イヤでも耳にこびり付く独自の音を作りたい
──防音用のスポンジも彩りが綺麗ですよね。
PAN:あれも見た目優先(笑)。音響に詳しい人が見たら「何じゃ、この張り方は?」って思うだろうけど、自分の中ではデッド過ぎず響き過ぎず、バッチリなんだよね。
──そのデッド過ぎず響き過ぎずな音の感じは、今回の『ROLL ON GOOD!!』にもよく出ていますよね。
PAN:うん、出てると思うよ。モノラルでああいう圧縮感と言うかピーク感を出したかったから。まぁ、今回のレコーディングで良くも悪くも課題点が自分の中にはあって、次に作る時にはクリアしたいと思ってるけど。
──その課題点というのは?
PAN:それはマニアックな機材の話になってくるんだよ。「ここの音はあの機材を使いたい」っていうような感じ。「今はドラムの音がこんなだけど、あの機材を使えばこんな音になるんじゃないか?」っていうね。だからいつかその機材を手に入れて、ウチの狭い階段を通すんだ! って思ってる(笑)。またバラすことになったらイヤやけど(笑)。
──『ROLL ON GOOD!!』を聴くと、ドラムとベースの音が随分とぶっとく録れるんだなと思いましたけどね。ぶっといけど抜けも良いと言うか。
PAN:そうそう。今まで録ってきたスタジオでは録られへん音やったから、それだけでも良かったと思ってる。今までと同じような音になったら意味がないと思ってたし、プレイバックして聴いてみたら予想外にいい音だったからビックリした。
──でも、まだまだこの「GRAND-FROG STUDIO」は発展途上にある、と。
PAN:まだまだこれからやね。欲しい機材がいっぱいあるし。でも、その欲しい機材っていうのが1940年代とかだんだん年代を遡っていくから、どうなってしまうんだろう? って自分でも思ってる(笑)。おっきいし、重いしね。
──このスタジオを使った他のメンバーの感想は?
PAN:みんな120%満足してもらったよ。今回はミックスも俺がやったから、凄く信頼を置いてくれたと言うか。録り音ですでにいいのは判ってたから、ミックスし終わった音を早く聴いてみたいっていう願望がみんな強かった。加工してる調理段階は余り見たくなかったみたいだね(笑)。「あの材料を使ってどんな料理が出てくるんだろう?」って食卓で待ってるような気分だったんじゃないかな。
──ミックスで大きく手を加えるようなこともあったんですか。
PAN:そんなに変わる感じでもなかったけどね。ただ、曲によっては「そこまでやるか!」っていうくらい調味料を入れまくったものもある。「マッケテーナ」のドラムなんかは、「この担々麺、どれだけ唐辛子と山椒入れてんの!?」みたいな感じやったね(笑)。
──今後やってみたいレコーディングのアプローチとかはありますか。
PAN:これはもの凄いマニアックな音の録り方なんだけど…ビートルズとか昔のロックンロールの未発表集を聴くと、スタジオのモニターの声が入ってるんだよ。「テイク2!」って話すエンジニアの声を向こうのマイクが拾ってる。それを是非やりたいね(笑)。スタジオのほうにヴィンテージのスピーカーとアンプを入れて、コントロール・ルームからトラック・バックで「じゃ、テイク2行くよ」って言うわけ。その声がめっちゃヴィンテージって言うか(笑)、そこまで再現してみたい。
──それもまた形から入ることの美学ですね(笑)。あと、『BIG BEAT MIND!!』でも多彩なゲストを迎えたセッション曲が数多く収められていましたけど、ああいう試みはこのスタジオならより気兼ねなくできますよね。
PAN:そうだね。今考えてるのは、このスタジオのオムニバス・アルバムを作りたいなと。いろんなバンドマンをゲストに迎えて、ビートルズの初期のライヴ盤と全く同じ収録曲のオムニバスを作りたくてね。ゲストの人達には手ぶらで来てもらうのが条件で。「何も持ってこないで下さい」って、バンドマンにとってはなかなか画期的なことだと思うんやけどな。何て言うか、従来のスタジオの空気感を変えたいし、もっとみんなの遊び場みたいにしたい。ロン・ウッドがフェイセズにいた頃に出したソロ・アルバムも、スタジオの費用よりもゲストに迎えたバンドマン達とスタジオで呑んだ酒代のほうが高かったって言うよね。酒代に何百万も使ったりして。そういうのって凄く楽しそうやし、憧れるね。とにかく今年はこのスタジオからどんどん作品を出していきたい。ニートビーツも他のバンドもね。このスタジオで録った曲を誰かが聴いた時に、「うわッ! 何やこの音、ヤッバイな! どこで録ったんやろ?」って思われたいよね。アビイ・ロード・スタジオ然り、チェス・スタジオ然り、昔のロックンロールにはそのスタジオにしか出せない音ってあったやん? イヤでも何かが耳にこびり付く感じって言うか、そういう音を俺も録りたい。あの人が録るからこんな音になるっていう、その人にしか出せない色を大切にしたいし、それをこのスタジオで形にしていきたいね。