全世界を股にかけるバンド、エレクトリック・イール・ショック(EES)の最新作『Sugoi Indeed』がスゴイ! 数年にわたる世界ツアー(まわった国は実に28カ国!)や海外でのリリースなど、とんでもなくハードな山や谷を乗り越えてきた彼ら。そんな経験に裏打ちされたサウンドは、以前言われていた「ガレージメタル」なる範疇を軽くぶっちぎり、果てしなく、しなやかに進化した。ロックンロールを貫くことは、ずっと自由でいることで、EESはそんな自由の厳しさも面白さも、すべてを体現しているのだ。このアルバムで。──海外ツアーの話を訊いた前号のインタビューに続き、今回は最新作について、おおいに語ってもらった。
(interview:前川誠)
アルバムは
その時点の記録
──いまEESは特に海外において、ツアーバンドとして成り立っていると思うんですが、そうするとCDを作る意味って薄くなったりしませんか?
森本明人(Guitar & Vocal):う〜ん、もしかしたら時代が変わっていって形態はCDじゃなくなるかもしれんけど、作品は作り続けたいな。
前川和人(Bass):いま特に日本の音楽業界はCDの売上が全てやんか。そういう意味で「作り続ける」意味は無いかもしれないけど、バンドマンにとっての作品っていうのは、やっぱり大事やで。
森本:欧米なんかだと、CDの売上だけでバンドの評価が決まる訳じゃなかったりするし。......まあウチなんかはよく「ライブが良いバンド」って言われることが多いから、それに対する挑戦みたいな意味合いはあるよね。ライブと同じくらいのエンターテインメントを、CDでいかに提供できるかっていう。いつもそれしか考えてないな。いつかは「盤(CD)も良いぞ」って言わせたいなあって。
──海外でのレコーディングを経て、CD制作に対する考え方って変わりました?
森本:「外国で録音? カッコええやん!」っていうのがまず先立つし、「うわあ、この機材『サウンド&レコーディング・マガジン』で見た!」みたいな感動があったりで......。そういう表面的な新鮮さは多かったけど、じゃあ今回のアルバムレコーディングを沖縄でやったときに何かが変わったかと言われると、それはよう分らんな。ただ単純に経験値は上がっていると思うし、日本でずっとやっていたより1.5倍くらいは良いモノが作れていると思う。
前川:アルバムってその名の通り現時点での「記録」みたいな意味合いがあるやん。そういう意味では今回だって最大限、今EESがやってるコトを詰め込もうと努力はしたよ。
伊藤"GIAN"知治(Drums):そういう意味じゃ3作目の『Beat Me!』だって、ツアーしながら作ってたから、そのツアーの感じがすごく出てたりするしね。
──ちなみに前作までは海外レコーディングだった訳ですが、レコーディングって、エンジニアやプロデューサーとのコミュニケーションがかなり重要じゃないですか。
森本:そう、それが一番心配した部分やったな。「ここのギターは今までよりも少しくぐもった感じで、かと言って抜けが悪いっていうのとは若干ニュアンスが違って......」とかな(笑)、そういう微妙な表現が俺らの英語力で通じるのかって。でも、実際やってみたら何とかなったね。アティ(・バウ)*1は俺らのライブを観て「お前らいいバンドじゃん、一緒にやろうよ」って言ってくれた人だったし、俺らをしっかり理解してくれていたからやと思う。
前川:EESがどんなバンドかっていうイメージを共有できるかどうかって、余り言葉に頼らないんちゃうかな。相手が日本人でも共通認識が無いと何も伝わらないし。でもアティは前から俺らのライブを観てくれたりしていた所為か、喋る前から共通認識があった気がする。「EESはこういうバンドなんだよ」っていうところが、ほとんど説明せんでも伝わっていた。
アティ・バウという
プロデューサー
──そんなアティさんはレコーディングにどの様に関わってくるのでしょうか?
