Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】サンボマスター(2006年4月号)- サンボマスターと平野悠対談の全てをロックンロールと呼べ!

サンボマスターと平野悠対談の全てをロックンロールと呼べ!

2006.04.01

昨年日本ロックシーンにおいて、相対値ではなく絶対値としての存在感を見せつけたサンボマスター。その彼等が遂に発表する3rdアルバム『僕と君の全てをロックンロール』は、荒れ狂う世界の中で個としての再生を願う清らかな祈りが全編に秘められた問題作と言って良いだろう。この大力作に対して本誌が選んだインタビュアーは、ロフトグループ席亭平野悠、かねがね今の日本のロックに興味はないと語る平野が何故サンボと? この時点では新作は実は未聴であったが、それまでの彼等の作品は聴き込み、ライヴも何度か体験済みの平野の自論は、これまでのサンボインタビューには無かったカオスが充満。そして何よりも「今この日本にとって必要なロックンロールとは何か」という新作アルバム最大のコンセプトの本質が剥き出しのままここに在る。前代未聞のサンボVS平野ガチンコ90分一本勝負、いざスタート!(吉留大貴)

コミュニケーションのロックをやりたい
01_ap1.jpg

平野:僕はサンボマスターのアルバムを聞いて、今日本の青年達が抱えてる不安とか焦燥感がジンジン来るんですよ。しかしそれがどこにいこうとしてるのかが見えない。見えてない焦燥感があれだけのサウンドエネルギーになっているんじゃないかっていう感覚はあるんですけど。

山口:僕が平野さんと決定的に違うところは、まず心ですよ。インナーミュージックがやりたい。僕は西洋的な考え、恩恵をいっぱい受けてるし、尊敬もしてるところいっぱいあるけど、やっぱりインナーなものから調和とか東洋的なことができないかなと。しかもロックンロールで。だって今回のアルバムのコンセプトもそうだけど、日本人って桜見てセンチメンタルな気分になったりするじゃないですか。それってすごく素敵なことだと思うし。僕の今の結論で言うならば、コミュニケーションのロックをやりたい。もっと言えば、平野さんたちの世代は僕らのことをコミュニケーションが取れないって言うけど、俺から言わせれば「あなた達こそなんか取れたの?」って言いたいの。ひとつひとつの問題っていうよりは、僕らが抱えてる時代の不安であるとかロックが歌うべきなんじゃないかと思うんですよ。

平野:日本でも約40年近くたってて、世界でも50年近くの歴史を経ているロックがここまで長生きして、今まで僕らはロックは楽しければそれで素敵じゃんって言ってたのが、これだけいろいろ世界が流動化していって、それぞれのミュージシャンの立ち位置がある中でロックが何を目指そうとしているのか。そこを見ていかないと、ロックの最先端にいるのは難しいと。

山口:平野さんはただロック聞けばいいじゃんって思っていたのですか?

平野:僕ら「政治季節の時代」の中で育ったから、そこをずっとひきづってきて「ロック=反体制」とか反逆とか反権力とか、どうしてもぬぐい去れない世代なんだよね。

山口:ところが近年はそれが言えない空気だったとか。

平野:そういう政治や社会問題の話をするのがダサイじゃんっていう歴史がずっとあったんですよ。ロックは聴けばいいと。しかし今やロックも話す時代に来た。学ぶことも必要。僕らが若い時代に聴いていたジャズのソニー・ロリンズやコルトレーンは黒人解放運動やブラックパンサーなんかを応援していた。僕はロリンズが好きだった。彼の音楽を通してロリンズとはどんな生活をしてるのか。どんな意識を持ってるのかっていうのは好きだったらどうしてもいろいろ彼の思想的側面とか知りたくなるじゃないですか。そこで始めて第三世界を知ったり。そういう世代だからジャズがフュージョンになってロックとジャズの融合だみたいなのはちょっと待てよって。いやだな…って。

山口:CTI派はおもしろくないわけだ。

平野:どうしても僕らの世代はフォービートなわけよ。で、日本のロックの流れの中でも結局はっぴいえんどや裕也さん系ロックがあって、日本語ロック論争とかがいろいろあったりしながらニューミュージックというところに行き着いてしまう。そうすると時代の風潮はかぐや姫とか(吉田)拓郎とかユーミンだとかがありもしない中流意識を歌詞の中でたたき込む訳よ。でも、その時代はまだ良かった。何故良かったというと高度成長の段階だからまだ未来があった。希望があった。ここでがんばって働けば将来は豊かな生活をする事が出来るといった…。

山口:やっぱりありもしない中流意識だったんですか?

平野:例えば今あなたが家賃6万円の生活をしているじゃないですか?

