昨年3月に解散したKOHLのヴォーカル、達樹と、仙台を基盤として精力的に活動を続けるN.E.S.のヴォーカル、憲三。共にヴォーカル&ギターながら、音楽的嗜好/志向も歌声も全くの対極に位置する2人の個性が折り重なった時、coinという類い希なるポテンシャルの高さを誇るバンドが生まれた。プロデューサーにUVERworld、ONE OK ROCKなどを手掛ける平出 悟、nilのベーシストとして活躍中の小林 勝を起用したデビュー・ミニ・アルバム『フタリバナシ』は、聴き手を選ばず、音楽を愛するすべての人を瞬時にして虜にするポップの極みとも言うべきクォリティの高い楽曲に彩られた会心の作だ。静と動、バンドとユニット、東京と仙台、コクとキレ、UK vs US、そして裏と表──。個性と個性が完膚無きまでにぶつかり合い、マーブル状に溶け合った2人の第1章が、今ここに幕を開けようとしている。(interview:椎名宗之)
自分がバンドマンであることの矜持
──そもそもこのcoinはどんな経緯で始まったんですか。
達樹:僕がやっていたKOHLと憲三がやっているN.E.S.がよく対バンをしたり、同じコンピ(『NEW GENERATION ROCK』:2004年11月発表)に入っているバンド同士でツアーを一緒に企画したりと交流は以前からあって、仲が良かったんですよ。歳も一緒だし、ライヴの打ち上げでも席が近くになることが多くて。で、N.E.S.がウチの事務所のレーベルからミニ・アルバム(『RESONANCE』:2006年発表)を出すことになって、彼らが事務所に来ていた時に僕もたまたまそこにいたんです。2人ともちょうどギターを持っていて、手持ち無沙汰だったので互いに爪弾きながら適当に歌を乗せてみたら、「意外とこれ、行けるんじゃない?」なんて話になって。事務所のスタッフも「いいじゃん、2人で何かやりなよ」と言ってくれて、そこからすべてが始まったんですよ。
──最初は極々軽いノリだったわけですね。
達樹:遊びから始まった感じですね。最初からアルバムを作ることを思い描いていたわけではないし、「試しに曲でも作ってみる?」という程度でしたから。ただ、僕はいつもパソコンで打ち込みのトラックを作って、自分である程度音を乗せてくるんですけど、憲三はかなりのアナログ人間なんですよ。彼のデモはギターを弾きながら唄ったものそのままで、「俺はこういうふうにしか録れないから、俺の曲を録って一緒に作ってくれよ」と言われて(笑)。それから一緒にスタジオに入って、「こんなリズム・パターンはどう?」とか「こんなフレーズを乗せてみようよ」とか色々とやり取りをしていく中で完成した6曲が今回の『フタリバナシ』に入っているんです。
──coinが始動したのは、KOHLが解散して程なくしてのことですか。
達樹:そうですね。ちょっと経った頃だったと思います。
──4年にわたるKOHLの解散以降、達樹さんはどんな音楽性を志向しようと?
