今年2月には5代目ドラマー脱退というバンドの危機を乗り越えたYUEYの1st.アルバム『横殴り日差しSOUND』が遂にリリース! 音の細部にまでこだわり、オルタナ、J-POP、ファンク、ハードロック、フォークなど全てのジャンルを網羅したこのアルバムは1st.にして重量感はたっぷりの作品。今作では、ゲストミュージシャンに中村圭作氏【Kowloon、toe(サポート)、木村カエラ(サポート)など】を迎え、キーボードのメロディーが音により深みと臨場感を与える。また、歌詞は自分から湧き出る言葉だけを綴るスタイルで、YUEYの人柄も知ることができるだろう。
今回は、ボーカル・ギターの比嘉 祐にお話を伺った。そして感じたのは、彼は捻くれてなんかいない、真っ直ぐなだけだと。それが楽曲にちゃんと表れているのは、YUEYの魅力のひとつではないだろうか。(interview:やまだともこ)
歌詞に嘘はいらない
──『横殴り日差しSOUND』は1st.フルアルバムになるんですね。
比嘉:そうなんです。今までがミニアルバム(『室内MUSIC』)とマキシシングル(『赤い鉄塔』)なので、1st.フルアルバムを出せるなんてとテンション上がってます。
──最初からフルの予定でしたっけ?
比嘉:最初はミニアルバムの予定だったんですが...。時間があまったので増やしたんです。
──時間があまった?
比嘉:本当は昨年の秋にミニアルバムでリリースする予定でいて、何回か出来上がっていたんですけど何回か壊したんです。ミキシングがイメージと合わなくて変えて下さいって。それで3ヶ月ぐらいずれてしまいました。そしたら、今度は時間があまったので曲を足してフルアルバムにしたんですよ。
──ミキシングはどんなところにこだわりたかったんですか?
比嘉:くるりの『アンテナ』というCDがすごく好きで、そういう感じにしたかったんですが出来上がったものを聴いたら僕の想像していたものと違ったんです。それでおかしいなって事になって、J-POPのミキシングをしてくださいってお願いして、歌を聴きやすくして、ギターが好きなのでギターの音を大きくしてもらい、モコモコしていると核が聴こえづらいから音質もわりとクリアにしてもらって。これが今の実力かなと思っています。今出せる全力のところはやりました。
──ミキシングはエンジニアさんにお願いした部分が多かったんですか?
比嘉:ほぼエンジニアの池田(洋)さんにやっていただきました。横で見ながら、プロの現場を知りたかったんです。今までは自分でやっていたので、人に任せるとどうなるんだろうって。
──アルバムタイトルの『横殴り日差しSOUND』は、インパクトがあるものを付けましたね。これは?
比嘉:そのままですよ。『横殴り日差しSOUND』です。
──...そのまま?
比嘉:横殴りの日差しって哀愁があるじゃないですか? 秋とか冬の終わりは季節の変わり目で日差しが強いんです。季節の変わり目に首都高を走ったら、日差しを除けるカバーの意味も全然ないぐらい眩しくて前が見えなくて。ジャケットの中の、太陽の光が車の中に差し込んでいる写真は全く加工してないですから。その時に避けられない日差しを音楽に例えて、完全にニュアンスなんですが横殴りの日差しのような音楽って耳に残りそうだなというところから、"横殴り日差しSOUND"ってかっこいいんじゃないかって思っていたんです。それで、いざリリースする時にタイトルを決めなきゃいけなくて、自分がなりたいものとかこういうCDを出したいというイメージがそのままアルバムタイトルになったんです。素直な気持ちを込めていますよ。
──アルバムのコンセプトとしては、どんなイメージで作っていったんですか?
比嘉:君と僕を繋ぐ為の歌を中心に、日常に起きていることを考えて作りました。
──君と僕が中心でありながら、どの曲も君と直接会話をしていないところは趣があって良いですよね。思い出して歌っているという感じがして。
比嘉:相手にとって暑苦しい存在にはなりたくないけど、どこか寂しいと思っていて、その気持ちに気づいてくれたら嬉しいなと思っている感じですね。
──歌詞を読んでいても、自分に向けた自分のための歌という感じに取れますし。
比嘉:ほとんどの曲が特定の誰かに向けて歌っていないし、一緒に頑張ろうぜ! とか元気になれよとか走り出せとかいう歌は好きじゃないんです。暑苦しいじゃないですか(笑)!? お前だけ走れよ! って思っちゃうんです。
──勝手にやれよって?