森本:いろいろやけど、曲選びのときからスタジオに顔を出して、細かいところまで言ってくるときもあるよ。でも2枚作って共通してたのは、「俺はいろんな意見を言うけど、最終的にはキミら3人で判断を下すべきだ」って言ってくれたこと。それはありがたかったな。単純に引き出しだけを増やしてもらった感じ。
前川:あと、アティは自分のスタジオを持っていて、ミックスは全部自分でやる。だから捉え方としてはプロデュースというか、サウンドプロダクションを全部やってもらっている感じやな。
森本:ミュージックマッドサイエンティスト、みたいな。きっと彼にとっては、プロダクション作業が一番楽しいんちゃうかな。バンドってさ、録り終わるまでが勝負やんか。でもエンジニアは録り終わってからが勝負やから。
前川:そこにギャップを感じることは多少あったな。後で編集し易いようなプレイを要求してくるから。
GIAN:シンバルにティッシュ付けて音を小さくしたりね。叩いていてもなんか違和感があるんだよ。
森本:ただ結果としては、それぐらいシンバルのサステインを抑えた状態で録ってちょうど良い感じになってたりするからな。そういう「ここでこの塩加減をしておけば後でこうなります」っていうのが分かっている人やねんな。
GIAN:映画の撮影なんかでもあるんじゃない? エンディングシーンから撮り始めるから役者はよく分かってないけど、監督は完成型が見えてるっていうさ。
森本:でも、それがプロデューサーを立てるってことやからな。外部から血を入れて新鮮な驚きを味わいたいってことやから、ある程度クエスチョンがあってもやってみる価値はある。自分たちが作品に対して100%具体的な完成型を思い描いていたら、(プロデューサーは)必要ないやん。
──今回アティさんは「レコーディング・ディレクション」とクレジットされていますが、これはなぜですか?
前川:もともと次のアルバムを作ろうって話が持ち上がったとき、俺らは一番最初にセルフプロデュースでやりたいって思って。っていうのもまず、アティと2作やってすごく勉強になったし、世界トップレベルのノウハウを見ることもできた。でもそんな中で、ここはアティに任せたいけど、こっちは俺らでやりたいなっていうところが少しずつ残っていった。だから一度、この経験を活かして俺らでやってみたらどうなるんだろう、って思うようになって。あとぶっちゃけると、SELL"A"BAND *2の話が出る前はアティに頼むお金もなくって......。まあそれはともかく、アティって俺らのことをすごく気に入ってくれていて、親替わりみたいに接してくれる人やねん。だから今回もまずアティのところに話に行って、実はこういう理由で今回は自分らでやりたいんですって説明したら、あっちもそれを分かってくれて「その代わり何か俺がやれることがあったら何でも言ってくれ」って。
森本:で、SELL"A"BANDの予算が結構あったから、「これならアティ呼んで沖縄で一緒に飲めるやん」って(笑)。そしたら俺らも心配ないし。というのも、バンドの核となるサウンドはやれる自信があるけど、エンジニアとしての経験値は俺らに全く無いやん。でもアティがマイクのセッティングとかサウンドチェックを手伝ってくれるんやったら、それほど心強いものはないなって。で、沖縄に呼んでリハーサルとサウンドメイキングまで一緒にいてもらって、「じゃあ明日から俺らは頑張るから、アティは東京観光楽しんでな!」って。
前川:そう、俺らのことをよく知っていて、しかも最高のエンジニアリングをできるのはアティしかいなかったから。それで頼んだら、二つ返事で来てくれた。
森本:ジューダス・プリーストの『ノストラダムス』作った人がね。
前川:『ペインキラー』録った人ですよ。
ファンのことは
考えないで良い
──すごく贅沢な話ですよね。ちなみに今回のレコーディングはどうでした?
