ただひたすらロックに淫し、ロックを奏でることでしか社会と接点を持てないwash?というスラッカーな4人組が奏でる歌は、1年10ヶ月振りに放たれる5thアルバム『love me』でいよいよ肉体性を帯びたプリミティヴなものとして昇華した。
歌とはその表現者が正気と狂気のせめぎ合いの中で生み出した表現の結晶であり、だからこそ我々は魂を激しく揺さぶられる。やむにやまれぬ表現欲求の果てに紡がれた歌に魂が呼応した時、唄い手と聴き手のコミュニケーションは補完される。唄い手の伝えたい思いが聴き手に届いた瞬間である。『Twilight』や『Calling you』といった歌にとりわけ顕著だが、本作は歌を介して思いを届けることに意識的なことが大きな特徴のひとつだ。他者との距離で自身を計っていた視点から、他者や社会へ積極的にコミットしていく視点へとアングルが切り替わったと言えばいいか。伏し目がちに嘲笑を繰り返してきた内気な彼らが、歌をコミュニケートの手段として聴き手と共有することに腹を括ったことが如実に窺えるのだ。
漆黒の闇の中で希望の曙光を見つけようと足掻き、遮二無二叫び続けるwash?の所作は変わらない。以前の彼らなら遠吠えを上げる対象などどうでも良く、ただ遠吠えを上げる行為自体が重要だった。だが、今は違う。神様に唾棄することなく、したたかに神様とダンスを踊る。そして、しっかりと目を見据え、聴き手であるあなたと向き合い真心を込めて"Calling"する。まさに"君に捧げる咆哮"なのだ。その全身全霊の咆哮に、あなたの感受性はどこまで応えることができるだろうか。(interview:椎名宗之)
曲を詰め込みすぎず、糊代を残す
──のっけからヘヴィな話ですけど、上田 現さんとmiya38こと宮沢昌宏さんが亡くなったことが『love me』の生まれる糸口になった部分はありますか。
奥村 大(vo, g):もちろんあるよ。日常に起こった出来事やバイオリズムみたいなささやかなことから曲を作ること、ちゃんと地に足の着いた曲を作ることが主題だからね。ふたりがいなくなったことで新たに生まれた曲もあれば、アルバムに入れようと思ってたけどボツにした曲もある。現ちゃんの『僕の思いは目的もなく月に刺さる』のカヴァーに関しては俺がずっとソロの弾き語りでやってて、南波が見に来てくれた時に「あの曲をwash?でやろうよ」って言ってくれたんだよ。wash?でやり出したのは現ちゃんが亡くなった後なんだけどね。
南波政人(vo, g):大ちゃんがアコギで弾いて唄ってるのが凄く良くてね。最初は誰の曲か知らなかったんだけど、エラくいいなと思って。"何なんだ、これは!?"って本気で感動して、涙が出そうになった。
奥村:ライヴで弾いてても心が奮える曲だったし、俺の勝手な思い込みだけど、まるで自分のことを唄ってくれてるような気持ちになれたんだよね。
南波:唄い手を選ぶんだよな、あの曲は。ただ上手く唄えてもダメだしね。
奥村:そう、唄うのが凄く難しい曲なんだよ。あと、不思議とwash?っぽいんだよね。同じコードの繰り返しの中でどんどん昂揚していく感じがあってさ。
──奥村さんは上田さんがやっていたELEのメンバーだったし、上田さんは心の師と言うべき存在でしたよね。
奥村:自分が音楽に目覚めた思春期の頃から憧れてたし、そんな人と一緒に音楽をやることになって、自分が想像してた以上に凄い人だと判った。いろんな意味で影響を受けたし、今もずっと影響を受けてる。何て言うか、上田 現ワールドみたいな確固たるものがあるんだよね。もの悲しさもあるし、ちょっと笑っちゃうおかしみもあるし、狂気にも似た怖さもある。そういうのが全部ない交ぜになって吐き出されるって言うかさ。現ちゃん以外でそんな人は知らないし、曲を詰め込みすぎない、決めすぎない姿勢は凄く影響を受けてるね。曲に余地を残すタイプだから、ライヴで凄く化けたりする曲もあるんだよ。気持ちなり風景なりを共有してりゃ何をしてもいいっていう感覚の人だったね。
──曲を詰め込みすぎずに糊代を残すというのは、『love me』の収録曲全般にも言えることですよね。
奥村:そうだね。『Slacker's high』くらいからそれを強く意識するようになった。誤解を恐れずに言えば、曲の完成型はもうどうなったっていいやって言うか。
──聴き手の感受性という最後のワンピースがハマることによって楽曲が完成すると?