比嘉:なんか聴き手に媚びを売ってるみたいで嘘っぽく感じちゃうんですよ。それを本当に心から作っているのかと、僕の場合は疑問に残るんです。曲は自分のために書いているんじゃないのかなって思うし、やたらラブソングが多かったりすると、ラブソングなんて大事な人に向けた1曲でいいじゃないかって思いますね。だから簡単に「愛してる」とか言うのが嫌いなんです。
──自分一人で、自分の世界観を作り上げるほうが向いてるんですか?
比嘉:曲を書く時は閃きだったり、きっかけだったりするんです。昨年、歌詞がどうしても出来きない曲があったんですが、悲しいニュースをテレビで見て一気に詞が書けて、自分の気持ちが落ち込んでいる時にこの曲を聴いたらラクになれるなと思える曲が出来たんです。応援歌とはまた違うんですけど、この曲を聴いた人の何かを変えてあげることができるかもしれない、見えない心の壁を取り払ってあげられるかもしれないなって。素直な気持ちやメッセージがない曲が悪いと言いたいわけではないんですけど、歌詞にする言葉は嘘であって欲しくないって思っているし、自分はそういう曲を作りたいとは思っていないんです。だから、曲の出来るペースは遅いですけど、急かされて絞り出して作るよりは自然と湧き出た言葉で届けたい。その気持ちがないと曲が書けないんです。
──今回も湧き出た言葉を綴っている、と?
比嘉:わりと素直に出ていると思います。『YUKARI』は歌詞もわかりやすいと思いますよ。男の人が大好きな人に向けて作った歌詞なんで、タイトルには昔付き合っていた彼女の名前を出したんです。これはYUEYの代表曲になってますよ。
──昔の彼女の名前が全国流通になるって大胆ですね(笑)。
比嘉:まぁ...。でもこうしたほうが、より感情を入れることができるんですよ。男なりのちょっと女々しい感じが出てますよね。今は彼女はいないんですけど...。
──その主張は特にいらなかったですけど(笑)。このジャケットの少年が気になってしょうがないんですが...。なんで風景の中に、トイレに駆け込む少年が写ったものを採用したのかなと。
比嘉:少年と言うか、これはベースの小笠原なんですよ。首都高のサービスエリアのトイレに駆け込んでいます。「もうだめだー」っていうぐらいのところです。ダサイですよね(笑)。写真はかっこいいのに、ポイントになりました。
テクニック以上に伝えたいものがある
──『常磐LINER』の歌詞を読みながら、比嘉さんは東京に疲れているんじゃないかと感じた部分がありましたが、そんなことはないですか?
比嘉:疲れてはいないですけど、東京はそういうイメージが強いんです。悲しいニュースがあっても、すぐに新しいニュースが入ってくるから2〜3日で忘れ去られてしまう。目まぐるしいですよね、ここは。その中で生きていく人たちの中には、どこに軸があるのかわからなくなって自分を見失っている人が多いと思うんです。何のためにここにいるのか、どんな目標を持って何をしに来たのか。これはほとんど僕自身や周りで起きていることを書いているんですが、僕はバンドがやりたいと思って上京して、この気持ちが折れたことは一度もないんです。で、あなたはどうなの? じゃないですけど、一緒に上京した友達の中には地元に帰る人もいて、そういう人たちに向けて歌っているんです。
──比嘉さんが上京したのはいつなんですか?
比嘉:18歳です。高校を出てすぐに、バンドがやりたくてギターとエフェクターを1個持って出てきました。大阪や東京は音楽の中心だと思っていたので、本当は家を出る口実として適当に大学を決めて出ようと思ったんですが、親の猛反対を受けまして...。中途半端なことするなら、ちゃんと音楽の専門学校に行けと。母親とは毎日ケンカしていましたね。今でこそ応援してくれて、音楽のことに口を出してきますけど(苦笑)。「沖縄の方言で歌った方がいいんじゃない?」って。それを受けてというわけではないですが、1曲だけおばあちゃんに向けて書いた曲(『いちまでぃん』)があって、今回レコード店の特典で付きます。
──夢を持って出てきて、今でも東京はやっぱり刺激がありますか?
比嘉:はい。僕が一度も心が折れることなく音楽を続けていられるのは、音楽をやってる仲間が近くにいることですね。同い年のThe Mirrazからは特に刺激をもらっています。音楽性は違いますけど、どこか似てるんですよ。彼らがいなかったらウチらもいないかもっていうぐらい。刺激し合える仲間だし、尊敬できる。音楽って人と人の絡みじゃないですか? 地方から出て来ている人が多いから、幼なじみでもなんでもないけど、踏ん張って頑張っている人を見ると自分と同じような時間をコイツも過ごしてきたんだろうなって共感できるんです。だらだらと東京に残ってるヤツを見るとやめちまえって思いますけど(笑)。The Mirrazは伝わるんです。何も言わないですけど、鼓舞されると言うか。中心人物の和田君と畠山君の2人は、YUEYと同じベースとギターボーカルなんですけど芯がブレないんですよね。うちのオガッチは何度かブレていますけど...と言うか、ブレブレですけど(笑)。でもオガッチは人に付いていくタイプなので、主導権を握りたい僕とは合うんですよ。
──今年の2月には5代目ドラムの杉本さんの脱退がありましたが、それでもバンドを続けたいと思う気持ちはどういうものなんですか?
