身近にある風景を切り取り、誰にも訪れる日常をポツリポツリとつぶやいているような詞。サウンドは、暴力的でもあり、それでいてどこか切なさも持ち合わせた楽曲を聴かせる3ピースバンドのYUEY(ユウイ)が4月23日に『赤い鉄塔』をリリースする。強烈なギターリフでオルタナティブロックを全面に出した表題曲『赤い鉄塔』から始まり、ファンクを全面に打ち出した『マナーモード』、和のサウンドが印象的な『1 Call』まで、それぞれの個性を放つ全4曲。若干ひねくれ気味のサウンドに、言葉少なめに伝えられる歌詞は、じんわりと体に浸透してくるようでもあり、気付くとYUEYのサウンドにどっぷりと浸かっていることに気付く。
楽曲からも想像できる通り、どこか癖のある人たちだろうという予想は全く裏切ることなく、人間的にも音楽的にも一癖も二癖もある彼らに注目! (interview:やまだともこ)
歌も楽器のひとつ
──Rooftopには初登場になりますので、YUEY結成の経緯をお話いただきたいのですが...。
比嘉 祐(Gt/Vo):僕とオガッチ(小笠原 芳徳/Ba)が1999年に上京して東京の専門学校で出会い、授業の一環で組んだバンドが母体となっています。僕はその時からメンバー探しをしていて、当時はキーボード・ドラム・ボーカルが女の子で僕がギター。ベースを探していたら、オガッチがものの見事に引っかかりました。その後、キーボードとボーカルが抜ける時に僕がギター・ボーカルになって、そこからドラムがポンポン変わって行き、今4代目のドラムです。音楽的には問題なかったんですけど、人間なのでいろいろとあって趣味でやるならいいけど本気でやるとなると求めることが多くなりますよね。そしたらおもしろくなくなったと言われたので、「それなら辞めてしまえー!!」って大げんかですよ。昔はしょっちゅう切れてストイックにやっていたんですけど、あんまりストイックにやるとみんな辞めるぞってわかりました(笑)。
──なるほど。バンド名は比嘉さんの名前から取ったんですか?
比嘉:まさにその通りです。違うバンド名で活動していた時期もありましたが、僕がオーストラリアに留学した時に呼ばれていたニックネームで仮に付けていたのが正式なバンド名になったんです。
──バンドを始めた当初はどんな音楽をやっていこうと思っていたんですか?
比嘉:考えてなかったですね。出たらそのまま出すというスタンスで、スピッツみたいだったり、ミスチルっぽかったり。方向性をちゃんと考えたのは1人目のドラムが辞めた時です。歌い方も違っていて、今の歌い方にしたのが2003年。周りは"初期くるり"って言いますけど、僕はHermann H.&The Pacemakersみたいなバンドになりたかったんです。今もヘルマンのCDは持ち歩いています(と言って鞄から出す)。
──今でも目指すところではあります?
比嘉:今はそういう感覚はなくて、最初に戻って出てきたものを出すという感じです。この3人でやっているので、どんな面白いことをやっても行き着くところは同じだと思っています。
──試行錯誤して、今はバンドも音楽性もこの形が一番いい状態ですか?
杉本 亮平(Dr):そうですね。自分たちの価値観の中で"とにかくいいもの"というところが目指すべきものです。
──『赤い鉄塔』を聴いて、歌を大事にするバンドなのかなと思いましたけど意識はしてますか?
比嘉:歌詞はちゃんと考えているので、意識していると思われてますね。歌も楽器のひとつだと思うので、手を抜くと中身がないリフみたいで嫌いなんです。だからちゃんと考えて乗っけていますが、特に歌を意識していると言うわけではないんです。ただ、ストレートな歌詞を書くことは好きじゃなくて、「愛してる」という言葉にしても、そういうのは言うものではなくて相手が気付くものだと思っているんです。そうやって言葉を選んで感情を乗っけて歌うことによって、それがひとつのリフになるんです。
杉本:楽器同士でどんどこぶつけていこうというところです。
──歌詞は日本語でというのは変わらないんですか?
比嘉:できたら英語でもやりたいですけど、僕の気持ち次第で特にこだわりはないんです。
──では、一番こだわっているものは?