奥村:うん、まさにそんな感じ。今思うと、『Slacker's high』を完成させたことはデカいね。聴き手の反応ももちろん意識はしてるけど、それよりもまず自分たちがいいなと感じる要素を厳選して作ったのが『Slacker's high』なんだよ。『love me』はその作風をさらに進化させて、宝探ししてるような感じがある。
──結成から数年はプラモデルのパーツから精巧に作り込んで組み立てていくような曲作りでしたけど、近年は太い材木から鉈でざっくりと彫り込んで具体物を仕上げる作風に変化してきたのを感じますね。
奥村:その木彫りの作品も、艶やかな女性に見える人もいれば、クマにしか見えない人もいるっていうね(笑)。今はそんなんでいいと思ってる。
──その自由度の増した感覚、今思えば何がターニング・ポイントだったんでしょうか。長谷川(道夫)さんの加入も大きかったと思いますけど。
奥村:セカンド(『真昼の月は所在なく霞んでる』)を録り終えて、もうこのモードは無理だなと思ったんだよね。次にあのモードよりも濃い世界をやろうと思ったら、同期をかましてもっと過剰にやるしかなかった。でも、それはちょっと違うなと思ってたところに前任のドラマーが抜けて、道夫が入ることになったんだよ。バンドの1/4が変わるわけだから、残ったメンバーの意識も凄く変わったよね。
南波:やっぱりみっちゃんの加入はデカいよ。単純にドラムが格好いいし、俺なんてただのファンだったからね。まさか入ってくれるとは思わなかったけど、ダメ元で誘ったんだよ。それが「やるよ」と言ってくれて、熱いなと思ってさ。ドラムもいいんだけど、人間性もまたいいんだよね。
奥村:そうだよね。やっぱり人間性なんだよ。
──同じリズム隊として、岡さんは特にバンドの変化をダイレクトに感じているんじゃないですか?
岡 啓樹(b, cho):どうなんでしょうねぇ...。
奥村:きっと苦労もしてると思うよ(笑)。
南波:ぶつかることももちろんあるけど、今はメンバー間のバランスが凄くいいよね。
人生に必要なのは"疑え、愛せ、許せ。"
──今回の『love me』ですが、一聴するとラフな音作りながら真に迫る音像という理想的な境地に達した感がありますよね。
奥村:カッチリした演奏って、未だに録りたくないんだよね。それは俺の出自がパンク生まれ・オルタナ経由だからなのかもしれないし、持ち得る力の100%以上を出してコケちゃうような人の音楽に感動してきたからかもしれない。とにかく、いい塩梅っていうのが大事なんだよ。気持ち良かったらただそれでいいと思うしさ。
──それにしても、『love me』とはまた随分と振り切ったタイトルですよね。シニカルなイメージの強いバンドなのに、よりによって"俺を愛してくれ!"だなんて(笑)。
奥村:凄いよね。みんな笑うもん、このタイトル。本気で言ってるんだけど、笑われる。でも、それが凄く美しいとも思ってるんだよね。凝ったタイトルを付けるモードじゃないなと思ったし、シンプルでインパクトがあって、笑っちゃう感じもあって、でも言ってることは真剣っていうのが良かった。
──愛されたくてバンドをやっている部分もあるでしょうしね。
奥村:もちろん。ただ、バンドをやってることでモテたことはほとんどない(笑)。
南波:うん、年々そうなってるね。男にはモテる一方だけど(笑)。
奥村:帯に"疑え、愛せ、許せ。"っていうキャッチコピーがあるんだけど、人生に必要なのはその3つだってエラそうにブログに書いたことがあったんだよ。デザインをやってくれたSHOHEIがその一文を凄くいいと言ってくれてて、それをタイトルに活かしたかったんだよね。でも、"疑え"も"許せ"も英語にすると小難しい感じになるから、"love me"だけでいいかなと思ってね。
──『key holder』から始まる頭の3曲だけを聴いても、奥村さんのヴォーカリストとしての力量が格段に増したことを感じますね。
南波:毎回、着実に歌が良くなってるのを感じるけど、今回は特に歌詞の世界に圧倒されたね。言葉の一個一個に強さがある。それは『key holder』からそうだし、あの曲をまず1曲目に持ってきたのも凄いと思うよ。
──最初の『key holder』と最後の『Calling you』は気怠いムードが漂うスロー・ナンバーですからね。『Calling you』を聴き終えてから『key holder』へとループできる構成にもなっているし。
