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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】wash?(2008年2月号)- 一期は夢よ、ただ踊れ! 肉体性を帯びたプリミティヴな音楽性への回帰

一期は夢よ、ただ踊れ!肉体性を帯びたプリミティヴな音楽性への回帰

2008.02.01

ダメ人間だって盛り上がることくらいあるさ

──エンジニアに植木さんを迎えたということは、録りは新大久保のフリーダム・スタジオで?

奥村:うん。清志君は凄いよ。俺との相性が良かったんだろうけど、とにかく唄わせ方が上手かったね。今までは俺が歌の管理を100%やっていたんだけど、今回は清志君に委ねた部分が多かった。自分の歌を誰かに任せるなんて、全く初めてのことだったからね。あと、好きなアメリカのインディーズ・バンドの趣味が清志君とは結構近かったから、話が早いんだよ。「○○まで行くとしょぼくてイヤなんだけど、××みたいな匂いは欲しい」とか、バンド名を挙げるだけですべてが通じたからね。

──全体的にヴォーカルのアプローチも変わりましたよね。必要以上に声を張り上げることなく、ちょっと抑え気味に唄うと言うか。

奥村:そうだね。爆発させるポイントを絞るようになったとは思う。そう意識してみたと言うよりも、そういう曲が最終的に残ったという感じ。踊れることを基準にして絞っていったら、そんな選曲になったんだね。これまでの叫びっぱなしの人生…まぁそれはこれからもきっと変わらないと思うけど、俺の持っている素養としては、叫ぶとどうしても独唱になってしまう気がするんだよ。フォーク・ソングは大好きだけど、悪い意味で言う独り善がりのフォーク・ソング的なものになってしまうと言うかさ。そこは自分の売りでもあるとは思うんだけど、その部分も捨てることなくもう少し上手くやれないかなっていう。まぁ、曲自体はそういうことを考えて作ったわけじゃないけどね。

──とりわけ頭の3曲は発声の根本からして変わったような印象を受けましたけどね。

奥村:感覚の変化は確かにあるけど、俺の中では美しいメロディを唄ってると思ってるんだよ。今回の曲調だとそれが上手く出ないかなとも思ったんだけど、そこをすくい上げるのが清志君は凄く上手かったね。コーラスを入れてみるアイディアをくれたり、俺が何種類か持ってるアイディアでとっちらかってると「絶対にこれがいいですよ」と即座に判断してくれたり。ミックスも含めて、全部を60時間くらいで録ったのかな。完パケ60時間っていう恐ろしいスケジュールだったんだけど、そんな中でも歌に掛けられた時間は今回が一番多かったんだよ。仮歌一発みたいなのもあるしね。

──いつも思うんですが、南波さん(南波政人、g)の唄う曲は奥村さんの奔放なギターが凄くいいですよね。今回の「Perfect day」もまた然りで。

奥村:自分が100%ギタリストに徹することができるから、それはそれで楽しい。南波が書いてきた曲の中では「garden」以来一番好きだな、この「Perfect day」は。

──アルバム・タイトルの『Slacker's high』にはどんな意味が込められているんですか。“Slacker”=怠け者、ということなんですが。

奥村:ニートとはまた違う意味なんだよね。もともとはヴェトナム戦争の徴兵拒否者のことを指すらしいんだけど。そこから転じて、中産階級以上で両親が金持ちで、高い学歴を持っていながら特定の職に就こうとしない人達のことを言うみたい。それと、レディオヘッドの「Creep」やベックの「Loser」みたいな曲を向こうのメディアが“Slacker anthem”(怠け者賛歌)と呼んだことがあったんだよね。“Slacker”の意味を知らなかった当時は“きっと俺達みたいなことを言うんだろうな”くらいに思ってたんだけど、たまたま何かのきっかけで調べてみたら、まさに俺達みたいなごくつぶしのことを指すことが判明して(笑)。今回のタイトルはそこから引用してみたんだよ。

──怠け者だってハイになれる方法があるんだよ、みたいなニュアンスですか。

奥村:そうだな、ダメ人間だって盛り上がることくらいあるさ、くらいの意味。

──時には踊ることだってあるさ、とか。

奥村:そうそう。極端な例だけど、働かなきゃいけないから車に乗って出掛けよう、でも車に乗るとCO2が出て地球の温暖化を促進してしまうからやっぱり外に出られない…みたいな、そういう怠け者にしか通用しない論理があるじゃない? 俺にもちょっとそういうところがあるけど、そんなこと言ってる暇があったら何か行動を起こさんかい、っていうさ。そんな怠け者よりかは、とりあえずでも働いてる人のほうが社会と接点があって健全だよね。俺にとっての社会の接点というのはバンドをやり続けることであり、この『Slacker's high』を自分達の手で出してみることだったんだよ。まぁ、何から何まで全部自分達の手で1枚のアルバムを出すのは凄く大変だったけどね。音楽以外に考えなくちゃいけないことがたくさんあったから。でも、何もやらないよりはまず行動を起こして、仮にそれで大ゴケしたとしてもそれは凄く意味のあることなんだっていうアルバムなんだよ。だから“Slacker”が“high”になるわけ。“high”になって大失敗したっていいんだ。

どんなにどん詰まっても“何とかなる!”