比嘉:あまのじゃくなので、ひねくれた構成が好きなんです。人がやらなさそうなやつを探してやってます。『赤い鉄塔』はひねくれてないように聴こえると思いますけど(苦笑)、曲中にテンポを遅くしたり、隙間を空けたりしてます。
──『赤い鉄塔』は、ひねくれているというよりは、わかりやすく聴きやすいという印象でしたよ。
杉本:聴きやすいかもしれないけど、それは楽曲に助けられてますね。演奏だけ聴くと「なんでこんなことをやってるの?」っていうのが散りばめられているんです。でも、今回はそんなにひねくれたところはないかもしれないですね。ひねくれたものはやりすぎてもよくないので、歌と曲全体が生きているというのは理想型です。ただ、自分のプレイで言えば『マナーモード』は普通に叩いていなくて、毎回違うアレンジだったりします。
──今回はギターを重ねてみたりとか、 ギター・ベース・ドラム以外の楽器を入れたりとかではなくて、3人ができる3人の音が入ってますね。
比嘉:ライブっぽくしたかったので、実際ライブで出来るような感じで録っているんです。ファーストの『室内MUSIC』では音が厚かったりするところもあるんで、実際ライブでできるかって言われたらできないんです。今回はライブに忠実に。どっちも好きですけど、コンセプトの違いがありますね。3作目を作る時はまた違った感じでやりたいなと思ってます。
詞は耳に残らないと意味がない
──『赤い鉄塔』は夢を背負って上京して、シンボルでもある東京タワーを描いた作品なのかと思いましたが。
比嘉:全くそんなことはないんです。オガッチが、首都高から東京タワーが見えた時に「祐くん、東京タワーの曲作りなよ」って言ったのがきっかけ。東京タワーに対して、そこまで深く考えたことはなかったですね。
──でも、東京タワーは行きました?
比嘉:行きました。デカイですね。ビックリしました。
──東京タワーを敢えて"赤い鉄塔"としたのは、先程ストレートに行くのは好きじゃないという話に繋がるんですか?
比嘉:はい。曲中では言ってるんですけど、タイトルでは言いたくなかったんです。
──杉本さんは、比嘉さんが持ってきた曲をどういうイメージで演奏していますか?
杉本:曲や歌詞を聴いて、自分ならどう解釈するかということを考えていますよ。曲調からイメージすることが多くて、『rainman』ならどうしたら雨粒的なドラムを叩けるんだろうって考えて、ストレートなロックなのにライドシンバルをジャズみたいに叩いてみたり、曲ごとにいろいろと変えてますね。『赤い鉄塔』はストレートにいっちゃえ!っていう感じで叩いています。
──フレーズは個人個人で考えていくんですか?
杉本:その場で思いついたものを出して、良かったらそのまま進めるという感じです。でもフレーズが出てきて、歌が変わる場合もありますよ。
──先程お話に出た『rainman』ですが、テンポが良いのにスロウで曲が進んでいく感じがしたんです。間奏が多いというか、言葉も詰まってないですし、のんびりと進んでいきますね。
比嘉:確かに言葉が少ないです。詰めて歌うより、隙間を空けた方が言葉って重いんですよね。
杉本:そこで感情を出しちゃっているんでしょうね。
──全体的にも1曲に詰める言葉は少なめですよね。
比嘉:少ない方が性に合っているというか、言葉が多ければいいってもんじゃなくて、耳に残らないと意味がないですから。シンプルで中身が詰まっていて、曲も短くてっていうのが理想です。歌詞も短ければ短いほど届きやすいと思っています。細かく言ってる方が説得力がないんですよね。
杉本:言葉が多いと押しつけがましくなっちゃう。一人一人で行間を解釈してくださいって思うんです。そうやって自分なりに解釈して聴いてもらえたら嬉しいです。
──詞は日常を切り取ったような感じですけど、普段思ったことを詞に書き留めることは多いですか?