GIAN:今回は結構環境が違ってさ、ずっと二日酔いだったんだよね。バーッとやったらすぐ終わっちゃったから、ずっと酒飲んでさあ。
前川:とにかく早かったんだよね。3日くらいでベーシックは録り終えたし。
森本:予想はできてたけどな。前作『トランスワールド・ウルトラ・ロック』はクリックを使って、結構ライブの演奏からとは違う方法をやってみたんやけど、今回はほぼライブ感覚で録音したから、録り終わるのが早いのは当然で。
前川:今までの人生で一番リラックスしたレコーディングやったな。
──ただ作品における「ライブ感」って、メンバーが「せーの」で録ったから産まれるというものでもないじゃないですか。その点今回のアルバムは、以前のセルフプロデュース作品に比べてかなり「スタジオアルバム」としての側面が強くなっていますよね。
森本:最初の話にも繋がるんやけど、俺らは必ずしもライブっぽいアルバムを作りたい訳じゃない。ライブに負けないエンターテインメント性をもったアルバムを作りたいだけで、それは「まるでライブ会場にいるようなアルバム」とイコールではない。だからサウンドエフェクトだってかけるし、ライブで再現できないことだってやるし。
前川:思いついたことは全部やってみるしな。なんやろう、全部コントロールはしているけど、ミックスをAxSxEくん*3に頼んだりとか、自分らにできないことは他の人に頼んでいるし......とにかく、クオリティーを高く保ちたいっていうのはあったな。SELL"A"BANDのお陰もあってある程度の予算があったし、今までと違って他人のお金を預かってやっているっていう責任感みたいなものはあったし。
森本:そこに関して俺は、気楽にできたけどな。だってSELL"A"BANDでお金払ってくれたのって、ファンの人やん。そしてファンならきっと、俺らが好きなようにやったヤツを聴きたいと思ってくれるハズやから、むしろファンのことは考えないでやって良いんじゃないのって。まあ俺らも振り幅が結構あるから、「こっちのタイプの曲が聴きたかった」って人もいるかもしれんけど、概ね喜んでくれると思うな。
──振り幅に関しては今回、かなり広いと思いますよ。EESのどんな面が好きな人でも楽しめるくらいに。
森本:それは俺らには分からんな。
前川:俺らの中での意識はほとんど変わってなくって、いつも通りと言ったらいつも通りやねん。
森本:日本語と英語の比率は変わったけど。
前川:ただ意識的にこういうアルバムを作ろうと思って作ったことは一度もないな。
森本:俺らって、まだ成功もしてないし、出来てきた良い曲をどんどんお客さんに提示していくのがベストなんじゃないのっていう。要するに、俺らが自分のやっていることに飽きてないってことやな。
前川:レコード会社からお金もらって「売れるアルバムを作りなさい」って言われている訳じゃないっていう、そのアドバンテージを存分に見せるというか。可能な限りの範囲内で、自分たちのやりたいことを自由にやれたアルバムっていうのは間違いないな。もちろん全てに満足しているかというと、俺らも人間やから「ここはこうしておけば!」みたいなのはあるけど、それも次に繋がるモチベーションになるし。
森本:プレイヤーの立場から言わせてもらうと、完成した次の日から後悔は始まる訳で。でもバンドが進歩していくってそういうことやと思うし、当然俺らは日々進歩しているから、過去のモノは今より劣ったモノになっていく。でも、リスナーとしての立場からすると、今回のアルバムは今までで一番よく聴いてるよ。
長い活動の積み重ねが
ひとつに繋がった
──今回、歌詞に日本語が増えたのはなぜですか?
