バンド結成に至る発起人とも言うべきKYOYA(ds:ex. WILLARD)の脱退というアクシデントに見舞われながらも、KYO(ds:ex. MAD3)を正式メンバーに迎え入れてから早1年半。MOSQUITO SPIRALがオリジナル・アルバムとしては約2年半振りの作品となる『IN THE CROWD』を遂に完成させた。ロック純血主義を美徳とするバンドとしては、オリジナル・メンバーでのバンド続行不可能に際して一時は解散も考えたと言うが、そこを何とか持ち堪えて本当に良かったと実感できる作品だ。彼らが体現するピュアでプリミティヴなロックンロールはより一層その純度を増し、時間と手間を掛けただけあって楽曲のクオリティは過去随一。何より、KYOの妙味に富んだタイコが日本のロック史を鮮やかに彩ってきた3人──BAKI(vo:ex. GASTUNK)、KASUGA(g:ex. THE POGO、ex. LAUGHIN' NOSE)、NIKICHI ANAI(b:ex.TH eROCKERS)の歌と演奏にさらなる精彩さと瑞々しさを与えているのが素晴らしい。そして、不朽のロック・クラシックスに対する限りない愛情を感じさせつつも今日性の高いサウンドを具象化しているのがさらに素晴らしい。『IN THE CROWD』はKYOのもたらしたバンドの"再生"が"最盛"期へと連なることを雄弁に物語る一大モニュメントなのである。(interview:椎名宗之)
KYOがバンドを"REBIRTH"させた
──KYOさんの加入は個人的に凄く意外に感じたんですが、これはどんな経緯で?
KASUGA:KYOYAさんが辞めることになって、ライヴにKYOちゃんが遊びに来てたんです。そこで"あ、いいのがいた!"と思って。名前も似てるしね(笑)。ちょうどKYOちゃんがMySpaceを始めた頃だったよね?
KYO:そうですね。MAD3を辞めて2ヶ月くらい経った頃にMySpaceを始めて、来てくれたのはMUROCHINとKASUGAさんくらいだったんですよ(笑)。宅録のコメントをKASUGAさんがくれて、ABNORMALSとMOSQUITOが一緒にライヴをやるっていうから挨拶とお礼を兼ねて遊びに行ったんです。で、ライヴハウスへ入る前にいきなり、「実はKYOYAさんが今月で辞めちゃうんだけど、手伝ってくれない?」なんて言われて(笑)。
BAKI:それ、いつだったっけ?
KASUGA:2008年の3月、URGAだったね。
KYO:DAMNEDとMOTORHEADのトリビュートはMAD3も一緒にやってたし、『MARBLES』はKASUGAさんにサンプルを貰ってたんですけど、ライヴを見たのはあの日が最初だったんですよ。
──面子が面子だけに、最初は畏れ多いと感じましたか?
KYO:最初のスタジオはブン殴られる覚悟で行きましたけど(笑)。
KASUGA:スタジオの雰囲気は和やかですよ。まずはANAIさんのトークから始まって(笑)。
BAKI:そのトークがまた長いんだよな(笑)。
──初の音合わせから"これは行ける!"という手応えを感じましたか。
KASUGA:最初はアコースティック・ライヴのリハだったんですよ。KYOちゃんにはまずサポートでお願いしていて、今みたいなハードな感じとは全然違ったんです。
KYO:しかも、送ってもらった音源が全然アコースティックじゃなかったんですよ(笑)。普通にファーストとセカンドの音源だったんです。ANAIさんが参加していたので、MOSQUITOはもっとロックンロールっぽいと思っていたんですよね。それが意外とヴァラエティに富んでいて、普通にロックなんだなと思って。
──KYOYAさんありきで始まったバンドだから、脱退は衝撃でしたね。
KASUGA:当時は、正直もう続けられないかなとも思いましたからね。
BAKI:俺が一番「辞める」って言ってたしね。オリジナル・メンバーで続けるのが理想だから。できればバンドはそこで解散させて、それから新しいことをやるのが潔いと思ってた。でも今は続けて良かったし、KYOちゃんとバンドをやれて嬉しいし、こうしてまた新しい作品を作れて良かったと思う。
KASUGA:KYOYAさんが抜けた頃に、今回のアルバムのプリプロをもうやってたんですよ。曲はすでに何曲かあったから、このままバンドを潰すのはもったいないと俺は思ってましたね。
──同じリズム隊としてANAIさんのような大ヴェテランと絡むのは極度の緊張を強いられそうですけど...。
KYO:ただ、中学生の頃にTH eROCKERSやROOSTERZの『FOUR PIECES』は聴いてたし、武蔵野でその手の音楽は基礎教養みたいなものですからね。
KASUGA:MAD3のドラマーとしてのKYOちゃんはもちろんLAUGHIN' NOSEの頃から知ってたんだけど、MySpaceで発表してるKYOちゃんの宅録の曲があって、そこでキーボードを弾いたりして意外な一面を見たんですよ。
──じゃあ、『REBIRTH』のイントロで荘厳に鳴り響く鍵盤音はKYOさんが弾いているんですか。
KYO:そうです。俺の宅録をみんなに送って、「これで何かできませんか?」とアレンジをしてもらったんですよ。キーボード自体は宅録と同じものを使ってるんです。