比嘉:常にノートが鞄に入っているんですけど(と、今度はノートを鞄から取り出す)、思いついたことはすぐに書き留めておいて家でまとめるんです。曲や詞でかっこつける必要はないですからね。自己表現だから何でもいいはずなのに、変なことしてるって思われがちなんですよ。
──3曲目の『マナーモード』は甘く切ない感じですね。
比嘉:一緒にいる時ぐらいマナーモードにしといてよって。仕事の電話でも休みの日ぐらい電話切っとけよ。...と、女の子目線で作りました。最後の『1Call』は、似た境遇の人がいたらわかってもらえるんじゃないかな。この曲は3〜4年前の曲で、当時はバンドでCDを出せる状態でもなくて、メンバーチェンジも激しかったし、友達の事を思ってる余裕もなくて、ずっと走っていました。一人でやるタイプなので背負い込んでいたんです。がんばっている人ほどこの歌詞はわかってもらえると思います。
3人の限界に挑戦したい
──今回の4曲でレコーディングはどうでした?
比嘉:いつも自分たちで録るんですけど、毎回レコーディングの仕方を変えていくんです。いい音で録るにはトラックをたくさん使ったりMTRを使うのでアナログなんです。それが大変でした。もっとゴージャスにしたいところもありましたけど、今回はライブっぽくしたいと思ったので、アンプにマイクを2本使って録ったんです。音を混ぜたり、ベースの音が悪いから録り直したり、歌もコーラスにすごく時間をかけました。
──全体的には?
比嘉:2ヶ月ぐらい。
──全部自分たちで?
比嘉:基本そうですね。お金がないので...(苦笑)。
──切実ですね。というか、比嘉さんが言うと気の毒に見えますね(笑)。そういえば、『1Call』に「昨日の事など脇の汗のようさ」というフレーズがありますが、これはどういう表現ですか?
比嘉:特に意味はないんです。無意味な事に意味があったりとか、意味がない言葉に意味があったりするので、聴いた方にそれぞれ受け止めてもらえれば。でも、その言葉じゃないとダメなんです。
──脇は好きですか?
比嘉:いきなりどうしたんですか!?
──異性の脇が好きな人っていますよね。
杉本:フェチ的な話ですか(笑)。ご想像にお任せします。
──はい(笑)。次の作品の構想は、もうできていたりするんですか?
杉本:どうしよっかなーっていう感じです。やるんだったらガラッと変えたいとは密かに思ってます。
小笠原:今よりいいのを作りたいよね。
比嘉:今作ってる曲がラップ調で言葉がすごく多いんです。初挑戦ですよ。ライブでやったら際立つし、面白いかなと思ってます。
──今後バンドとしてこうなっていきたいというのはありますか?
比嘉:普通にはなりたくないですね。バンドって続けていくと飽きるというイメージがあるんですが、そういうのにはなりたくない。これまではメンバー間がごたごたしていたので飽きるとか以前の話でしたけど(笑)。今は、常に新しいことに挑戦しているつもりなので飽きてはいないです。あとは、3ピースでできることをしたいです。3人で表現できる限界に挑戦したいです。いろんなジャンルをやりたくて、鞄の中に『地獄のメカニカル・トレーニング・フレーズ』(速弾きの教則本)が入っているんですけど...(と、また取り出す)。
──鞄の中に何でも入っているんですね。
比嘉:はい。速弾きをしても、歌うのも弾くのも僕らなので何をやっても僕らにはなるんです。それが許されるバンドにもなりたい。結果はそれをやった上で付いて来ればいいかな。
杉本:普通じゃないものを求めて行きたいです。
小笠原:僕も同じですね。あとはいっぱいライブをして、地方にも行きたいです。
杉本:とにかくインパクトがある。それでいてインパクトだけじゃなくて、何か残るようなバンドを続けて行きたいです。
──リリースして、勢いのあるツアータイトル『君住む待ちへ一跳TOUR』もありますね。
杉本:思い切った感じでライブをやれたらと思ってます。
──では、ライブに足を運んでくれる方々に一言ずつお願いします。
杉本:比嘉くんの動きがおかしいのでそれを見てもらえたらと思っています。
小笠原:男気溢れるベースに注目してください。
比嘉:僕らはライブバンドだと思うので楽しいと思います。ライブが好きになれるバンドです。それを知って頂けたら嬉しいです。よかったら来て下さい!! あと、ライブに来て頂くとジョーさん(杉本)の天気予報が聞けますよ。