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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】coin(2008年1月号)- 対極な2人が惹かれ合い、奏で合う奇跡のハーモニー

対極な2人が惹かれ合い、奏で合う奇跡のハーモニー

2008.01.01

バンドという最小限の編成でやるべきことをやる

──従来にはない自分の資質を互いに新たなカードとして切るのは、全く新しいバンドならではですよね。

達樹:歳も一緒だし、昔から勝手知ったる仲だし、同じヴォーカル同士だし、2人とも年上の人と一緒にバンドをやっていたりと、共通点がいくつもあるんですよ。真逆のことのほうが圧倒的に多いんですけど(笑)。お互いのないものねだりみたいなところもあるんでしょうね。僕の声では限界があるから、憲三のように男っぽく唄いたいというのがあるし、憲三は憲三で「達樹みたいにもっと綺麗に唄いたいんだよ」ってずっと言っていますし(笑)。

──それにしても、2人がやってきたバンドの音楽性を考えると、『フタリバナシ』の収録曲のキャッチーさはいい意味で少々面喰らいますよね(笑)。どの曲も一度聴いたらメロディを忘れないし、ポップの純度が凄まじく高くて。

達樹:曲に関しては、そこまで意図的にキャッチーにしようと考えたつもりもないんですけどね。「声」と「WALK」の2曲はかなり早い段階でできた曲だったので、アレンジをあれこれ考える時間があったんですよ。プロデュースの平出さんからのアイディアも部分部分で頂いたし。coinを始めるにあたって、最初はやっぱり色々と考えましたからね。ヴォーカル&ギターが2人いることの意義は何なのか、どれだけ冷静に考えても堂々巡りだったから、とりあえず曲を書いてみようと思って。余り考えすぎなかったのが良かったのかもしれないです。

──歌もギターも二乗なのに、ちゃんと棲み分けができていて音に整合性が取れているし、サウンドは至極シンプルですし。

達樹:レコーディングに参加してくれたサポート・メンバーも含めて、この4人でできることをやりたいと思いましたから。竿が3本同時に鳴っている引き算しきれていない部分もありますけど、基本的にライヴで出せる音を出したかったんですよ。鍵盤や打ち込みを入れる案も最初はあったけど、バンドという最小限の編成でやるべきことをやろうと。だからサウンドがシンプルで力強いものになったんじゃないかと思います。

──今回、サポート・メンバーを選出した基準というのは?

達樹:憲三は昔から小林さんと風間さんと仲良くさせてもらっていたみたいですね。僕は僕で、KOHLが駆け出しの頃にお客さんが2人だけのライヴをやったことがあったんです。その2人のお客さんのうちの1人が勝さんだったんですよ(笑)。その頃からお世話になっている方なので、今回は是非力を貸して欲しかったんです。大島さんとYUTAROさんは平出さんからの紹介ですね。YUTAROさんは事務所のスタッフとの繋がりで以前から話は聞いていて、共演したのは初めてでした。4人とも本当に凄いプレイヤーで、色々と勉強になりましたね。ドラムとヴォーカルの関係性って凄く重要で、しっかりと歌を唄えるか唄えないかはドラム次第だと思っているんですよ。これまでの自分の活動で言えば呼吸の判るドラマーは1人だけだったから、理想的なリズム隊をヴィジョンとして描くまでには達していなかったし、平出さんに紹介して頂いて良かったですね。完全に手探りの状態でしたから。

──『フタリバナシ』を録り終えて、ようやく自分の声に合うグルーヴがどういうものかが理解できたんじゃないですか。

達樹:そうですね。こういう人が叩いてくれるとこういうグルーヴが生まれて、曲がこうなるんだというのがはっきりと判りました。大島さんと風間さんの違い、YUTAROさんと勝さんの違いも理解できたし。ただ、coinでは“この曲にはこういうドラムが欲しいんですけど…”という感じではなく、その時々で僕達の音楽に興味を持ってくれた人にお願いをして、その人とバンドで新たに曲を完成させるスタンスで在りたいですね。

──本作のドラムに関して言えば、大島さんのドラムは曲の持ち味を最大限まで引き出すプレイで、風間さんはバンドとしての一体感を優先させるプレイという違いを感じますね。

達樹:大島さんはスネアだけ後ろノリで、外国人のドラマーみたいなイメージでしたね。仰る通りで、その楽曲のリズム感の中でグルーヴを作ってくれる人なんです。風間さんはもっとバンドマンらしいプレイヤーで、風間さんのリズムと曲が合わさった上で僕達が唄うような感じだった。そういう違いのひとつひとつが新鮮で、凄く面白かったですよ。

──そこはリズム隊を固定していないバンドの強みと言えますね。

達樹:楽しさをずっと失いたくないですから。ただ単に面白いということではなく、バンドを続ける上で生じる摩擦を含めての楽しさ、面白さを大切にしたいし、それを今回再確認できた気がします。僕自身、レコーディングそのものが久しぶりだったし、凄く新鮮な気持ちで臨めたから、その気持ちをキープしたい。KOHLの最後のほうは楽曲を作る速度が凄く早くて、純粋に音楽を楽しむゆとりが余りなかったんです。それを否定するつもりはまるでないし、そこがあの4人の持ち味だったからそれはそれでいいんですけど、今は始めたてのバンドの新鮮さと曲作りの面白さに改めて魅せられているんですよ。もちろん、曲作りに伴う難しさも含めてです。リスク込みで、今は凄く楽しい。

