日々一生懸命音楽をやって、何かを偶然的に残していければそれが一番幸せ
──『呼吸する時間』は社会風刺的な作風の曲が目立ちますけど、ここまでエッジの立った曲って今まであまりなかったですよね。
真戸原:恋愛のこととかを歌った方が共感を得るしわかりやすいと思いますけど、ステージに立ってせっかく若い人たちに聴いてもらえる音楽をやっているんだから、教科書にも載っていないような「こいつらも疑問を感じながら音楽をやっているんだろうな」っていうようなことをみんなに知って欲しいと思ったんです。
──『楽園エステ』(M-6)に“社会問題でも書きゃ 金儲けできるみたい”っていう皮肉っぽい感じの詞もありましたが…。
真戸原:(笑)皮肉というか、笑えるようなもんをいっぱい入れたかったんです。今までは自分が思っていることを素直に書いていたんですけど、『ハイスピードカルチャー』では、思ってることと全く逆のことを言ったらどうなるのかなって。アメリカで流行っているものを全部取り入れてみよう!って。全然思ってないですけど、言ってみたらちょっと笑けたんです(笑)。『ユビサキから世界を』(2006.6リリース)みたいな直球も僕らのやり方のひとつなんですけど、(PVを撮ってくれた)行定(勲)監督と話したときに「ユーモア感を出したらもっと聴いてくれるよ」って言われて、それを今回やってみたんです。
──今までは背中をポンと押してくれる曲が多かったんですけど、今回は2nd.アルバム『素晴らしき日常』に入っていた『言葉』や『枯れたサイレン』に類する曲が増えた気がするんです。
真戸原:そうですね。テレビや新聞や都会の風景を見て感じた疑問や怒りを書いたものは多いですね。素直になったっていう感じです。見られ方を気にしなくなった。どういう思いがあってどういう意味があってっていうのを聞かれるのを恐れずに、まず書いてみようって。
──なんでも言い放ってみようっていう吹っ切れたポイントは何だったんですか?
真戸原:できなかった時期があったから、言いたい事を言える喜びを感じたんです。言えるんだから言ってしまおうみたいな。
──書けなかった時期は本当に何も浮かんでこないんですか?
真戸原:本当に何も浮かばない(笑)。メロディーも浮かばない。音楽をやってる実感がないんです。不思議な感じでしたね。曲作りはしようとしてたんですけど、いろんなものを考えすぎて…。でも、ライブは決まっていたので、新しいものを生むよりも作ったものを伝えていく作業をしていこうと思っていましたね。
──ステージに立つと見えるものがあって、一歩ずつ進めていたところはあります?
真戸原:それはありますね。自分らが出したものをみんなが聴いてどう楽しんでいるか確認できる場所がライブですから、そこが一番ホッとするというのはありますね。
──今まではずっと先の未来を見ていた感じですけど、最近は今を大事にしながら活動をしているという感じですね。
真戸原:そうですね。極端な話、先を見すぎていたんです。それで、これから5年後10年後どうなるんだろうって考えたら怖くなったんです。あまりにも先を見すぎると前が全く見えなくなって何もできなくなってしまうので、今はそのことはあまり考えすぎないようにしてますね。
──将来なんてわからないですからね。
真戸原:そうなんですよ。僕らに何ができるか。僕ら自身がどんな影響を与えられるか、何を残していけるか、なんて大きなことを考えても、そんなことはわからない。日々一生懸命音楽をやって、何かを偶然的に残していければそれが一番幸せなのかな、と思います。
──『ユビサキから世界を』はすごく未来のことまで歌われてましたけど、今回の曲は“今”なんですよね。
真戸原:そうなんです。今から何ができるかということを考えながら書きましたね。突き詰めていくと“ミュージシャンやってていいんかな”って思うぐらい世の中にはいろんな問題があると思うんですけど、僕らは今のところ音楽っていう手段で何かをするっていうことしかできないんです。
──バンドをやってる人たちってずっとそういう悩みを持ち続けますね。バンドを始めた当初からみんなが抱えている不安なのかなって思いますよ。
真戸原:形は変われど、自分たちがすることって誰かに影響を与えていけると思っているから、責任とか意味合いを考えながらやりたいなって思いますね。
──そういうのを考えすぎて曲が…。
真戸原:そうそう。考え過ぎちゃったんです(笑)。いいバランスでやらないと音楽はできないなって思いますよ。音楽が僕の中でこんなに大きな割合を占めていたんだと改めて気づきました。
──音楽活動をすることは、社会と関わる唯一の接点だという意識はないですか?
真戸原:なかったんですよ、最初は。インディーの頃もそうですけど、歌うのが楽しいし、4人でやってるのが楽しいからそれでいいじゃないかって。でも、知らないところで僕らの音楽を聴いていろんなことを考えたっていうメッセージをもらうと、その人たちとの接点はそこしかないんですよ。そういうものが良い意味でミュージシャンとしての責任を感じさせてくれたんです。アンダーグラフっていうバンド自体は世の中に対して音楽が唯一の接点だと思います。でも、僕個人としてはちょっと違うなと最近思いますね。