南波:それも大ちゃんのアイディアで、凄いなと思って。俺はそんなアイディア、出てこないからね。
奥村:ライヴは速くて直球な曲から始める判りやすさも大事だと思うけど、家で何度も聴いてもらう作品にしたいと考えた時に、スローな曲を始まりと終わりに置くのがいいんじゃないかって前から考えてたんだよ。隙間が多くて、力んでないけどいい歌だなって感じの曲を作りたかったしね。『Twilight』がいい例だけど、wash?の曲はどんどんエネルギー過剰になってっちゃうのが多いんだよ。もうちょっと力の抜けた感じで作るつもりだったのに、演奏してるうちにどんどん気持ち良くなって、血管切れる系の曲ばかりになる(笑)。今まではずっとそんな感じだったけど、そこまで行かずにいい塩梅で止めることが今回初めてできた。
──『key holder』も『Calling you』も、"月"が歌詞の中で重要なファクターを担っているように感じるんですが、これは何らかのメタファーなんでしょうか。セカンド・アルバムのタイトルにも"真昼の月"という言葉が使われていましたけど。
奥村:単純に月を見るのが好きなんだよね。駐車場に車を入れて家に帰るまでに月をふと見上げたりね。燦々と照り付ける太陽も好きだけど、月を見てると自己対峙みたいな感覚になる。
──満月の夜は人を狂気に走らせるなんて言いますよね。
奥村:だから、社会性と相反するものなんだろうね。自分自身の内側に対していろんなことを思ったり考えたりするのは、他者がいない以上は狂気だと思うから。そういう時に歌詞や唄いたい世界観が漠然と浮かぶんだよ。
──南波さんが唄う『Candle』と『slip』は、いずれもゆったりとしたミディアム・ナンバーですね。
南波:みっちゃんが入ったからこそ出来た2曲なんだよね。みっちゃんのドラムだからやってみたい曲って言うか、みっちゃんだったらこのテンポは気持ちいいだろうなと思った。明らかに曲の作り方が変わってきたのを感じるよね。アコギで作った曲をバンドに持っていくと、"エエッ、こんなになっちゃうの!?"って驚くくらいに原曲以上の仕上がりにしてくれるし。俺が作ったBメロとは全然違うものになったりもするけど、常に最高の形にして飛び越えてくれる。『Candle』の途中でピアノが入るアレンジを大ちゃんが考えてくれたりね。最初は驚いたけど、俺の書いた歌詞のイメージに近くなったんだよね。
奥村:『Candle』は舞踏会みたいにしたくてしょうがなかった。もしくはクイーンだね(笑)。
南波:確かに、『Candle』のギター・ソロはブライアン・メイみたいな音になってるもんね(笑)。しかも、エフェクターやアンプの種類までブライアン・メイと一緒だから(笑)。
ロックの肌触りを失わず歌を真ん中に置いた
──『ビリーバー』や『I don't care』、『アノアレ』みたいに性急なビートを叩き付ける楽曲もありますけど、行間を活かしつつどっしりと構えた楽曲が総じて多い印象を受けますね。
奥村:「愛してよ!」って声高に叫んでも、叫べば叫ぶほど愛してはくれないものなんだよね。曲作りやライヴもそれと同じような気がして、やっぱり隙がなきゃダメなんだよ。ほら、「モテ女になるためには隙を作れ」ってよく言うじゃない?(笑) ホントそうだなと思うよ。それは現ちゃんやaeronautsから受けた影響がデカい。緩くフワッと始まって、いつの間にか凄いところまで持ってかれてる感じを自分たちでやってみたらどうなるんだろう? と思ってね。
──aeronautsとの共同企画である『猿犬』での経験値も着実にフィードバックされているわけですね。
奥村:『猿犬』はデカいね。まだまだ面白いバンドがいっぱいいるんだなと思ったし、"なんでこんな音楽が世の中でいいとされてるんだろう? 世の中の流れがさっぱりわかんねぇな"って気持ちと"ちゃんとこういういい音楽がある"って気持ちの折り合いも付けられる。
──先月号の4106さんとの対談でも奥村さんの吹っ切れた感が話題に上がりましたけど、なにがしかの呪縛が解けたことがいい塩梅の曲作りやライヴの在り方に帰結したんでしょうね。
奥村:現ちゃんとmiyaちゃんが亡くなったことは自分の人生の中でも一、二を争うくらい辛い出来事で、未だに混乱してるけど、そんなことが起こっても俺は友達と冗談を言って笑ってるし、現ちゃんとmiyaちゃんにまつわる面白話をヘラヘラ笑いながらしてるし、お腹は空くし、ムラムラもするし...それは凄く大きかったな。
