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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】LIZARD『ROCK'N' ROLL WARRIORS -LIVE '80-』発売記念鼎談 モモヨ(LIZARD)×地引雄一(テレグラフ・ファクトリー代表)×平野 悠(ロフト席亭)(2007年3月号)- 一貫して先鋭であり続ける表現者・モモヨの内なる小宇宙

一貫して先鋭であり続ける表現者・モモヨの内なる小宇宙

2007.03.01

9.11があったから現実にライヴを再開した

平野:それでね、これは僕の対談取材でミュージシャンに必ず訊くことなんだけど、9.11以降の変わり果て歪んだこの世界において、ロックはどう在るべきなのか? これを僕は是非モモヨに訊いてみたいんだ。今の時代に一番必要なのはリーダーなんだよ。「言いたいことを言おうぜ」っていう。地引がいつも言ってるよな、「現実を見ろ! 逃げてどうする!?」って。モモヨだったらメッセージ性の高い歌詞を含めて、音楽の新しい地平を切り拓くことができるんじゃないかと僕は思う。

モモヨ:9.11があったから現実にまたライヴを始めたというのはあったんです。精神的なものばかりではなく下世話な話で言えば、世界的なネットワークで集まっていて、それが同じアメリカ人の間でも宗教対立でどんどん分断されていく。その結果、ネットワークの中がボロボロになって、ネットワークのコラボレーションなんて到底できなくなってしまった世界があるんです。そこでコミュニティが壊滅的になって現実でやらなければいけないと思ったから、ライヴをまた始めようとした。ただ、今のところそういう段階だから、池の中の鯉なので客観視はできない。

平野:そんな発言を聞くと、これからのモモヨの音楽活動には注目しなくちゃいけないね。応援するよ。

01_ap04.jpgモモヨ:基本的にはジョン・レノンでいいんですよ(笑)。はっきり言って「イマジン」ひとつあればいいと思う。あとは表現の仕方だから。9.11の直前からアメリカはどんどん右傾化していって、9.11以降、全米のラジオ局が「イマジン」の放送を自粛しましたけど、「レボリューション」という言葉をネットから追い出そうという動きすらあったんです。あの頃のアメリカでは「革命」っていう言葉ひとつ使っちゃいけない世界ができつつあった。異常ですよ。

平野:今の若いミュージシャンは、現実の身の回りのことしか唄わないんだよ。自分にとってはイラクなんて遠い話で、まるでリアリティがない、と。モモヨは「サ・カ・ナ」で水俣病のことを唄った。それはモモヨにとって身の回りで起こるリアリティだったわけじゃない? 僕達の時代の身の回りと今の若い人達の身の回りがなんでこうも違うんだろうと思うんだ。今の若い人達は四畳半の部屋から出てこないんだよ。だからこそ今、モモヨが発するメッセージが必要だと思う。

モモヨ:でも、今のほうがリアルに近いんじゃないですか? 実際に自衛隊に参加してイラクに行っちゃうわけだし。あと、大人が敵にするに値しない。政治家の答弁を見ていても笑っちゃうだけじゃないですか。

平野:そうなんだよな。でも、彼らはそういうことに対してリアリティを持たないんだよ。だから僕は9.11以降の世界でロックにそのことを問い詰めているという意識があるんだけど、モモヨなら今どんな詞を作る?

モモヨ:今? リザードの頃よりも唄う内容はもっとシンプルですよ。キリストやマホメットが砂漠をパレードしていく歌とか、そんなものですよ。それで砂漠でロックフェスを開く。それが最近作っている歌。

平野:今またモモヨが出てきたのは、時代が要求しているからなのかな?

モモヨ:そういうわけじゃないでしょう。ロックはずっと続けてきているけど、多分ある種のサブカルなんですよ。今、ロックの源流みたいなものが消毒されて残っていってるんです。そのルーツにあるコアみたいなものはちゃんと再検討しないとダメかもしれない。今バンドをやっている若い人達は恵まれていると思うけれど、いろんなものをアジテートできたり伝えることができる特権をバンドが持っているという意識をもうちょっとみんな持ってくれないと困るかな、とは思いますね。

これから決着つけるので見ていて下さい

平野:今回のDVDに続いて、今後『リザード全集』なる10枚組のボックスを出すという壮大な計画があるらしいね。

モモヨ:10枚組っていうのは、リザードの古い音源をまとめるだけじゃないんです。私が15、16歳の頃からネットワークでやっている今に至るまでの作品をひとつの流れにまとめて、俯瞰してみようと思っているんです。そうやって自分というものを提示しないことには、ファンを掴みにくい。そうしないと、「こいつ何者なんだ?」ってことになるでしょう。新作を作っている状況はもう5年くらい続いていて、とりあえず今はそれをまとめたいと思っています。

平野:いいね。凄く精力的じゃないですか。これが自分にとって最後の仕事くらいに考えている?

モモヨ:あと5年くらいかな。

地引:その新しい曲はライヴでもできるような形?