森本:特に意識したことはないんやけど、多分自分の置かれている環境によって自然とそうなっただけやと思う。例えばちょっと前だとずっと海外ツアーを回っていたから、俺の意識が欧米人に向かって音楽をやる方に行っていて、だから英語の比率が増えた。で、日本に帰ってくるようになると日本語が増えた。
──ということは今は、半々くらいの割合で日本と海外に意識が向いているということでしょうか。
森本:そうかもしれんね。
──ちなみに今回のジャケットは前川さんがデザインしたということで。
前川:そうそう。ウチはそういうバンドですから(笑)。全て自分らで面倒みるバンドやから。
──きっと一周回って元に戻ってきたんでしょうね。
前川:最近キャンペーンも含めていろんな人に会うようになって、EESはスゴイねって言われるわけですよ。そんな中でとあるディレクターに「キミ達は自分たちの経験が音に出ているから、音に芯がある。やっぱり音楽だけやってるようじゃダメなんだよ」って言ってもらいまして。まあそれは他人が判断することなんやけど、でも海外ツアー行ったりとか、とにかく経験値を積んできた分の違いがにじみ出てるのではないかと。
森本:最近な、ライブとレコーディングの違いというか、難しさってそこにあると思ってんねん。ライブって、演奏してない時間もお客さんと共有するやんか。例えばMCもそうやし、水飲んでるときも準備してるときも、とにかく雰囲気というか"空気"で客を呑んでなかったら、どんだけ演奏が上手くてもダメやと思う。でも、アルバムの場合はそれがないやん。そこをどうすれば良いのかが、実はまだ分かってないねん。その作業ができれば、俺は行けるなと思ってんねんけどな。
前川:なるほどな。
森本:いま前川が言ってたディレクターの人はそこを汲んでくれた訳やん。でも俺らは、もっといろんな人が汲み取り易いようにせなあかん。それはな、まだ今回のアルバムで100%できてる自信はないねん。
──今回、サウンドエフェクトがかなり効果的に使われてますが、それがその「雰囲気作り」に繋がっているのでは?
前川:そうかもしれんけど、あれはAxSxEくんのお陰もあるな。AxSxEくんとは10年来の付き合いやし、彼ほど俺らのことを知ってくれてるエンジニアはおらんし、今回はミックスだけっていう特殊なやり方やったけど、かなりこだわってくれたしな。
──かなり時間もかかったようですね。
前川:そうやな(笑)。ただ今回は、本当に周りの愛情を注いでもらったアルバムではあるな。ファンの人からはお金を預かったし、10年来の友達が死ぬほど時間かけてミックスしてくれたり、オランダ人のプロデューサーが沖縄まで来てくれたり......。俺らが作りましたっていうより、作らしてもらったというか、長い活動の積み重ねが繋がった瞬間みたいな。そのうえで自分たちでもやりきった感があるし。
──すごく幸せなアルバムですね。更に今回はエンハンスド仕様でPVとライブ映像が入り、ボーナストラックではライブ音源3曲とカバーが2曲収録されてます。
森本:ライブ映像とかは、まあ俺らが海外でこんなことやってきましたっていう紹介やね。あとカバーは、愛し過ぎているのでコピーになってます。
──完コピでしたね。ちなみに今後はどうするんですか?
森本:新しいアルバイトを探したいと思います。
──いやいや(笑)。そういうことではなくて、活動の拠点は海外ですか? それとも日本?
森本:今後は日本でも俺らが中心になっていろんなイベントを立ち上げていきたい。こないだの日本ツアーも楽しかったし。注目されているバンドが俺らのことを呼んでくれたりとか、今までの活動が具体的な形になり出しているからな。
前川:来年の春以降はヨーロッパのフェスとかいろいろあると思うけど......。
森本:やっぱり拠点は日本やで。食べ物もおいしいしな(笑)。あと4年前はロンドンに「帰る」って言ってたけど、最近はロンドンに「行く」って言ってるし、俺らの意識も日本に向いてるんちゃうかな。
──ではこれから国内でライブを観られる機会も増えそうですね。
前川:おお、頑張るんでよろしくお願いします。
『Sugoi Indeed』を作った3つの"スゴイ!"
*1 アティ・バウ
ジューダス・プリースト、ザ・スコーピオンズなどを手がけたオランダ人プロデューサー。オランダ人としては唯一、グラミー賞にノミネートされたこともある、スゴイ人。
*2 SELL"A"BAND
「セラバンド」と読む。オランダの音楽サイトで、「ユーザーがひとくち10ドルで好きなアーティストのアルバムに出資でき、5万ドルが集まったらアルバムを制作、ユーザーにCDを分配する」というスゴイシステムを運営している。EESの新作はこのシステムを使い、史上2番目に短い54日間で目標金額に達成。出資したファンは35カ国にわたる。
*3 AxSxE
「夏を古くするな!」でお馴染み、NATSUMENのスゴイギタリスト。EESのアルバムをはじめ、これまでにミックス、プロデュースした作品は多数。