──miyaさんに捧げた『台風38号』は『犬になりたい』直系のフルスロットル・ナンバーで、wash?らしいレクイエムですよね。
奥村:『台風38号』は最後に入れようと思ったんだよ。俺自身、凄く好きな曲だね。
──『僕の思いは目的もなく月に刺さる』も『台風38号』も盟友へ捧げた至上のレクイエムですが、それを単なる感傷に浸った独り善がりの歌ではなく、万人の心にも染み入る普遍的な歌として昇華させているのが見事だと思ったんですよね。
奥村:真面目な顔して涙ぐんでなきゃいけないわけじゃないって言うかさ。もちろんそうせざるを得ない時もあるけど、それで現ちゃんが喜ぶかな? とか、miyaちゃんはそんな俺を笑うんじゃねぇかな? って思うんだよね。特に『台風38号』はパーティーにしてやろうと思ってね。葬式だってパーティーだ! みたいなさ。現ちゃんもmiyaちゃんも今も元気なのが絶対いいに決まってるけど、変えられない事実として今があるわけで、だったらふたりから貰ったものをちゃんと作品にしなきゃなと思った。
──上田さんの作品を数多く手掛けていた松本大英さんが本作のエンジニアを務めたのも不思議な縁の巡り合わせですよね。
奥村:大英さんが「一緒にやろうよ」って声を掛けてくれてね。『Slacker's high』を凄く褒めてくれたんだけど、「俺ならもっと違う歌の出し方をする」って言ってくれたから、それは是非経験してみたかった。大英さんのお陰で、ロックンロールの肌触りを失わずに歌を真ん中に置くことができたね。歌を録ってて楽しいと思ったしさ。『Slacker's high』くらいからだよ、唄うことの楽しさを実感したのは。その前の3枚まではスキルがなくて、頑張らなきゃいけない山場が何ヶ所があったからね。今は、何のために使うか判らなかった色鉛筆をようやく使えるようになった感じだね。その使い所が判るようになったのはソロの弾き語りの成果もあると思うし、色鉛筆の使い所を大英さんが上手に捕まえてくれるんだよ。
──南波さんも『呑フィクション』での弾き語りの成果が如実に表れていますよね。
南波:かなり表れたね。『Slacker's high』の時よりも今回のほうがそれを凄く実感できた。最初の第一声で"行けるな"って思ったし、大英さんの力もデカいね。凄く唄いやすかった。
──結成から8年を経てもなおこうして新たな扉を開けるわけだから、バンドってつくづく面白いですよね。
奥村:いくつになっても勉強だね。自分がまだまだだと思ってさえいれば、いくらでも伸びることができる。周りには判らなくても、自分たちの中では確かな成長を感じてるよ。岡ちゃんと道夫の絡みも凄いからね、このアルバムは。『key holder』なんて、ふたりのあの絡みがなければ1曲目を張れるようにはならなかったしさ。
岡:『key holder』と『Calling you』は家で練習しようとしたんですよ。フレーズも全然考えてなかったんで。でも、練習しても無駄だなと思って。やってみて駄目ならそこで終わりだ、くらいの気持ちで道夫さんも俺もやりましたよ。
南波:ぶっつけだね、もう。ウチのリズム隊は濃いよ。
奥村:『Slacker's high』から強く意識するようになったけど、踊らせたいんだよね。ダンス・ミュージックとしてではなく、ロックンロールで踊らせたい。ただ速い曲だけで踊らせるのはアイディアとしてアリだし、俺もそういうのは好きだけど、ゆったりとした曲のリフとリズムでも揺らしたいんだよ。
人の顔色を窺うような音楽はもうやらない
──話は変わりますが、南波さんは奥村さんがa flood of circleのサポートを引き受けたことをどう感じていたんですか。
南波:このアルバムを作り始めて、いろんなスケジュールが決まってた時に大ちゃんから相談を受けてね。
奥村:floodの泊まり込みリハに参加するために、レコーディングを2、3日ずらしたんだよ。
南波:有り得ない話だとは思ったけど、そういうことを受け止めていくのが俺たちだし、そこで引き受けないヤツだったらイヤだし、俺はやって欲しいと思ったね。
奥村:俺たちはどこまで行ってもウェットで、どう転んでもドライにはなれないんだよね。ドライになれればもうちょっと人気者になってると思うけどさ(笑)。