誰かと対話しながら物作りをする面白さ

──KOHLにはHIDEOさんというバンドの支柱であり名コンポーザーがいたから、背負い込む責任感はこのcoinで格段に増したんじゃないですか。

達樹:KOHLの時はたまに曲を書く程度だったし、ヴォーカリストとしてバンドをやっていた感じなのかな。他では得難い経験をたくさんさせてもらいましたけど。今はヴォーカリストである前にアーティストという意識がまずありますね。“アーティスト・長尾達樹”というスタンスで活動しているから、曲のアレンジやメロディ・ラインの細部にまで神経を注いでいますね。今回、ジャケットも自分で手掛けましたし。いい意味での責任感はもちろんありますよ。それがなければ面白みに欠けますよね。

──達樹さんがここまで秀逸なポップ・ソングを書く人だったとは、KOHL時代には皆目見当が付かなかったですからね(笑)。

達樹:それはよく言われます(笑)。曲は前から書いていたんですけど、確かにcoinでなければここまでキャッチーな曲にはならなかったかもしれないですね。

──coinの楽曲は、KOHL時代よりも達樹さんのパーソナリティが表出していると言えますか。

達樹:ひとりでやるとcoinとはまた全然違うことになりますけどね。このメンバーで自分を出したらこうなった、という感じです。どのバンドで唄っても、すべて長尾達樹であることに変わりはないんですけど。『フタリバナシ』の楽曲が僕のすべてか? と訊かれたら、それは自分でも判らないです。このバンドのメンバーである長尾達樹はこういう人間ですよ、とは言えますけどね。

──coinというバンド名は、相反する2人の個性、物事の裏と表、音楽性における静と動、明と暗を象徴したものということなんでしょうか。

達樹:このバンド名は、レコーディングの最終日までずっと決まらなかったんです。やっている中身が純粋に面白かったから、バンド名のことはすっかり後回しになっていたんですよ(笑)。そこでまた憲三ミラクルがありまして、あいつがスタジオの自販機で缶コーヒーを買った時に110円だったらしいんです。いつもの癖で120円を入れたら10円戻ってきたと。それを見て、バンド名はcoinがいいと思ったそうです(笑)。で、「達樹、coinってどう?」と訊かれて、何か響きも良かったし、裏と表という意味合いもあるし、物事の二面性を言い表していてピッタリじゃないかと思ったんですよ。後付けと言えば後付けなんですね。

──これだけ高水準の楽曲が揃うと、早くライヴで体感したいという期待が増すばかりですが。

達樹:1月28日に新宿ロフトで初ライヴをやります。その後のライヴも基本的に風間さんと勝さんにサポート・メンバーとして参加して頂くことになっているんですけど、如何せん皆さん多忙すぎる方々なので、都合の合わないライヴもあるかもしれません。そこはある程度フレキシブルに対応したいと思っています。ここ1年くらい自分の名前名義でアコースティック・スタイルのライヴをずっとやっていて、その延長上でバンド形態にしたライヴを2回ほどやったんですよ。でも、ちゃんとしたバンドとしてスタジオに入ってライヴをやるのは本当に久しぶりですね。coinでライヴをやるのは単純に楽しみなんです。今までにやったことのないことができますから。ギター&ヴォーカルがマイクから離れる瞬間があるというのはもの凄くレアなことで、たとえば「WALK」だったらメインで唄う部分があるのに動けるのが個人的には楽しみなんですよ。今までの行動範囲は半径1メートル以内に限られていましたからね(笑)。

──それと、「ファズ」を演奏する時はギタリストに徹するわけですから(笑)。

達樹:リズム・ギターばかり弾いていたので、真正面からギタリストと呼ばれると語弊があるんですけど(笑)。でも、そういう部分が凄く楽しみなんですよね。いつもとは違う見せ方ができると思うし。

──今後、ソロ名義での活動を並行していく構想はありますか。

達樹:有り難いことに、ソロ・アーティストの長尾達樹としてのリリースはどうか? という話も頂いたんですけど、僕はやっぱりバンドマンなんですよ。ソロという呼称がどうも好きになれなくて。KOHLの終わり頃からライヴに誘われて歌とアコギでやっていた時期もあったんですが、ソロという言い方は絶対にしたくなくて、あくまで“アコースティック”と言い張っていたんですよね。つまり、バンドマンがアコースティック・スタイルでやっていることを重要視していたんです。ソロという言葉自体に魅力を感じないし、最初からある程度の結果が見えている活動にしか僕には思えない。この先もっと広い目で見られる時が来るかもしれないけど、少なくとも今はソロとしての活動には惹かれませんね。

──生涯一バンドマンで在りたい、と?

達樹:そうですね。最初から最後まで自分1人で完結するのはつまらない。単純にそれだけのことですよ。1人よりも2人でやるほうが面白いアイディアは数多く出てくるものだし、自分以外の誰かと対話をしながら物作りをしたほうが僕は楽しいんです。僕にとって憲三は同じ立場と価値観を共有できるヴォーカリストであり、ライバルであり、それ以前に友達であり、互いに尊敬もしている。憲三という素晴らしいパートナーと巡り会えて、今は本当にラッキーだと思っていますね。

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