
"LOFT RECORDS"が総称を"LOFT DISCS"に変え、発足した新レーベル"BEAR HUG RECORDS"から実に3年振りのニュー・アルバム『7』をリリースしたBRAZILIANSIZE。そして、渾身の最高傑作『love me』が1月20日にリリースされるwash?。10代での出会い、そして一緒にTrophyを組んだ経歴を経て、それぞれの道を歩む両バンドのフロントマンである4106(BRAZILIANSIZE)、奥村 大(wash?)。全く違う性格ながら戦友であり親友である両者。今回はそんな両者を招いて、お互いの長所も短所もたっぷり話していただきました。(interview:森 三彩)
ドラムは巧いだけでも味だけでもダメ
──そもそも両者の出会いはいつ頃なんですか。
4106:まだ10代の頃ですね。
奥村:19、20の頃かな? 気が遠くなるくらい昔の話だね(笑)。お互いバンドマンとして出会ったと言うよりも、面白いバンドを見に行ったり、その打ち上げに潜り込むといつもいるみたいな感じだった。当時はレッチリを筆頭に、ビースティ・ボーイズやフィッシュボーンとかミクスチャーが全盛の時代で、俺たちもその影響下にあったのは間違いない。
──後年、Trophyというバンドを組むお2人ですが、最初から一緒にバンドをやる発想はなかったんですか。
奥村:最初にヨーちゃんから話し掛けてくれて、よく会うから仲良くなって、何か一緒にやろうかっていう話はしてたね。でも、一緒にやるのはバンドじゃなくて麻雀だった(笑)。
4106:Trophyは、スキャフルが落ち着いた時に「CDを出せそうだから、ちゃんとバンドとしてやらない?」って大ちゃんから誘われたんだよね。
──互いに性格が似ていると感じる部分はありますか。
奥村:熱意とか根源的なところは似てるんだけど、方向がズレるんだよ。それがちょうどいい。俺が機材おたくになると、ヨーちゃんはファッションに凄い詳しくなったりね。今日俺が着てる服も、ヨーちゃんから貰ったものだしさ(笑)。
4106:毎年、251で感謝祭と称して洋服を大放出するんですよ(笑)。
──奥村さんはBRAZILIANSIZEの『7』を聴いて、どう感じましたか。
奥村:アコギを弾いてた前のギターが抜けて、バンドの方向性が変わったんだよね。前は横に揺れるイメージがあったけど、2年くらい前から縦に切り替わった感じになった。それがどう化けるかが楽しみだったんだよ。ここ数回のライヴはハズレがないしさ。そんなバンドの勢いが『7』には凝縮されてるよね。
──あと、これまでになく歌心とポップさが増した印象を受けますね。
4106:もともとちゃんと唄いたいと思って始めたバンドですからね。このバンドの前にERSKINをやっていて、そこで歌を唄おうとしたら「歌を唄うにはこのメンバーじゃない」ってエンジニアさんに言われたんですよ(笑)。それで組んだのがBRAZILIANSIZEなんです。
奥村:前はリズムによってポップさを追求する感じがあったよね。そこに巧みなコーラス・ワークが入って俺はいいなと思ってたんだけど、2年くらい前から狙いがより明確になった気がするね。macd.のパンキッシュなギターを活かす必要もあっただろうし、俺は何よりもSHINTAROの成長がデカいと思う。あいつはリズムに専念するあまり、ライヴをショーとして捉えることに意識が向いてなかったけど、この2年くらいで一気に化けたと思うよ。レピッシュの(杉本)恭一さんも「あのパーカッションは面白い! 叩いてねぇんだもん!」って絶賛してたからね(笑)。
──緩急の付いたアレンジの『RHYTHM』に顕著ですが、全体的に真に迫る度合いが増した気がしますね。
奥村:そうだね。照れなくなったんじゃない?
4106:うん、そうかもしれないね。
──恒例の『DRUMSONG』は今回で3作目ですけど、ドラムに対する認識も両者似ているんじゃないですか。
奥村:2人ともやかましいのが好きだよね。
4106:巧いだけじゃダメだし、味だけでもダメなんですよね。同じドラマーでもバランスのいい人と悪い人が出てくるのは何故なんだろう? それを意図的に作り上げるにはどうすればいいのか? って思ってやってるのが『DRUMSONG』で、僕の中ではドラマーに対するひとつのテーマなんですよ。ドラマー諸氏からは「こんなことをさせてくれるバンドは珍しい」って言われるんですけど、僕はずっと運良くドラマーに恵まれてるんですよね。今回はParock86がリズムを考えて、それを僕が構成して曲にした感じです。
──Parock86さんは今回、『IN SIDE』で歌声も披露していますね。
4106:『IN SIDE』はもともと木村カエラに書いた曲で、当時からParock86が唄ってたんですよ。
奥村:俺は今回のアルバムで言うと、『LAST DANCE』とか『SATISFACTION』なんかが好きだね。曲とタイトルがまだ完全に一致してないけど(笑)。
──『SATISFACTION』と『HIKARI to OTO』に参加しているスキャフル時代からの盟友であるNARIさんを筆頭に、maegashiraやMIX MARKETなど多彩な面々がゲスト参加しているのも聴き所のひとつですよね。
4106:まぁ、大ちゃんは来てくれなかったんですけどね(笑)。
奥村:もちろん顔を出したかったんだけど、今回はちょうどフラッドのレコーディングやリハーサルと被っちゃってたからさ。
──リズムに重点を置きつつも縦ノリの勢いもあって、尚かつ歌の比重も高いという理想的なバランスを保っているのは『DRAW IT』ですね。肉感的なアンサンブルの妙も楽しめますし。
4106:『DRAW IT』は詞も曲もParock86が書いた曲なんですよ。Parock86は毎回必ずああいう曲を持ってくるんですけど、何せ元the PeteBestですから、歌モノの曲はお手のものなんですよね。
余白を残すことが完璧だったりする
──『LAUGH』然り、『MAGIC of WORD』然りなんですが、衒うことなく希望をテーマにした前向きな歌がいつになく多い気がしますけど。
4106:前向きなことに対してそこまで意識はしてないんですけど、面と向かって言われると恥ずかしいですね(笑)。前向きは前向きなんですけどね。でも、歌を通じて何かを伝えることが面白くなってきたし、それをできる環境がちょっとずつ良くなってきたのは確かですよ。
──腹を据えて歌と真正面から向き合うようになったり、バンドの在り方が益々自由度を増してきたのはwash?と共通するところじゃないですか?
