MOSQUITOはホントの自分を出せる
──リズム隊が以前に増して有機的なグルーヴを放つ一方で、ドラムが替わるとヴォーカルは単純に唄いづらくなると思うんですが、それもKYOさんが正式に加入してから1年半の間で見事に解消したように感じますね。
BAKI:その辺は時間を掛けてクリアできたね。ドラムとヴォーカルは近い存在だし、特にドラムが替わるとバンドは全く別のものになるんだよ。MOSQUITOはビジネスじゃないところで集まってるバンドだから、ドラムに限らず1人が替わったらすべてが変わってしまう。だから俺は新しいバンドがやりたかったんだけど、この先に繋がる何かを感じるからこうしてMOSQUITOを続けてるんだよね。
KYO:MAD3を辞めて、俺は宅録とフリー・フォームしかやるつもりがなかったんですよ。MOSQUITOは最初サポートで、アコースティック・ライヴの時は割と原曲を忠実にやる感じだったんだけど、ライヴをやっていくうちにバンドとしてのコール&レスポンスをMOSQUITOでもちゃんとできるんだなと思ったんです。だったら正式にバンドに入れてもらったほうが絶対に面白いぞと思って。
KASUGA:昔の曲も、今はアレンジが全然変わっちゃってるしね。
KYO:まぁ、それは単純に俺がKYOYAさんみたいに叩けないだけなんですけど(笑)。ある人が言うには、KYOYAさんはウェットで、俺はドライな音らしいですね。
──『MARBLES』の頃は『DARKSIDE MOON』のような激情の哀切ナンバーがMOSQUITOの真骨頂でしたけど、今は『THE IN CROWD』や『NICK'S BOLERO』といった明るい表情を湛えた弾むようなナンバーにバンドの持ち味がよく出ているように感じますね。
KASUGA:アルバム前半の曲はKYOYAさんがいた時にデモを作っていたのが多いんだけど、不思議なもんでドラムが替わると雰囲気まで変わるんですよ。
KYO:『THE IN CROWD』は一番最初に音合わせをしてるらしいんですけど、例によって俺は元のデモを聴かされてないんです(笑)。
KASUGA:KYOYAさんが叩いた『THE IN CROWD』はボツ曲になりかけてたんですよ。それをKYOちゃんと合わせてみたら見事に生き返ったんです。
──そこでもKYOさんが"REBIRTH"させたわけですね(笑)。
KYO:俺はインスト・バンドでずっと叩いてたし、フォー・ピースのバンドをやったことがなかったんです。そこから仕切り直しだったわけですよ。正式に加入することになってすぐにANAIさんからメールが来たんですけど、そこにバンドの名前が羅列してあったんです。「...といったバンドが聴きたいです」って。要するに、俺の持ってるCDを貸せということかと(笑)。
BAKI:それ、プログレだったっけ?
KYO:プログレと、あとは60年代のガレージ・パンクや俺が強いサイケっぽいのとかでしたね。最初の頃はスタジオでそんなやり取りばかりやってました。
KASUGA:そのふたりのやり取りを見て、俺は"これなら行ける!"と思ったんですよ。
KYO:MOSQUITOは放任主義なんですよね。ドラムを蹴倒そうが何をしようが何も言われないので。だから、やってることはMAD3の時と基本的に変わってないんですよね。
BAKI:ホントは俺がKYOちゃんよりも先にドラム・セットを壊したいくらいなんだけどね(笑)。
KYO:BAKIさんは本家ですからね(笑)。俺がフリー・フォームをやって実感したのは、自分では割とジャズ志向だと思ってたのに、やっぱりロックのドラムなんだなってことなんです。と言うことは、ロック・バンドをちゃんとやってないとダメなんだなと思って。そんなタイミングでMOSQUITOの話を貰ったので、今は凄くバランスがいい状況なんですよ。
──KASUGAさんがLAUGHIN' NOSEを脱退してMOSQUITOに専念するようになって、ギター・サウンドの自由度がグッと増した気もしますね。
BAKI:俺もこの1年くらいでKASUGAのプレイやアプローチが凄く変わったと思うね。今はいろいろ試してるのかな? って感じるし。
KASUGA:そうかもしれない。MOSQUITOはホントの自分をそのまま出せるんでしょうね。
KYO:LAUGHIN' NOSEやDESSERTとかのKASUGAさんを見てきた立場で言うと、MOSQUITOで弾いてるKASUGAさんは全然違いましたね。
KASUGA:パンクはもちろん好きだし、身体に染み付いたものだけど、それ以外にもいろんな音楽を吸収してきたわけだから、MOSQUITOみたいにヴァラエティに富んだ曲をやるのは自然なことなんですよ。
──KASUGAさん同様に、僕はBAKIさんの唄い方もよりナチュラルになった印象を受けましたけど。
BAKI:曲が変わったからだと思う。上手く唄えるか判らない曲を唄うことによって、自分では知らなかったようなことが唄えている部分もあるね。この先にまたどんな歌を唄えるのか楽しみになれたよ。意識的に唄い回しを変えたつもりはないけど、バンドを続けていれば新たな発見が絶えずある。だからやっぱり、ずっと続けていくことが大事なんだね。
KYO:俺なんて、「今はBAKIさんと一緒にバンドをやってるよ」って友達に言うと「出世したな」って言われますよ(笑)。俺と同い年の連中はみんな"消毒GIG"とかに通ってましたからね。
本物が少ないから日本にロックが根付かない
──KASUGAさんはプロデューサー的な立場としてこれだけ個性の強い面々のアイディアや意見を集約させるわけで、その苦労も並大抵なものではないのでは?