──実際にこうして作品を世に問うことになって、自分自身への自信にも繋がっているんじゃないですか。

奥村:うん、なってる。とてもなってるね。今までの作品や今までの世界がなくなるわけじゃなくて、なくそうとしているわけでもない。それはすべて今日までの道程だからね。「パズル」という曲を出した後にこのままじゃ自分は死ぬしかないと思ったけど、「LOSER」が出来て“自分のことをLOSERって言えるんじゃん”と思えて立ち直ることができて、そんな経験があったからこそ今の自分がある。『Slacker's high』は間違いなく『HOWLING』の世界から生まれたものだし、やっぱり『真昼の月は所在なく霞んでる』で底を打ったよね。あのアルバムを好きだっていう人は本当に多いけど、あのままの表現は絶対にできないよ。無理にやろうとすれば、後はステージ上で死ぬしかないからさ。何て言うのかな、本当にどん詰まりになったらどうするんだろう? というのを俺はずっと考えてるんだよね。もちろんどん詰まりにならないのが一番いいし、そのために毎日いろんなことをするわけだけど、それでもどうしようもない時がある。そんな時に頭を抱えながら焦ってジタバタするよりも、“とりあえず踊っとくか!”って何らかのアクションを起こすほうが価値があるような気がするんだよね。焦ることや拗ねることには何の意味もないと思うから。もちろん、俺だって焦りも拗ねも内包しているけどね。でも、そこで足踏みするよりは踊ったほうがいいよ。

──焦ることや拗ねることから脱却するためにロックがあるという言い方もできますよね。

奥村:そうだね。たとえ大間違いでとんでもないデタラメだとしても、何かを始めたほうがいいんだよね、やっぱり。澱んだり腐ったり止まったりしたら、そこでもうオシマイなんだよ。

──「Waiting for the Sun」の歌詞にもあるように、“ぼくの足が止まらぬよう”ということですね。

奥村:そういうこと。「Waiting for the Sun」は、やっと出てきたかと思ってね。“きみを愛している”とまで唄ってるから。

──唄う二重螺旋構造と呼ばれた奥村さんが、遂に(笑)。

奥村:自分で歌詞を書いててびっくりしたもんね(笑)。言い切る必要があったからそう書いたんだけどさ。一番パンチのある言葉って何だろうと考えて、“きみを愛している”しかないよなと思って。

──そういうところも含めて、平たく言えば自分に対してより正直な表現ができるようになったんでしょうね。

奥村:そうだと思う。もっと皮膚感覚でいられるようになったよね。不安要素は山ほどあるけど、とりあえず“当たって砕けちゃえ!”って言うかさ。後のことは砕けてから考えればいいやと思うし、砕けてもまた立ち上がればいいんだし。本当に意味のあることって、動いてることだけなのかなと今は思い始めてるんだよね。何もしないことには否定することすらできない。ましてや愛することなんてできないよ。俺が日常で感じる一番の感覚って、さっきも言ったどん詰まり感なんだよ、やっぱり。その時に周りの人にどんな言葉を掛けて欲しいんだろうって考えてみると、“何とかなる!”という一言なんじゃないかなと思ってね。そんな言葉は気休めだと判っていても、ひとまず発してみることが大事って言うか。今の世相がどん詰まりに暗いから余計にそう思うんだろうね。物騒な事件は頻繁に起こるし、物価は上がる一方だしさ。

──辛気くさいこの現実の世界を吹っ切るように、“ひとまず踊っちゃえ!”というのが本作のテーマなのかもしれませんね。話を伺って、奥村さんの作風が変化してきた理由が朧気ながら理解できましたよ。

奥村:たとえば「ナナイロ」や「great escape」は俺の中で同じ系統の曲だと思ってるんだけど、そういう曲でも踊れることは踊れるんだよ。ただ、それは聴き手に対して「踊りましょうよ」って言ってるんだよね。そこが今の俺には違和感があるわけ。それに比べて、「GOD save the Princess」や「マッチョ」はこっちが勝手に踊ってるから、「見るのも踊るのも好きにしなよ」って言ってるんだ。こっちはもの凄く踊ってるんだよ。これまではこっちが踊らずに聴き手を踊らせようとしていた気がする。だからまず、俺達自身が踊ることにしたのが大きな違いなんだよ。今は踊る阿呆に見る阿呆で一向に構わない。俺達はもう異常なくらいに踊り狂ってるから(笑)。

──ちょっと“ええじゃないか”みたいな感じですね。

奥村:うん、まさにそう。江戸時代の“ええじゃないか”もそうじゃない? もう散々どん詰まりになった挙げ句に半ばやけっぱちで“ええじゃないか”と踊り出す。あんな感じだよ。今回のアルバム・タイトルは『ええじゃないか』でも良かったかもしれない(笑)。まぁ、どれだけ作風が変化してもポップでありたいという気持ちに変わりはないよ。ロックンロールはポップな音楽だと思ってるからね。ニコッと笑っていても怖くいたいし、睨んでいてもどこかにジョークを潜ませていたい。怠け者なのにタチが悪かったりね(笑)。

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