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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】怒髪天(2006年12月号)- 腑抜けた時代に殴り込む トーキョー・ロンリー・サムライマン

腑抜けた時代に殴り込む トーキョー・ロンリー・サムライマン

2006.12.01

「笑い飛ばせるかもしれないぞ」っていう可能性ぐらいはあるんじゃないか

──怒髪天一流のユーモアを盛り込んだ歌も多々ありますが、タイトル曲の印象が強いせいか、全体のトーンが本作はかなり二枚目寄りになった気がするんですけど。

増子:そう? 俺としては前作のほうが二の線は強いと思うけどね。今回の歌詞はメロディと相反するものにしていこうと思ったんだよ。『ニッポニア〜』は歌モノの要素が強かったから、それ以外のところで歌詞の部分はロック寄りにしようと思って、二の線って言うかドライな感じにしたんだよね。

──故郷の夢も見なくなった男が都会の片隅で孤独に耐え忍ぶ姿を描いたタイトル曲、夢と現実の挾間で今なお辛酸を舐め続ける男の半生を赤裸々に綴った「ズタボロブギー」、身を粉にして働くすべての人に捧げた労働哀歌「ビール・オア・ダイ」、現在の日本人の平均寿命をタイトルに冠した「82.2」…と、唄われる内容は相当ヘヴィなものが多いですよね。

増子:まァ、長く生きてたらそのぶん悲しいことやツラいことも増えてくるしね。でも、笑い飛ばさなきゃやってらんないでしょ? っていう。「笑い飛ばせるかもしれないぞ」っていう可能性ぐらいはあるんじゃないか? って。今までと別にやり方は変わってないよ。歌詞も話し言葉に近くしてるし。ただ今回決定的に違ったのは、歌詞が付けやすかったっていうのがあるんだよね。今までは詞が付けづらい曲っていうのがあったんだよ。と言うのは、メロディが恰好良すぎて、どうやっても二の線の歌詞しか浮かばない曲とかがあって。でも今回は、もうそのままやっちゃっていいのかな? とか決断がしやすくなって、更にやりやすくなった。今回はその辺のバランスが良かったね。

──それと、本作はいつになくキャッチーな曲が増えた印象はありますね。

上原子:今回は余り自分の中で考えたりしないで、最初に出てきた通りに作ったんだよね。今まではみんなの元に曲を持って行くまでに、ある程度MTRで作り込んだりしてたんだけど、今回はそれをしなかった。みんなで解釈して作っていくっていうスタイルを取って。

──ある程度まで曲を作り込んでからスタジオに入るドリフターズ・タイプ(笑)だった怒髪天が、今回は敢えて最初から作り込みすぎずに。

上原子:そうだね。メロディもそこまで完成されてなくて、せいぜい山場が2ヵ所あるぐらいとか。

増子:これまでは結構作り込んでから形を整えてたんだよね。元々俺達はまず先にメロディありきだからね。意外と歌詞が先だと思われるんだけど、メロディがないのに詞なんか書かないよ、詩人じゃないんだから。

──情景が目に浮かぶストーリー性の高い歌詞だし、歌詞単体でも散文詩として充分成立するから余計にそう思われるんでしょうね。それと、今回は従来のロックやパンク、昭和歌謡的テイストを軸に据えつつ、ジャズやフュージョン、人力テクノまで音楽的要素として織り交ぜていて、これまで以上に凄まじく幅広いジャンルを咀嚼していますね。

増子:それは元からだけどね。ただ、これまでは判らないぐらいに噛み砕いてたんだよ。それが今回はハンバーグで言うなら荒引きハンバーグみたいな、ある程度元が何だか判るぐらいに残してみた。人と話す時だって、怒鳴る時と諭す時と囁く時とあるわけでしょ。それに合ったリズムとかビートとかがあるわけじゃない? だからむしろこうなって然るべきっていう気がするけどね。

清水:でも、これだけヴァラエティに富んでるのに不思議なぐらいバランスがいいんだよ。

──そうそうそう。全くその通りなんですよ。

上原子:「こういうものを作ろう」と思って作るっていうのが俺はできなくて。例えば「ジャズっぽいのを作ろう」とか。曲が出来る時っていうのは、やっぱりその時々の気分によるんだよね。呑んだ帰りは自ずと浮かれた感じの曲になるし、朝気分が良かったらそういう曲…今回で言ったら「喰うために働いて 生きるために唄え!」みたいな曲になるし。だから余り頭で考えて出来るものじゃないんだよ。それが集まって1枚になるから、全体のバランスは最後まで読めないんだけど、今回は良かったよね。

増子:うん。これまでは友康がサウンド・メーカーとしてやりたいことが明確にあって全体を引っ張っていたんだけど、今回はもうちょっと個人でやりたいことを自由にやらせてくれたって言うか。バンドとしてもっと新しいところへ行こう、って。

上原子:「もっとバンドになりたい」って言うかね。「この4人でやろう」っていう。詞とメロディと楽器と全部絡み合った感じを目指したよね。まだまだバンドになりたいと思ってるし。

増子:技術的な向上だけじゃなくて、バンドとしてこなれてきたって言うかね。それぞれがやりたいことを割と合わせられるようになってきたっていうのはあるよね。

──合わせてみたら、「ああ、やっぱり同じこと思ってた」みたいな感じですか?

増子:そうだね。あと、気付かなかったことに気付くとか。一人ひとりの考え方の中で「それはないだろ」って思うことも、やってみたら意外と良かったり。それと今回は、作ってる最中にもう次のアルバムのことを考えられるような感じだったんだよ。

清水:そう、ホントにもう次が楽しみ、みたいなね。

──従来の曲作りを変えてここまで聴き応えのある作品が生まれると、友康さんが考える今後のヴィジョンが気になりますけど。

上原子:まだ考えてないけど、今回のやり方がやっと見えてきたので暫くはこれでやってみようかなと思ってる。丸っきり違う作り方っていうのも興味はあるけどね。

増子:友康にはソロをやって欲しいんだよね。それか人に曲を提供したりさ。名前を隠して人に唄わせたらさァ、絶対売れる曲作れるよね。売れる曲も作れるけど、ただやらないっていうだけ。お客さんから「覚えやすいメロディですね」ってよく言われるけど、それはホントにそうだよ。だって俺でも覚えられるんだもん(笑)。

上原子:でも、どっかひとつが飛び抜けてるっていうふうにはしたくないんだよね。ギターもベースもドラムも、歌詞もメロディも全部が立ってるのがいい。

増子:まァ、それがバンドの良さなんだろうね。誰一人欠けることができない、っていう。
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