──新たに加入したKYOさんがバンドを文字通り"REBIRTH"させたわけですね(笑)。
KASUGA:そういう引っ掛けにもなってるわけですよ(笑)。今回の収録曲はKYOYAさんがいた頃から作りかけてた曲もあったけど、KYOちゃんが入って一度全部バラして最初から組み直していったんです。当時のデモもあったけど、KYOちゃんには一切聴かせなかったし。「こういうふうに叩いてよ」ってデモを聴かせると、また違うものになると思ったから。
子供が生まれて突き付けられた責任感
──『IN THE CROWD』は楽曲の振り幅がさらに増したし、KYOさんが叩くことで音の鳴りと響きが一段と精彩を放っている印象を受けますね。
KYO:一応、まだ若いんで(笑)。
KASUGA:若いんだけど、音楽の懐が凄く深いんですよ。KYOちゃんのブログを読むと、プログレやらジャズやら幅広く音楽を聴いていて、そういう引き出しの多さがANAIさんと合うと俺は思ったんですよね。ちょうどANAIさんもマイブームでプログレにハマってた時期だったし(笑)。
──だからなんですか、PINK FLOYDの『THE NILE SONG』をカヴァーしているのは。
KASUGA:ANAIさんからの提案だったんですよ。BAKIさんもPINK FLOYDのカヴァーをライヴでやってたりもして。
BAKI:シド・バレットのカヴァー・バンドを長いことやってるんだけど、まさかMOSQUITOでやるとは思わなかったね(笑)。
──DAMNEDのカヴァーから始まって、さらに時代が遡ったという(笑)。
BAKI:でも、DAMNEDのセカンドはPINK FLOYDのニック・メイスンがプロデューサーをやってるし、全く関係ないわけじゃないんだよね。
KASUGA:微妙なDAMNED繋がりですね(笑)。
BAKI:あと、キャプテン・センシブルはシド・バレットの大ファンだしね。
KYO:ホントはシド・バレットにプロデュースを頼もうとしてたんですよね。
BAKI:そうそう。イギリスのロック・シーンの系譜を辿っていくと、シド・バレットがポップ・スターとして必ず出てくるんだよ。
──そのPINK FLOYDのカヴァーを筆頭に、本作にはロック・クラシックスへのオマージュが随所に込められていますよね。イントロがBEATLESの『HELTER SKELTER』を彷彿とさせる『FEAR』、コーラスがWHOの『WHO ARE YOU』を連想させる『THE IN CROWD』、『BECK'S BOLERO』ならぬ『NICK'S BOLERO』というタイトルといった具合に。『DARKSIDE MOON』というタイトルもPINK FLOYDの代表作を想起させますし。
KASUGA:"NICK"は"仁吉"なんですけどね(笑)。今回はレコーディング期間を長く取れたお陰でいろんなアイディアが浮かんできて、いろいろと試せたんですよ。
──冒頭のハンドクラップに導かれて始まる『REBEL』とか、アレンジがよく練られていますしね。
KASUGA:『REBEL』も最初はちゃんとしたイントロがあったんですよ。それもANAIさんが「ハンドクラップで始まると面白いんじゃない? ライヴでは俺がやるよ」って言ったことからあんなアレンジになったんです。
──作詞のクレジットがBAKIさんからバンド名義になったのは、曲のテーマやコンセプトをメンバーから募って書き上げるスタイルだからですか。
BAKI:今回は俺が煮詰まっちゃってね。メンバーはおろか、レーベル・スタッフにも助けられて何とか完成に漕ぎ着けた感じだね。
──終盤の3曲は特に明るい未来を高らかに唄っていて、歌詞の主題がいつになく前向きな感じがしましたけど。
BAKI:レコーディング中に子供が生まれたことも関係してるんじゃないかな。世の中の変化の兆しも肌で感じるしさ。リハをやって曲を作ってた頃から考えると、1年くらい掛かったから長かったよね。
KYO:レコーディングに入る前に、まず俺がバンドに馴染む時間も必要でしたから。
KASUGA:レコーディングそのものに掛ける時間はそんなに長くなくて、どの曲も1テイクか2テイクでOKなんですよ。
KYO:ドラムはどれも2、3テイクでしたね。
KASUGA:ただ、期間が長いとアレンジをじっくり煮詰められたし、その間に新しいアイディアがどんどん生まれて、また曲が出来ていったりする感じだったんです。
KYO:ベーシック・トラックはアルバム中盤の『THE NILE SONG』を一番最後に録ったんですけど、それ以外は曲順の通りに録っていったんですよ。後半のほうがレコーディングにこなれた感じはあると思いますね。
──BAKIさんが感じていた煮詰まりとは、バンドに対してのジレンマだったんですか。
BAKI:いや、自分が生きることに対してだね。バンドを辞めるつもりは全くないけど、生まれてきた子供に対して責任も生じてくるじゃない? 明日死んでもいいとは思わないけど、そんなことがあってもしょうがないかなと思って今まで生きてきたのが、そうも言ってられねぇぞと責任を突き付けられたしね。それが一番大きいんじゃないかな。それを踏まえた上で、ロックンロールとバンドがあってこその自分って言うかさ。その部分でも突き付けられたよね。