昨年、めでたく結成10周年を迎えたブージー・クラクションが遂に動き出した。堂々と自らのバンド名を冠したブージー史上最高傑作の発表から早2年と3ヶ月、『Good morning, Punk Lovers』と題されたしなやかで逞しいオリジナル・アルバムが満を持してリリースされる。怒髪天の増子直純が主宰する"Northern Blossom Records"からの第1弾アイテムとなる本作は、メンバーが表現と対峙するモチベーションとバンド本来の資質を徹底的に見極め、七転八倒した末に確固たるアイデンティティを真の意味で獲得した初のアルバムだと言える。だからこそ、確信に充ち満ちたその力強いビートとメロディは煌々と輝きを放って聴き手の感受性に突き刺さる。もう迷いなんて吹っ切れたとは言わないし、とても言えない。むしろその迷走っぷりは加速の度合いを増す一方である。でも、その迷走を手玉に取って仲良く付き合って行こうじゃないか。そんなささやかな希望に手を伸ばそうとする意志が本作には確かに通底しているのだ。今日もブルーにこんがらがったまま、相変わらず神様は留守のままで我々は中だるみした日常を往く。時には天を仰いで唾したり、泥濘に足を取られて自暴自棄になったりするかもしれない。そんな時は迷わずにこの『Good morning, Punk Lovers』を聴けばいい。まるで傷だらけのガラス玉のような歌々がそっと優しく寄り添ってくれるはずだから。そしてその歌はこう語り掛ける。どれだけしょぼくれたって精一杯カッコつけていれば何とかなるもんだよ、大丈夫、と。(interview:椎名宗之)
もっとオープンに、いろんなことに挑戦したかった
──2007年はバンド結成10周年を迎えた記念すべき年でしたが、ライヴもリリースも大きな動きがありませんでしたよね。これには何か意図があったんでしょうか。
鈴木:できればそういう動きもしたかったんですけど、それができる状態じゃなかったと言うか。今回のアルバムを作る準備をしていた時期だったし、単に10周年ということだけでライヴを切るのはどうかと思うところがあって。次にちゃんとした展望を考えた上でライヴもリリースもしたかったんですよ。まずはその態勢を整えるのが第一だったんです。
笈川:最初のうちは10周年に絡めたライヴをやろうという話もあったんですけど、その前にまずは10周年という節目に“これだ!”と思えるアルバムを作って出そうと。まぁ、結局は間に合わなかったんですけど(笑)。
──新曲はコンスタントに出来上がっていたんですよね?
笈川:ええ。曲は作り続けていて、いつでもレコーディングに入れる状況だったんです。そうこうしているうちにツアーで怒髪天と回って、その時に増子さんが新しくレーベルを始めるという話を聞いて、有り難いことに声を掛けてもらって。そんな話もありつつだったので、ヘンに急いで年内に出すよりも、ちゃんと準備をしてから年明けにいいものが出せればいいんじゃないかという流れに落ち着いたんです。
──今回、増子さんの主宰する“Northern Blossom Records”から新作を発表するのは、笈川さんが今仰ったように去年の春のツアーで増子さんがブージーのライヴを観たのがきっかけだったそうですね。同じ北海道出身で、以前から交流はあったんですか?
鈴木:怒髪天は大先輩だし、地元にいた時期がズレているんですよ。直接会って話すようになったのは東京に出てきてからですね。初めてお会いした時、増子さんは顔が真っ赤っかでしたけど(笑)。
──去年の春以前に、怒髪天とライヴの共演は余りなかったんでしたっけ?
鈴木:去年が初めてだったんですよ。増子さんは一度話すと凄く近しく感じる人なので、何となく共演していた気にはなっていましたけどね(笑)。
笈川:後輩としては畏れ多いところもありますからね。増子さんはそれだけのパワーを持った人だし、人間的にも憧れますよね。ああいうふうに誰にでも優しく接することができるのを見ると。
──レーベルとマネージメントを兼ねた“ZubRockA RECORDS”自体は機能を停止したわけではないんですよね?
鈴木:ブージー=ZubRockAみたいなものなので、基本的にメンバー4人でやっているスタンスは変わりません。ただ、レーベルが2つあると受け手が混乱してしまうだろうし、レーベルのほうはしばらく休もうという感じなんです。
──“Northern Blossom Records”というレーベル名を聞いた時はどう思いましたか。
鈴木:ド直球だな、と(笑)。ここまで思い切り“北”と言っちゃっていいのかなって(笑)。
笈川:俺達としては嬉しいですけど、北海道出身じゃないバンドの作品をリリースする時にどうするんだろう? と(笑)。
──今回発表される『Good morning, Punk Lovers』は、“Northern Blossom Records”からリリースすることを前提に制作に入ったんですか。
鈴木:レコーディングはそうですね。次のアルバムを出すにあたって、去年の初めの頃から曲は作り溜めしていたんですよ。音楽環境も、作っていく曲も、それまでは偏らせて作っていたところがあったんですけど、それを一度やめてみたんです。もっとオープンに、いろんなことに挑戦してもいいんじゃないかと思ったし、メンバーの思惑を越えたところで第三者の意見を聞きながら作品作りをしたかったんですよね。そんな時に増子さんが声を掛けてくれて、凄くいいタイミングだし、増子さんなら是非にと思ったんです。増子さんと一緒にいるスタッフも信頼できると思えたし、この環境なら凄くいいんじゃないかと。
──2005年に“ZubRockA RECORDS”から発表した『BUGY CRAXONE』は、特にコンセプトを設けずに曲単位のクォリティを上げることに腐心した高い完成度を誇る作品でしたが、あのアルバムを聴いた時にバンドがようやく自分達のペースで納得の行く作品作りができる環境を得たように感じたんですよ。だからその後はコンスタントにリリースが続くのかなと思ったんですが。
鈴木:『BUGY CRAXONE』を発表した後のツアーは、丁寧に回りたかったので2、3周したんですよ。その過程で自分達の考え方が進んでいったことも関係していますね。
笈川:前作を完成できたことで、バンドに対して大きな自信を持てるようになったんです。それならもう少し活動自体の間口を広げても軸はブレないんじゃないかと思ったんですよね。
──一昨年の10月に発表したライヴ・アルバム『THE BGC SESSIONS』を聴くと、『BUGY CRAXONE』で得た自信が確信に変わったのが如実に窺える力強いプレイに充ち満ちていますよね。
鈴木:ああ、あのライヴ(2006年4月15日、下北沢シェルター)は良かったですね。自分達がライヴ盤を出すなんて思ってなかったですけど。私自身がライヴ盤を買うようなリスナーではなかったので。