山口:よく知ってるな(笑)。

平野:当時、同じような生活の若者はせんべい布団で裸電球で寝てるわけですよ。そこで聴いてるニューミュージックで中流意識を見るわけじゃん。

山口:気持ちいいわけだ。目標が上に見えるから。

平野:それが今の時代まったくないわけでしょ。今の若者にとって右も左も真っ暗…。格差社会があって、心をどこにもっていいのかわかんない。

山口:いろんなロックがあるのを前提で言いますけど、人はひとりぼっちだっていう言葉は僕にとって全然現実的ではない。人がひとりぼっちだっていうのはみんな10年も前からわかってる。そこからどうするかっていうことがロックがやるべきことなんじゃないかって思ってるわけ。そういう心の問題を僕は歌いたいんですよね。心の問題を歌う世界の中にいろんな問題、恋愛でもいいですよ。もっと言ったらエロでもいいし。でも絶対俺達が無視しちゃいけない問題として戦争とかそういう問題が必ず避けて通っちゃいけないっていう認識ですね。

平野:戦争とか飢餓とか、現実に起こってることに対してることを避けられないってことで言えば、音楽は戦争とか暴力を止められるのかはずっとロックが問われてきた問題だと思う。

山口:それは今んとこ止めてないんだから止められないって言うしかないですよ。戦争やめろって言ったって何言ってるの? って話ですよね。だけどそこで歌うことによってその人の世界、数万数千万のひとつが変わるかもしれない。

平野:山口さん達のコミュニケーションっていうのはラブ&ピースって形で捉えていい?

山口:恐いですけどね。

平野:僕等の時代はベトナム戦争がひどい形であって、徴兵を拒否した自由を求めるヒッピーの人たちがラブ&ピースを叫ぶ、それが挫折して、ギター持ってみんな理想の地を求めて世界中に散らばってヒッピーになって最終的にはドラッグで沈没していった時代があったんだよ。で、僕らはそこで非暴力なラブ&ピースはもう駄目だなって。結局僕ら世代は失敗してるし。ただ、あなたが昨年の『Quick Japan』の対談で山下達郎さんに何で愛とか戦争の問題をやらないんですか? って聞いたら僕は1回挫折してるからとか、僕はアナーキストだからそう言うことはやらないと言われてるわけじゃん。それに対して山口さんは反論なかったの?

山口:あなたの平野史観はそうかもしれないけど、俺は達郎さんの歌で気持ちよくなってるし、それを否定するのはおかしな話。それに挫折したって言われて、俺はそうなんだって思っただけだから。平野さんからしたら何だ? って思うかもしれないけど、30の僕から見たらあの音楽史でいろいろやってきてらっしゃる人ですよ。

平野:僕は山口さんは彼をリスペクトしすぎだっていう気がしたんですよ。

山口:俺はまず達郎さんがすごく好きなわけ。だけどリスペクトしすぎで意見を言わなかったっていうのはないですね。何故そう感じたんですか?

平野:彼も含める俺達世代の問題としてね、いろんな事も含めてだけどこんだけヒドイ日本にしてしまったっていう罪の意識が彼には余りないのかなとは正直思ったよね。坂本龍一とかは、あれだけメジャーになってもコツコツやってるんだけど。その時の対談で山口さん辺りの若い世代があんたら世代は何なんだって言って欲しかったのよ。

山口:それは夢だよ、平野さん。俺から言わせてもらえば平野さんの夢は何十年前に解決しておいてくれよって思うわけ。だいたいなんでそんなこと俺に言うの? そんなに腹が立ったら自分で言いに行ったらいいじゃない。

平野:俺達の若き時代には社会を仕切っているジジイどもにこいつら早くステージから去れ! といつも思っていた。お前等がこんな社会を作った、責任とってさっさとやめなって。時代は俺達若者の手にあるんだってことを山口さんは言うべきだと思うんですよ。断罪すべきなんだよ。そうしないと社会もロックもよくなんない。

山口:そんなことないよ。だって、なんで平野さんのロフトの歴史を否定しなければならないの?

平野:社会全体の問題だから。戦争や平和、環境の問題とか日本のこれからの問題、僕らの前の世代は戦争を引き起こした世代、そして僕らの世代が今の世の中を作ってきて、僕ら世代が今や社会の中枢にいるわけじゃない。これはみんな腐りきった団塊の世代。それまでは命かけて新しい日本を作りたいっていろんなこと考えた連中、文化運動やらをやって来た連中がみんな全共闘の敗北や左翼の内ゲバリンチ殺人事件が起こって沈黙してしまった。それが80年代後半に完全に凍結された。それからずっと20年もの「もう、そんなこと語りたくもない」って沈黙の歴史が俺達にあって、それで俺ら世代は何をしたかというとエコノミックアニマルと世界中からバカにされれる位一生懸命働いて金を儲けて、公害垂れ流しながらみんな経済に走っちゃた。俺達が若い時分は…権力を持ったジジイどもを憎んでた。なんで俺達がこんな戦いをやるのか、お前等がヒドイからだろ。お前等がこんな世の中作ったんだろ。って言って俺達は学園から立ち上がった。お前等おやじどもには任せてはおけない。っていうのが40~50代の人たちへの20代の俺たちの姿勢だった訳よ。俺はそれを山口さんとか20代の人たちがなんでやらないのかと。

山口:聞けば聞くほどそれは平野さんの夢なんだよ。俺はあなたの世代の奴隷じゃねーんだよ。 そんなの平野さんと同じやり方でやってどうするんだよ! 平野さんは失敗したんでしょ? だいたい、自己否定するよりもあなたがもう1回やったらいいじゃない! 俺達のロックを聞いてこうやって来てくれたわけでしょ? 何で自分でやろうと思わないのかなぁ?

このアーティストの関連記事

手紙

1,223yen(tax in)

amazonで購入

僕と君の全てをロックンロールと呼べ

3,059yen(tax in)

amazonで購入

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