奥村:そうだね。技術が追いついてきたっていうのはあるだろうね。あと、何と言うか、どんどん放っておけるようになった気がする。サボってるってことじゃなくて、曲をそこまで作り込まないでも曲の活かし方が判るようになったって言うかさ。
──フラッドでのサポート経験を通じてwash?を客観視できるようになった部分もありますか。
奥村:フラッドはそうあるべきバンドだと思うけど、凄く作り込むんだよね。それに付き合ってる感じだから、wash?モードでやると反省して、ちゃんとやったりするね(笑)。たとえば、俺は南波(政人)が弾いてるリードなんて毎回違ったって構わないと思うタイプなんだけど、フラッドの場合はそのリードがテーマ的なもので守らなくちゃいけなかったりする。俺も勉強になるし、凄く面白いよ。
──4106さんには近年のwash?はどう映っていますか。
4106:今までは際限まで突き詰めるようなところがあったけど、今は大ちゃんが解放された感が強いですね。
奥村:確かに、前のように心配はしてないね。今はコントロールしようとはあまり思ってない。そのほうがおもしれぇやって思うから。
──車のハンドルで言う遊びの部分が増えたと言うか。
奥村:うん。目的地には向かってるからいいやって言うかさ。何処を通ってもいつかは辿り着くだろうっていう。ターニング・ポイントとしてデカいのは、やっぱり(長谷川)道夫が入ったことだね。メンバーの1/4が変わればバンドの意識も自ずと変わるから、それをどうやっていい方向に集約していくかを模索するうちに『猿犬』っていうイヴェントをaeronautsと一緒にやり出して、彼らに受けた影響も凄く大きい。出て欲しくて呼んだゲスト・バンドも想像以上だったり、いい意味で想像と違ったり、ラッキーなことに今のところハズレたバンドはひとつもないね。そこから得たものも大きいよ。
──以前に比べて、奥村さんが能動的かつ自由奔放にバンドをやっているのは窺えますね。
奥村:セカンド・アルバムくらいで精神的にかなりのところまで落ちて、個人的な行き詰まり感もあったし、バンドも含めていろんなことを研ぎ澄ませすぎちゃったんだよね。その向こう側へポーンと飛び超えたら結構ラクになったんだけどさ。
──間もなく発売となる『love me』も過度な気負いがなくて、テーマとしてはヘヴィなトリビュート・ソングが数曲あるものの、それすらもラフに聴かせる度量の大きさを感じるんですよね。
奥村:何て言うか、気持ち良きゃいいみたいな感じが加速したんだよね。悲しい曲を悲しい時に聴いて癒される人もいれば、悲しいからこそ明るい曲しか聴きたくないっていう人もいるけど、どちらも心の何処かで快感を得ようとする作業だと俺は思うんだよ。音楽ってコミュニケーションだからさ、カタルシスを得るのはお互いが気持ち良くなった時なんだと思う。
──両者の新作に共通しているのは、音楽を通じて聴き手と積極的にコミュニケートする姿勢が強まってきたことだと思うんですよ。
4106:まぁ、片やパーティー・バンドですけどね(笑)。
奥村:初対面の人と接する時のヨーちゃんと俺の対応の違いは出てるんじゃないかな。ヨーちゃんのほうが俺よりもずっとフランクだしね。
4106:僕は真面目なことを訊かれるとまずふざけちゃいますからね(笑)。大ちゃんが凄いのは、物事ひとつに対する追求心なんですよ。飲み物ひとつを取っても、それがどうやってここまで運ばれてきて、飲んで自分が感じたことをちゃんと洞察すると言うか。僕は飲んだらもうそれでいいじゃんって思っちゃうんですけどね。歌詞にもそういうのがよく出てるし、言葉に対しての尊敬はデカいですね。
──BRAZILIANSIZEの歌詞に影響を受けている部分もありますか。
4106:これがまた受けられないんですよ。何でかって言うと、根本が全然違うからなんです。僕は大ちゃんみたいな言葉が出てこないし、すべてにおいて完璧主義じゃないんで。余白を残すことが僕の中では完璧だったりしますから。歌詞になったものを見比べると、wash?は深いなと思いますよ。敢えて難しい言葉を使ってるのか、自然とそういう言葉が出ちゃうのかは判りませんけど。
奥村:それはTrophyの頃からヨーちゃんによく言われてるよね。俺が悩むと「わざと難しく考えてない?」ってね。今は考えすぎる時間がもったいないし、一歩踏み出したほうがいいと思うけどさ。
4106:そういうのが今までのwash?には出てたんですよ。それがなくなって、"別にこれでいいじゃん!"っていう感じでライヴを見せるようになったって言うか。
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