比嘉:やりたいことができるというのが一番ですね。曲ができるとスタジオでお披露目するんですが、アレンジはメンバーに自由にやってもらうんですよ。それは、僕が持ってきた曲を壊すのはバンドじゃないとできないからなんです。サポートメンバーだったら、こう弾いて下さいと言えば弾いてくれますけど、バンドの力がないと出来上がらない曲ってあると思うんです。今回ドラマーが替わり、ジョーさん(杉本)がアレンジしたものを今のドラマーが叩くのには苦労しているみたいです。そのアレンジはジョーさんにしかできないものだったりするので。その人にしか出せないものの固まりがバンドサウンドなんですよね。その魅力を充分に感じています。あとは、今まではマネージャーが言うことを素直にやっていましたが、もっと自分達が軸になってもいいんだなということはThe Mirrazから学びました。バンド内も心機一転して、やりたいことが増えていますよ。今まではツアーにあまり行けなかったので、今年はライブをたくさんしたい。演奏は楽しいし、人前に出るのも好きだし、ライブハウスは神聖な場所ではなくてバンドマンにとっての日常にしたいんです。だから、どんどん曲を書いていって、僕たちは曲で表現したい。評価とか判断は僕らが作るものじゃないので、好きに動いて評価されなかったらしょうがないけど、大事なのは自分たちらしく動くこと。僕は音楽を通してパーソナルな部分を表現していきたいんです。音楽はバンドとお客さんの架け橋だと思っているので。だから、バンドの仲が良くないとかもっとちゃんと弾いてよとか言ってる人をたまに見かけますが、ミスしたっていいのになって思うんですよ。テクニックも大事だけど、他に伝えるものがあるんじゃないかと思っています。
──テクニックも大事だけど、気持ちや人を音楽で伝えていきたい?
比嘉:だからジョーさんの脱退から、次のサポートメンバーを決めたのは大きかったですよ。テクニック的にはジョーさんはすごくうまかったんですが、今のドラムは僕らを好いてくれて、すごく練習してきて、伝わってくるものがあって、コイツといるとモチベーション上がるなって思えたんです。その姿を見せられると、人間って行動で伝わるんだなと思うし、お客さんに対しても気持ちをちゃんと伝えようって思うんです。僕、口より行動で表してくれる人が好きなんです。ライブだって、良いライブを1回やればそれだけで説得力があると思うんです。口で言っていることが真実だろうが嘘だろうが、行動に説得力があれば良いと思っているので。「愛してる」とか言うなっていうのはそういうことですね。
音にも嘘をつかず一発録りで
──『眼鏡』のような雰囲気のある壮大な曲が出来きるというのは、バンドが進化している何よりの証拠ですよね。
比嘉:キーボードを中村圭作さんに弾いて頂いた曲ですね。やっぱりプロの人は違いましたよ、音も表情も。YUEYの音を聴いてもらって、その場で音決めをしたんですが、こちらの要望にもパッパッパと答えてくれるんです。YUEYの良いところを引き出すフレーズを弾いてくれました。『常磐LINER』はエレピが入ってますけど、これはシティーポップっぽい感じがしますよね。
──『常磐LINER』は、新しいことに挑戦したなという印象を受けました。以前インタビューの時に次はテンポが早い曲や言葉をたくさん詰めた曲ができるかもとおっしゃっていたのは、この曲になるんですか?
比嘉:言葉を詰めたのは『常磐LINER』で、テンポが早いのは『音波』ですね。『音波』はBPM165の3連符なのでめちゃくちゃ早いんですよ。これをずっと縦ピッキングでやっているので弾いてる方は必死なんです。メタルっぽい感じになりました。『常磐LINER』は言葉の数が普段より断然多いので、歌詞を覚えるのが難しいですよ(苦笑)。
──速弾きの練習の成果は『音波』に出ているのかなと思いましたが。
比嘉:速弾きの練習は今もしていますが、方向が変わって最近はのスティーヴィー・レイ・ヴォーンのような"味"もYUEYの楽曲に取り入れたいと思っているんです。
──味と言えば、アコギでポツリポツリと歌われる『あの子』や『眼鏡』は言葉数が少なく、ギターを聴かせる楽曲でこれがYUEYのイメージだったな、と。
比嘉:言葉数があまり多くない方が良いんです。『常磐LINER』はそういう意味で、作れるかなって作ってみたらできたんです。『眼鏡』は歌詞がすごく少ないんですよね。
──少ないけど言葉は伝わりますね。
比嘉:たくさん言いたくないけど気持ちは入っているので伝わると思うんです。聴く人はすごく聴きやすいと思います。バラードって歌詞が多くて長いじゃないですか? 『眼鏡』はサビは1回でそのままギターソロで行こうと。
──そのわりには5分ぐらいありますよね?