達樹:バンドが解散して自分自身の可能性も見いだせたし、それと同じくらいの不安もありましたね。不安と言うか、何をやったらいいのか判断できない模索期間だった。ただ、自分はやっぱりバンドマンなんだという意識だけはずっとありました。個人的に好きなハウスやテクノをバンドでやってみようと形にして、それなりにいい反応も貰えたんですけど、やればやるほど何処へ向かえばいいのかよく判らなくなったんです。その時に並行してcoinの曲作りやレコーディングをしていて、その作業に没頭することによって迷いが吹っ切れた部分があったんですよ。バンド形態で誰かとリハスタに入って音を一緒に出して、“ああ、俺はやっぱりバンドマンなんだな”と改めて痛感したんですよね。
──摩擦係数が高ければ高いほど、それだけ得るものも大きいですよね。
達樹:1人でどれだけやれるかを試したかった部分もありましたけど、1人でやれることって最初からある程度は予想できるんじゃないかと思うんです。自分だけである程度の結果が出せたことは多少の自信になったとは言え、最初に思い描いていた以上の結果は1人だけじゃ出せないんじゃないかと。coinをやることによってその辺が凄く刺激になったし、自分の中では原点回帰に近いニュアンスがあるんです。
──パーマネントのバンドに疲弊して、そこから距離を置こうという意識はなかったですか。
達樹:それはなかったですね。曲を仕上げるのはバンド形態が一番楽しいし、各パートの1人1人が気持ち良くプレイしていると、こちらも自ずと気持ち良く唄えるものなんですよ。バンドをやっている人間はキャラの強いヤツばかりだからもちろん色々あるけれど(笑)、パーマネントのバンドに疲れるなんてことはないし、バンドをやるのはやっぱり掛け値なしに楽しいですよ。
──『フタリバナシ』にはドラムに大島賢治さん(ex.ザ・ハイロウズ)と風間弘行さん、ベースに小林 勝さんとYUTAROさん(JELLY→)が参加されていて、紛れもないバンド・サウンドに仕上がっていますしね。
達樹:正規のメンバーが僕と憲三の2人だけでも“バンド”だと言い切ろうと思っていました。“ユニット”という言い方は余り好きじゃなくて、coinはあくまで“バンド”なんです。「声」と「WALK」という頭の2曲は平出 悟さんにプロデュースを手掛けてもらったんですけど、残りの曲は勝さんにプロデュースをお願いして、バンドが曲作りをするやり方で録ったんですよ。僕と憲三が作ったデモを風間さんと勝さんに聴いてもらって、いろんなアイディアを頂きつつ形にしていったんです。2人とも大先輩だから最初は気兼ねする部分があったものの、徐々にこちらの主張を押し通させてもらって。何てことはない、これもやっぱりバンドだったんですよね。だからスタンスはKOHLの頃と何ら変わりはないし、無意識のうちにそのバックグラウンドも出るし、憲三のバックグラウンドや彼の持っているものも出ている。僕の中でcoinは単純に1と1が合わさった2ではなく、0.5ずつくらいの配分が折り重なっているというイメージなんです。憲三の曲だけだとアメリカン・ロック寄りになるし、僕の曲だけだと今度はUK寄りになる。それが、憲三の曲に僕の好きなフレーズを乗せると聴いたことのない感じが出るし、その逆もある。そこが凄く刺激になって面白いですね。
楽曲が求める声に準じた曲作り
──2人の音楽的嗜好/志向が正反対だからこそ、互いの存在が普段は使わないそれぞれの引き出しを開けてくれるんでしょうね。
達樹:そうですね。僕も憲三の好きな音楽は聴いてきましたけど、自分が曲にする時のOKラインの幅から外れたものを良しとする人間と一緒にバンドをやっているわけで、それが重なり合った時の予想を遙かに超える感覚がスリリングなんです。曲作りの時でも、音合わせの時でも、レコーディングの時でも、音楽の面白さを純粋に感じるんですよ。
──そうした音楽的嗜好/志向も然り、達樹さんと憲三さんは声質もギター・プレイも真逆ですよね。
達樹:どうやらそうらしいですね。ある程度逆だとは思っていたんですけど(笑)。声はほぼ逆と言っても差し支えないし、本来なら絶対に絡み合わない声ですよね。エンジニアさんに言われたのは、歌にしろギターのストロークにしろ、僕は前ノリらしいんですよ。憲三はもの凄く後ろノリらしくて、その意味でも真逆なんですね。
──でも、その真逆の歌声が折り重なった瞬間に不思議な心地良さが醸し出されるんですよね。2人のハーモニーが秀逸な「声」、交互にヴォーカルを取る「WALK」は特に。
達樹:「声」と「WALK」は2人の全く違う声を活かしてどれだけのアイディアを詰め込めるか、プリプロの段階から色々と試行錯誤した曲ですからね。コーラスでそれぞれ違う音程を唄うにしても、綺麗なハモりにするつもりは最初からほとんどなかったんですよ。2人で同時に唄っている感覚に近い仕上がりになればそれで良かった。ただ、僕はハモりが好きなので割とスムーズに作業が進んだんですが、憲三はかなり苦労していましたね(笑)。憲三の声はディストーションが掛かった感じだから、倍音が多いんです。その倍音の多いほうがハモりに来る時は一番苦労しましたね。憲三自身、コーラスはほぼ初めての経験だったらしいので。
──「Last Dance」のように、達樹さんがメインで唄って憲三さんのコーラスが入る曲は難航したわけですね。
達樹:ええ。「Last Dance」を最初にベタでハモってみたら、何処かむず痒かったんですよ(笑)。最後のほうでハモりからずれて“ダンス”だけ伸ばしている部分とか、もっと憲三の色を出したほうがいいと思える抜き差しは色々と試してみましたね。
──憲三さんがメインで唄う「ファズ」には敢えてコーラスを入れてみなかったり、とか?