KYO:まず、ANAIさんを抑えるのが大変ですよね(笑)。
BAKI:確かにどこに行くか判らない感じはあるけど、それが面白いんだよ。
KASUGA:でも、ANAIさんの突然のひらめきは結構面白いのがあるんです。そこはちゃんと拾いたいんですよ。さっき言った『REBEL』のハンドクラップとかね。
KYO:『REBEL』はANAIさんがC.C.R.の『SUZIE Q』をイメージしてたみたいなんですけど、全然違うじゃないかっていう(笑)。
──アルバム・タイトルは『IN THE CROWD』で、収録されている楽曲は『THE IN CROWD』という言葉遊びも、もしかして...。
KASUGA:それもANAIさんのアイディアなんです(笑)。『THE"IN"CROWD』はラムゼイ・ルイスのアルバム・タイトルにもあるし、ブライアン・フェリーもカヴァーしてますよね。
KYO:あと、『THE"IN"CROWD』はモッズのアンセムとしても有名ですね。
KASUGA:それが『IN THE CROWD』になると"群衆の中で"という意味になる。
──いきなりオフコースみたいになりますね(笑)。でも、そうやって古き良きロックのキーワードを巧みに織り交ぜて純度の高い作品を作るのは、ロックに対する愛情に溢れていて嬉しくなりますね。
KASUGA:レコーディングも凄く楽しかったですからね。エンジニアの田村(英章)君もロックに詳しいし、スタジオも馴れたもので、だからこそ新しいアイディアが沸々と湧いて出たんじゃないかな。
KYO:MAD3の時は、ドラムの音色を決めるのに3人で喧々囂々になってたんです。それに懲りてたから、今回は全部お任せで行こうと思ったんですよ。でも、KASUGAさんに「こんな音でどう?」って言われたら、「すいません、もうちょっとコンプ強めでお願いします」なんて答えちゃったんですよね(笑)。
BAKI:でも、結果的には成功してるよね。田村君が各々の音をちゃんと録っておいてくれるから、そういうマイナー・チェンジをしてもゼロ地点まで戻らずにちゃんとバランスが取れるんだよ。ミックスは田村君と親分(フライハイト代表の岩井周三氏)がやってるけど、親分はキーボードまで弾いてるから(笑)。
──『REFLECTION』のイントロですか?
KYO:いや、『REBEL』の途中で16っぽくハイハットで叩いてるように聴こえるんですけど、あれは親分のキーボードなんですよ。
KASUGA:『REFLECTION』の頭は、『REBIRTH』の"reverse"なんですよ(笑)。いいスタッフにも支えられてるし、MOSQUITOは恵まれたバンドだなと思いますね。あれだけタイトなスケジュールの中で、時間いくらのスタジオだったら作れなかっただろうし。
──個々人がロックに造詣の深いバンドだから、古今東西のロックのクラシック・ナンバーを集めたカヴァー・アルバムをいつか是非聴いてみたいですね。
KASUGA:でも、今回も何かカヴァーをやろうと決めていろんなアイディアが出てきたんですけど、もうバラバラになりすぎたんですよ。
KYO:ボブ・ディランの『ALL ALONG THE WATCHTOWER』はアリかなと思ったんですけどね。あと、PINK FAIRIESだったりとか。
KASUGA:PINK FAIRIESは俺もいいかなと思ったんだよね。
BAKI:俺は、PINK FLOYDはやめたほうがいいんじゃないかと思ったんだけどね(笑)。自分が他でやってたことだし、オリジナル・アルバムなんだからカヴァーは入れなくてもいいんじゃないかと思ってた。でも、いいプレイを残せたし、あの曲を真ん中に入れるとA面とB面を繋ぐ橋渡しみたいな感じにもなるなと思ってさ。
──ところで、連綿と続くロックの文化が地層として日本に根付かないのは何故だと思いますか。
BAKI:本物のロックがないからだと思うよ。そこは俺、声を大にして言いたいけど。
KASUGA:それは俺も今回のアルバムの制作中に感じましたね。2010年のトレンドではないかもしれないけど、飽きることなくずっと聴き継がれていくアルバムを作りたかったんですよ。それがKYOちゃんが加入したことでより具現化できるようになったんです。ルーツを振り返りながらも前を進んでいるバンドなんですよ、MOSQUITOは。
KYO:ちゃんと今の音になってますからね。それじゃないと意味がないですから。
BAKI:アルバムももちろん聴いて欲しいけど、とにかくライヴを一度見て欲しいね。やるほうも見るほうも年齢なんて関係ない。この間、柴山(俊之)さんに会ったけど、「新しい曲を作らなきゃダメだぞ、ANAI」って言ってたんだよ。還暦を過ぎてもそうやってまだまだ貪欲なのが凄いし、俺たちもまだまだ新しいチャレンジをやっていきたいね。生き様だからさ、ロックンロールは。ロックの一瞬の刹那も大事だけど、ロールして続けていきたいよね。