Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】→SCHOOL←×AxSxE(NATSUMEN)(2005年9月号)-『感情的format』発売記念対談『感情的音楽談義』

『感情的format』発売記念対談『感情的音楽談義』

2005.09.01

名古屋を拠点に活動していたCHOKOのヴォーカル&ギターだった矢野晶裕が、バンドの活動休止を受けて去年の夏からスタートさせたソロ・ユニット、→SCHOOL←。時にサポートを入れたバンド形態であり、時に弾き語りもこなすユニークな多変形ユニットである。待望のファースト・アルバム『感情的format』は、自主レーベルよりリリースしたカセットテープにも収録されていた「ワンダーステップ」「春風」を始め、ロックのダイナミズムを凝縮させた渾身の全8曲を収録した充実作であり、プロデュースはPANICSMILE、on button down、メレンゲ、FOOL&SCISSORS等々、プロデュース作品は枚挙にいとまがないAxSxE(NATSUMEN)。このアルバム発売を記念して、下戸(主役)×鯨飲(プロデューサー)の両者が時にユーモアを交えつつも真摯に繰り拡げる感情的音楽談義、どうぞご笑納下さい。(interview:椎名宗之)

自分のいいところを自分で消そうとしていた(矢野)

──お2人は以前から知り合いだったんですか?

AxSxE:知り合いって言うか、楽屋で会っていたって言うかね。彼がまだCHOKOをやっていて、僕がBOATをやっていた頃にイヴェントで一緒になったんだよね。あれは確か…'98年頃かな。

矢野:僕はBOATのファンだったから、凄く緊張して。初対面の時は、コワイお兄さんだなぁと思いましたよ(笑)。

AxSxE:後から記憶を辿っていったら、ストレートの黒髪のかわいい男の子がいたなぁって思い出して(笑)。

──→SCHOOL←として初のアルバム『感情的format』は最初からAxSxEさんにプロデュースをお願いしようと?

矢野:いやいや、僕から連絡を取る術はなかったですから、スタッフの薦めでお願いしました。AxSxEさんも有り難いことに快諾してくれて。実は、AxSxEさんが今NATSUMENをやってるのを僕はずっと知らなかったんですけど、聴いてみたら案の定ツボにハマりましたね。

AxSxE:最初に矢野君のデモを聴かせてもらったのは、矢野君のスタッフに呼ばれて行った六本木ヒルズのオフィスだったんですよ(笑)。曲によってイメージが違ったりしたけど、真っ白な…何て言うか、透明感があるなぁと思いました。六本木ヒルズの窓ガラスみたいなファースト・インプレッションを受けましたね(笑)。

──実際に作業をご一緒して如何でした?

矢野:楽しかったですよ。ひたすら酒を呑んでるイメージがあったんで。

AxSxE:さすがに呑みながらは作業してないけどね(笑)。

──今回の『感情的format』は、これまでデモのカセットテープが3本あった上で、改めて→SCHOOL←を仕切り直す意味合いもありますよね。お色直し盤といった趣もあり。

矢野:前に出したテープは一作ごとにその都度好きなように作っていたから、音に統一性がないんですよ。だからこのアルバムではまずそれをちゃんと一本芯のあるものにしたかったんです。漠然とした言い方になりますけど、嘘のない感じにしたいと思っていて。音的にはソリッド感があるものを出せたらいいなと考えてました。

AxSxE:音を統一すると言うよりは、矢野君という人間性を芯に置くって言うのかな。それが打ち込みだろうと生音だろうと、そこに矢野晶裕という人間が軸にあればブレないと俺は思ったんですよ。

──このアルバムには、どことなくNATSUMENにも通じる夏っぽい季節感があると思ったんです。ギラギラした真夏というよりは、梅雨が明けてこれからが夏本番を迎えるくらいの時期の、キラキラした夏っぽさと言うか。