達樹:そうですね。逆に、僕が唄う「エキストラ」は自分でハモってみたり、そこはケース・バイ・ケースで。「素晴らしき日々」は憲三がメインで唄っているところに僕がハモっていますね。2人でコーラス・ラインを色々と考えながら。どの曲もそうなんですけど、どうすればその曲が良い仕上がりになるかを基点に考えた結果、こういうハモりになったという感じです。
──「素晴らしき日々」は、終盤で2人が全く違う歌詞を唄いながら最後に“足枷捨てて 迎えにいくよ”という歌詞を共に唄って終わるのが何とも粋ですよね。
達樹:あの終わり方は特に“してやったり”ですね。と言っても、アイディア自体は憲三から出たんですけどね。あいつはたまにミラクルな発言をすることがあるんですよ(笑)。最後の曲だし、単純にハモって終わるだけじゃ面白くないよねっていう話をしていて、「じゃあ、最後にAメロで違う歌詞を唄ってみない?」と憲三から提案があったんです。あれは凄くうまく行ったと思いますね。
──憲三さんと達樹さんがそれぞれ単独で唄う「ファズ」と「エキストラ」のようなミディアム・ナンバーは双方の持ち味がよく出ていて、アルバムの構成としては非常にバランスがいいですね。
達樹:混ざり合ってできたこれまでにない色と、それぞれが本来持っていた色とは全然違うので、6色うまく分かれたなと思いますね。
──作詞・作曲のクレジットはすべてcoinで統一されていますが、メインで唄っているほうがその曲のメイン・コンポーザーと考えていいんですか?
達樹:大体はそうですね。曲を作ったほうがベース・パートを唄えばすんなり行くし、メロディ・ライン自体がその人のものだから一番しっくり来ますよね。曲が求めたほうの声に準じていると言うか。今後またレコーディングをする機会には、そういうことにもとらわれずに別のアプローチをしてみたいですけどね。僕が曲を作って、憲三が絶対に唄ったことのないメロディを持って行って、さぁどう出る!? みたいなね(笑)。そういうのをお互いにやってみたいですよ。憲三が唄う「ファズ」は最初、デモの段階ではあいつの好きな長渕 剛さんからの影響をダイレクトに受けた感じの曲だったんです(笑)。そこから曲のアレンジを2パターン考えて、ひとつはファズ・ギターをいっぱい入れて轟音サウンドにしてみた。そこから「ファズ」ってタイトルを付けたんですけどね。もうひとつはUKのテイストを採り入れつつサラッと聴ける感じにして、結局そのUK寄りのほうを選んだんですよ。今までは「ファズ」みたいな曲のイメージを憲三に対して持っていなかったし、もっとシャウトしているところしか見てこなかったので、こんなタイプの曲も唄えるんだなっていう驚きがあったんですよね。憲三も僕に対して似たようなことを少なからず感じたと思うので、今度はそれを最初から狙って作るのも面白いんじゃないかなと。