかったんだよね。
ナオキ:今回、歌詞はダーッと一気に書き上げたもんな。
タイセイ:だからいろいろリンクしてるわけ。『HANG OUT』にある「青臭い奴らのカウント4」っていう曲が『BASEMENT RAMPAGE』のことだったりね。