矢野:単純にそういう夏っぽさが出ているのは、僕がBOATを好きだったこともあると思いますよ。

AxSxE:逆に俺はそういうのが自分では判らないんですよね(笑)。あと、俺もそうだったんですけど、一人で多重録音するデモってカチッと作り込んでくるじゃないですか? だけど、矢野君がプリプロでギターを弾いてるのを聴いたら、それまでに聴いてたデモの感じとは全然違ったんです。ゆらめいて拡散してる感じって言うか、ああ、ホントはこうなんだなぁ…って思いましたよ。

矢野:それこそ、僕も自分ではよく判らないですよ(笑)。

AxSxE:アルバムのタイトルが示している通り、矢野君の感情が全面に出るように心懸けましたね。ギターをきっちり弾けば弾くほどクォリティは上がっていくけど、初めに抱いた瞬間的な感情は薄れていく。矢野君の完成されたデモは凄くいいものもあったんだけど、それとは違った、“人間・矢野”が音をえぐる瞬間的なものを音像として欲しいと思った。

──となると、テイク自体は幾つも録らないで、限りなくファースト・テイクに近い形のほうが、いわゆる初期衝動的なものは生まれやすいですよね。

矢野:最近の僕は確かに宅録重視になっていたし、レコーディング自体がほとんど一発録りに近い形でパッパッパッと早いスピードで進んでいくのはどうなんだろうと思っていたところが正直あったんです。でも、こうして出来てみて思うのは、一発でドーンと行く感じは忘れちゃいけないなということですね。

AxSxE:俺も昔は、自分が頭の中で描いたイメージを余すところなく具現化したかったし、それを人が介在した途端に違うものになってしまうジレンマもあったから、家で一人デモ作りに没頭していたこともあったんです。だから矢野君の気持ちは凄くよく判るんですよ。以前、アイゴン(會田茂一)にBOATをプロデュースしてもらった時もファースト・テイク主義で、エラく驚きましたから。ファースト・テイクには何かがあるっていうのを理解したのはもっと後になってからですよね。

矢野:化学反応みたいなものも、そこにあるとは思うんですよ。でもそういうものが、自分はソロになったからもうできないだろうって勝手に考えていたんですね。それがAxSxEさんがいてくれたことによって実現できたんじゃないかと思いますね。

──→SCHOOL←は矢野さんのソロ・ユニットなんだけど、この『感情的format』にはバンド・サウンドのダイナミズムが驚くほど脈打ってますよね。CHOKOの時にバンドに限界を感じて活動休止したはずが、こうしてまた紛うことなきバンド・サウンドに揺り戻ってきたところが面白いですよね。

矢野:うん。だからこのレコーディングを通じて、自分のいいところを自分自身が消そうとしていたのがよく判ったんですよ。

AxSxE:己を知ることは大事ですからね。それが判らないとさらにその先へは進めないからね。

──AxSxEさんとしては逆に、→SCHOOL←のレコーディングを通じて数年前にアイゴンがプロデュースしていた立場がよく理解できるようになったのでは?

AxSxE:うん、それはきっとあるでしょうね。自分がプロデュースをやるようになって初めて、“ああ、あの時アイゴンはこう思っていたんだろうな…”って判る瞬間があったと思いますよ。

矢野:最初、AxSxEさんってもっと理屈っぽい人だと僕は思ってたんですよ。ところが意外とラフって言うか、凄く人間味があって。

AxSxE:理詰めで何かを説明するよりも、「ああ、今のグッときた!」とか、もっと直感的な言葉で伝えようとしましたね。矢野君が何をやりたいかというのをまずはちゃんと汲み取って、それを最優先するプロデュースのやり方を取りました。自分の考えは置いといて、あくまで本人優先で行きたかったですからね。ただ、進行は凄くタイトで、意識が朦朧として記憶が飛んでるところもありますよ(笑)。

矢野:あまりに徹夜が続いたから、アルバム・タイトルを『RISING SUN』にしようかと思ったくらいで(笑)。

このアーティストの関連記事
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