比嘉:テンポがBPM63なんです。普通このテンポならもっと長い曲になるんですけど、その半分ぐらいの長さですね。無駄を全部省いたんです。イントロもあったけど雰囲気作りとかいらねえやと思って、歌とギターで入ってAメロやって、BメロとかCメロに行きたいんだけどジャーンで終わって、間があってサビに行こうって。サビの後に余計なものを付けないでギターソロで終わろうかなって。
──サビ以降の盛り上がりが良いなと思ったんですが、これは今後名曲に成り得る曲ですよね。
比嘉:なればいいんですけどね。聴き手の評価次第ですよ。
──歌詞は、普段どうやって書かれているんですか?
比嘉:耳に残った言葉をメモしているんです。どこかの総理大臣が「変わらないように人間は変わるんだ」って言った意味深な言葉をメモしたり、フレーズが短いのに詰まっている言葉とか。たくさんありすぎて思い出せないですけど、くだらない言葉もキャッチしてます。シンプルだけどすごく響く言葉ってありますよね? そういう言葉が好きなんです。
──言葉はシンプルで良いと。
比嘉:説得力があるかないかの問題です。嘘とか大っ嫌いなので。
──比嘉さんのその言葉は、そのままバンドに反映されてますよね。
比嘉:CDを聴いてもそんなにうまくないと感じるかもしれないですし(笑)。でも、ありのままですよ。ほとんど一発録りで。
──音にも嘘はつきたくなかったと? 今、パソコン等で簡単に音を修正できますが、ほとんどやってない?
比嘉:ほとんどないです。
──音楽が自分をさらけ出せるところになるんですか?
比嘉:音楽は、さらけ出せるツールですね。
曲がポンポンできている
──季節的にも、この時期にリリースになって良かったんじゃないですか?
比嘉:あとは、バンドの中身も整理できたので時期としては良かったですよ。ドラムはまだまだこれからですけど、モチベーションを上げてくれるし。そしたら曲が急にポンポン出来ていて詞が間に合わないぐらいですよ。最近のライブも良くなっているし、最高に調子が良いですよ。
──ライブもガラッと変わりました?
比嘉:歌が前に出るようになって、シンプルになりました。前はテクニックを押してましたけど、今は表情全開でブレイクダンスみたいにクネクネ・カクカクしてるみたいで「キモイ」って言われます。
──「キモイ」は褒め言葉ですか?
比嘉:...褒めてはないですね。
──今回はツアーもたくさん回りますし、もっと変わっていきそうですね。
比嘉:次の音源の構想も出来ているので、年内にはもう1枚リリースしたいと思っています。毎月1曲はmy spaceにデモをあげようかと思っているんです。そのぐらい調子が良いです。新しいジャンルをまた取り入れていきたいですね。昔はミドルテンポが多かったんですけど。今は良い反動で、ファンキーな曲もあるし、メタルやヒップホップもあってジャンルレスになってきましたね。自分達でも「こんなこともできるんだ!」っていう発見もあって。素直にドキッと来たものをやってるだけなんですけどね。
──楽曲のアイディアとして、CDはけっこう聴いているんですか?
比嘉:CDも聴きますけど、スタジオに練習行った時にそこで流れている音楽にドキッとしたりしますね。アンテナをずっと張っているのですぐに引っかかるんですよ。テレビから流れてくるパチンコの音のループする感じは面白いなとか、でも打ち込みはあまり好きじゃないなとか。ドラムにヘッドホンでクリック聴いてっていうのが好きじゃないんです。やっぱり、3ピースで表現できるのが一番良いですね。
──これまでの話を聞くと、比嘉さんは、いろんなところで捻くれてると言われていますけど、本当は全然捻くれてないですよね。素直に言葉を出しすぎて逆に捻くれてるって思われちゃうんだと思いましたよ。
比嘉:僕は素直だと思いますよ。
──自分で言っちゃいましたけど(笑)。
比嘉:ホントに、素直なんですって(笑)!! 嘘を付いて自分を取り繕いたくないですからね。