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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】wash?(2005年11月号)- 構築と破壊を繰り返すロックという名のドキュメンタリー

構築と破壊を繰り返すロックという名のドキュメンタリー

2005.11.01

一対一でオーディエンスと向き合う姿勢

──その「エレベーター」に限らず、平たい表現になりますが光と影、希望と絶望を等比に唄う姿勢がアルバム全編に貫かれていますよね。

奥村:希望を唄うのはその人が希望を持てない瞬間を経験したからこそだし、絶望を唄うのは絶望になりたいから唄うんじゃなくて、その最中にいて混沌としている時はどれだけ明るい内容の歌を唄っても全く胸に響かないからなんだよ。少なくとも俺はそういう人間で、希望と絶望、そのどちらかが欠けてもwash?の世界観は成立しないんだ。

──奥村さんと南波さんのツイン・ギターが生み出すうねりはwash?サウンドのダイナミズムを形作る大きな要素ですが、一曲一曲におけるきめ細やかなニュアンスや表情というのは岡さんのベースが重要な鍵だと思うんです。もちろん、そこへ有機的に絡み合うウチヤマさんの力強いドラムを大前提として。

奥村:うん。俺は心のどこかでwash?はレゲエ・バンドだと思っているところがあって、ベースの存在感が凄く大事なんだ。必ずいてほしいところにちゃんと在る状態と言うか。

岡 啓樹(b):いやぁ…。今回のレコーディングはやっぱりうにさんの手腕が凄かったですね。アンプのセッティングだけで言うと、「ナナイロ」の時の「light」と「パズル」は同じなんですけど、多分それはうにさんの創作ですね。自分の力じゃないですよ。

奥村:でも、うにさんは「何にもしてない」って言ってたよ(笑)。

岡:「パズル」の時は細かいフレーズとかを全然決めてなくて、レコーディングの時にバーっと録ったんですよ。だからあの細かいニュアンスはもう二度と弾けないなぁと…。

奥村:「light」と「パズル」は特にベースが肝だからね。wash?としての経験値がみんな上がったから、曲の肝をつかむスピードもそれに合わせて上がってきていて、中でもウッチーはその速さが特にアップしていると思う。俺は曲を作ったりリハをやって興奮すると「そこを“アー!”って行く感じで」とか「ここはもっと“ウー!”っと」みたいに訳の判らない擬音で物事を伝えようとするんだけど(笑)、それでちゃんと理解してくれるメンバーだから凄く助かってる。

ウチヤマユウキ(ds):そう言ってもらうのが逆に一番よく伝わるんですよね。例えば「『エレベーター』のそこのキックの部分、“アー!”って感じなんだよ」って言われたほうが、自分もそのままスムーズに叩けるんです。そういう“アー!”とか“ウー!”といった共通言語がこの4人の中にはあるんですよ。それが確固としてあるからこそ、ライヴの最中に前の3人を見ると曲のポイントとなる所で全く同じ動きをしているんです。

奥村:そういう共通言語を持つのは本来とても難しいことだけど、俺達にはそれができている強みがあるね。

──そもそもロックをやる以上、頭で考えるよりも先に身体が反応するような言語感覚こそ健常でしょうしね。

奥村:うん、自分が理屈っぽいから余計にそう思う。言葉は凄く窮屈だし、言葉にすればするほど本来の意味からはどんどん遠ざかっていく。核心を衝く言葉はいつもシンプルだし。それに比べて音はなんて自由度が高いんだろうと思う。自分の気持ちを伝えるにも本当に楽だし、何も悩まなくていい。

──でも、今度のアルバムは音だけではなく言葉の伝わり方も前作に比べて格段の差があると思うんですが。

奥村:例えば内緒話って、小さい声で喋るがゆえにちゃんと喋ろうとする意思が働くから、滑舌が逆に良くなるでしょう? 普段の会話でもそうなんだけど、相手に判ってもらいたいと思って喋るのと、どうでもいいやと思う相手に喋るのとでは、声のトーンや伝え方が全く変わってくるんだよ。だからこのアルバムを録る時に自分で凄く意識したのは、“本当にこの想いを判ってほしい”とマイクに向けて思いながら唄ったことなんだ。それからはやっぱり言葉の出し方が自ずと変わってきた。小さい声で唄ってもちゃんと声が立つようになったしね。

──自分の想いをちゃんと相手に伝えようとすることはコミュニケーションの基本ですからね。

奥村:そう。それは楽器でも同じことだと思うんだ。漫然と弾くのと、自分で恰好いいと思いながらグァーンと弾くのとでは全然違う。それが本当に恰好いいかどうかは別にして、何かしようとしている意思とか棘の部分は間違いなく伝わる。大概の人達はそういうことを自覚しないでやっているんだろうけど、俺達みたいに一個一個確認しながら前へ進んでいくしかない連中は、そういうことに気づくことが何より大事なんじゃないかな。

──そんな不器用にも程があるバンドが生み出すからこそ楽曲に生々しいリアリティが息づくんだろうし、「パズル」のような激しく心を揺さぶる曲はwash?にしか生み出し得ないものなんだと思います。

奥村:言葉は悪いけど、「パズル」という曲には正しい意味でちゃんとがさつになってほしかったんだ。人の心はそんなに綺麗にできていないと思うし、もの凄く大真面目に世界一女々しいことを唄っているから。人を窒息させるくらいのがさつな歌になってほしかった。そのがさつさを最もリアルに体感できるのはやっぱりライヴだと思うよ。

南波:そう、この絶対の自信作を聴いてもらうのは『Rooftop』の読者なら当然として(笑)、月並みな言葉だけどライヴに足を運んでほしいよね。wash?は何よりもライヴ・バンドだし、その真髄はやっぱりライヴにある。とにかくライヴを観てもらえれば、アルバムを聴いた印象が2倍、3倍増しになるはずだから。“CDで聴いたのより良くないな”とは絶対に思わせたくないと思ってライヴに臨んでるし。

奥村:レコーディングは構築する作業の究極だけど、ライヴはそれをブッ壊す作業の究極だからね。ロックはそうした構築と破壊を繰り返すドキュメンタリーだと思ってる。それには聴き手の存在が不可欠で、こっちから投げたボールが返ってくるところを俺はこの目で確認したい。それは例えば評論家筋から評価されるとか、CDが売れるとかがひとつの形としてあるんだろうけど、そこでも多分俺はリアリティを感じられないと思う。だったらライヴをやって聴き手の反応を目の前で見れたほうが嬉しいし、確信が持てるんだ。俺達は4人で場内にオーディエンスはたくさんいるだろうけど、俺はいつも一対一で向き合ってライヴをやっているつもりだからね。

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