南波:ウチの奥村が駆り出されて、これで格好悪かったら承知しねぇぞ! って思ってたけど、ライヴを見に行ったら凄く格好良くて安心したよ。
──floodのライヴでのオーディエンスの煽りも板に付いてきましたしね。
奥村:音楽を始めた頃は、客を煽るバンドって格好悪いと思ってたんだよ。ステージが勝手に盛り上がってて、客が"畜生! 置いてかれるもんか!"って喰らい付くのが理想だったから。出所がそんな感じだから、自分のバンドで手拍子を客に強要したこともないしさ(笑)。それが今じゃ、floodでは頑張ってやってるよ(笑)。
南波:floodのライヴのMCで大ちゃんがベースの石井(康崇)君にツッコミを入れたら、「大さん、そこはサポートしなくていいですから」って石井君が答えてたのが最高におかしかったな(笑)。ああいうことを言い合えてるのが凄くいい形だなと思ったよ。
──何でも今年のwash?は2月のレコ発ツアーを皮切りに全国100本ライヴを敢行するとのことで、floodのサポートをやる時間もなかなか取れそうにないんじゃないですか。
奥村:今年はいっぱいライヴをやりたいね。臆面もなく言えばwash?は俺の人生だから、まだまだ頑張って広げていきたい。ライヴを見せて嫌われるなら仕方ないけど、ライヴを見ないでイメージだけで捉えられるのはイヤなんだよ。
──歌を介して思いを届けることに意識的になって、いよいよ腹を括った感が今のwash?にはありますよね。だからライヴもハズレがないと思いますよ。
奥村:ポップという範疇の中にロックがあると俺は思ってるんだけど、"みんな、こういうのが好きだよね?"って顔色を窺いながら音楽をやるのはもうやめようって心の底から思ったんだよ。あくまでも俺たち4人が"これ、格好いいよね"って思える音楽をやろうと思ってさ。その音楽を一番届きやすい形にするべく試行錯誤した結果が『love me』なんだよね。今までは歌を軸に置いた曲を作ろうとすると、どうしても過剰に力んだ泣きの曲にしかならなかった。でも、『Calling you』も『key holder』もそれとは違った歌を軸に置いた曲だし、ちゃんと自分たちの好きな要素も詰め込まれてる。それがこのアルバムで初めてできたんだよ。このアルバムを好きになってくれた人はきっと一生離れないと思うね。俺の中では、『Slacker's high』とこの『love me』を合わせて今のwash?なんだよ。
──照れることなく歌と対峙した成果がよく出ていると思いますよ、『love me』は。
奥村:ライヴをやるのが好きすぎて、歌としっかり向き合うことが疎かになってたのかな。『love me』までの作品は全部スタジオ・ライヴで録ってたから余計にライヴ感が出てたと思うけど、今回はバラで録って音を構築していったから、必然的に歌の比重を増やすことができた。そういう宝探しがまだまだできるんだから面白いよね。自分が感動したことや閃きとかを俺は上手く言葉にできなくて、それを必死に捕まえて音に封じ込めてる。降りてくるものの純度を高めたいし、それをしっかりとキャッチできる自分でありたいね。
──251でのワンマンも大盛況で、幸先の良いスタートを切った2010年ですが、どんな1年にしたいですか。
奥村:人気者になりたいね。今までもそう思ってきたけど、その思いが一層強くなった。SHOHEI然り、大英さん然り、BLOCKHOUSE RECORDSのスタッフ然り、美人秘書の島崎然り、もちろんこのRooftop然り、持ち得る力を注いで俺たちのことを愛してくれる人が周りにたくさんいるから恩返しがしたいんだよ。『love me』を作ってる時はそれがコンセプトみたいなものだったから。恩返しするアルバムが作りたいって言うかさ。俺が影響を受けた現ちゃんやmiyaちゃんを始めとする人たちや音楽に対する恩返しもあるね。
南波:絶対の自信作を作れたから、余計に恩返しがしたいよね。月並みだけど、1人でも多くの人に聴かせたいし、そのためにも早くツアーを回りたいよ。
奥村:ワンマンも近いうちにもう一度やりたいね。昔、岡ちゃんがワンマンの選曲を考えたら4時間くらいになったことがあるけど(笑)。
──そんな、『CASE OF BOφWY』じゃないんですから(笑)。
岡:それくらいのライヴをやるためにも、人気者になるしかないですよ(笑)。