モモヨ:もちろん。ライヴでもやれるし、どこにでも行きますよっていう感じですね。

平野:今のモモヨは目が据わっているもんな。オロオロしていないよね。やるしかないというオーラが漲っている。

モモヨ:ギターが一本もあれば充分。何ものせることだけが音楽じゃないですからね。やっぱり、平野さんみたいに下北沢で一人でも座り込みするくらいの気合いがないと(笑)。あれは私もいいと思った。平野さん、ホントに音楽評論家やるの?

平野:もうやってるんだよ。自称“新人ロック評論家”として今日も話を訊いているんだから(笑)。ここから先、モモヨがどういう音楽を発信していくのか凄く興味があるな、一音楽ファンとしては。その前にまずこのDVDだよね。何度も言うけど、あのモモヨのインタビュー映像はプロを目指すミュージシャンには是非見て欲しい。なぜならばやはりあのモモヨ独特の毒だよな。今の若い人達には毒がない。明るく楽しくヨイショの話ばかりだからね。とにかくこのルーフトップの読者を含めて、音楽を愛するすべての人達にこのDVDを見て欲しいんだけど、モモヨから何かメッセージはありますか。

モモヨ:これから決着つけるので見ていて下さい。音楽だけじゃなくて、こうやって話していることも含めて全部。平野さんだってトークとか色々とやっているでしょ。それと同じですよ。もちろん、音楽がキーになっているのかもしれないけれど。子供の時にバンドをやろうと思ったのは、寺山修司さんや唐十郎さんとかのハプニング・ショーの時代に家出をしてフラフラしていたのが始まりですから。そういうすべてのものに決着をつけたいですね。

平野:これだけ多様化してしまった日本のロックに勝とうという意識はない?

モモヨ:いいものはやっぱりいいし、私は趣味のレンジが凄く広いんですよ。クラシックも聴くし、邦楽も民族音楽も聴く。その中で自分で勝手にロックを感じるものは「これはロックだ」と言うし、自分が生きていればロックだと昔から思っていますからね。これからはかなり下世話に何でもやるんじゃないですか。このDVDの中で唄っていたことを軸にして、それを更に展開していく感じになると思いますよ。でも、最近はロックをやっているのが単純に楽しいんですけど、本当は。

地引:僕が紅蜥蜴を最初に見て一番惹かれたのは、単にロック・バンドとして面白いっていうんじゃなくて、他とは違う存在感の強さを感じたからなんですよ。ロックという枠の中での面白さ以上の、その時代に突出した表現だったんじゃないかな。'70年代のアングラ・カルチャーとか反体制とか、そういう流れが完全に途絶えた時代。モモヨとは歳が少し離れているけど、世代的には同じことを経験しているんじゃないかと思う。

平野:今の若い世代で音楽をやっている人達に向けて、音楽でメシを喰うというのはこういうことなんだよっていうのはある?

モモヨ:私は途中でやめてしまったけど、やめないで続けていれば、年金よりはましな印税も入るでしょうね。それがまともな作品ならば。20歳からきちんといい作品を残して年に1回以上アルバムを出していれば、40枚以上ストックがあるわけですよ。その作品が本当に価値のあるものだったら、年金くらいは入るでしょうね。喰える喰えないって、若い連中が生半可な気持ちで音楽でメシを喰おうと思うのが間違い。それだけの音楽を作ろうとする気概がなければダメですよ。

平野:そうだよね。人様からお金を頂くっていうのはそんな簡単なことじゃないよね。いい作品を残したからこそ30年近く経ってもこうしてDVDを出せるんだから。でも、モモヨが最前線に復帰するのは単純に嬉しいな。

モモヨ:ライヴ自体は何年も前からたまにやってきたけど、肩慣らしに近かった。今回は本気です。腹筋も始めたし、声もだんだん戻ってきている。今のロフトのステージは立っているだけで熱いですよ。昔は裸電球みたいなものだけだったからね。でもやっぱり、若さには勝てないな(笑)。

平野:モモヨは今いくつ?

モモヨ:53ですね。

平野:僕は今、62なんだよ。

モモヨ:元気ですね。いつも刺激を求めて歩いていれば元気になるでしょう。

平野:そう。一歩足を踏み出すと、また違う世界があるんだよ。踏み出さないでウジウジしていると単なる繰り返しの日常になるから。大体、62になって“新人ロック評論家”なんて突然言い出すんだからメチャクチャだよな(笑)。

(本文構成:椎名宗之+山田智子)

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ROCK'N' ROLL WARRIORS -LIVE '80-

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収録曲:【STAGE-1】ニューキッズ・イン・ザ・シティ/モダン・ビート/まっぷたつ/エイシャ/サ・カ・ナ/王国
【STAGE-2】ロボットラブ/マーケット・リサーチ/リザード・ソング/ニューキッズ・イン・ザ・シティ/モダン・ビート/エイシャ/サ・カ・ナ/王国/ガイアナ/T.V.マジック/ゴム/レクイエム
パーソナル:Momoyo(Vox)/Waka(Bass)/Bell(Drums)/Kitagawa(Guitar)
特典映像:ロンドンでのライヴ、1stアルバム・レコーディング風景などの写真を元に作成されたミュージック・クリップ/ヴォーカル、モモヨへのインタビュー(2006年撮影)/2007年発売予定『リザード全集』予告編
封入特典:『リザード写真集』復刻版

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