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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BEAT CRUSADERS(2005年5月号)- 今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います

今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います

2005.05.01

何事もなかったことにしてのうのうと生きたくはない

──あと、今回もライナーノーツにヒダカトオル(中州産業大学教授)による全曲解説が付いてますが、かなり情報詰まってますねぇ。
 
ヒダカ:曲作りよりこっちのほうが時間かかってますから(笑)。
 
──『渡鬼』とか『少女に何が起こったか』(註:小泉今日子、石立鉄男らが出演した大映テレビドラマ。1985年放送)とか、曲と全然関係ないような解説が多い気もしますが(笑)。
 
ヒダカ:いや、やっぱりキョンキョン好きなんで…。
 
──ていうか、石立鉄男じゃ歌詞の世界観ブチ壊しじゃないですか。
 
ヒダカ:自ら構築して自ら壊すというのは、パンクスの基本ですから(笑)。まぁ照れ隠しということで。
 
──でも、解説に出てくるバンド、映画、小説をチェックするだけでも初心者はかなりサブカル知識が鍛えられますよね。
 
ヒダカ:俺、先生キャラだと思うんです。そのうち伊藤政則さんみたいになるのかなって。ルックス的にも近いし(笑)。ポップ・パンク界の先生になりたいですね。以前は「わかんないことがあったら自分で調べろ!」ってスタンスだったのが、最近じゃ「俺のところに訊きに来い!」って感じです。時々ファンの子からプレゼントをもらうこともあるんですが、俺が一番喜ぶプレゼントって「ヒダカトオルが好きなバンドを好きになりました」ってことなんですね。バンドをやるってそういうことだと思うんです。俺には自分がナンバー・ワンになりたいとか、自分の内なる芸術性に人を酔わせたいっていうアーティスト・エゴは全然ない。むしろ21世紀においてそういうエゴはもう要らないと思いますよ。レコード会社がビークルのプロモーションに使ってくれる宣伝費っていうのは、俺が見てきたもの、聴いてきたもの、おもしろかったものに対する宣伝費だと思ってますから。だから、今音楽で悩んでる人はヒダカトオルを訪ねてくれと。まず最初はガスタンクから聴いてもらうけど(笑)。
 
──いきなりハードル高いなぁ。
 
ヒダカ:だからこのCDも、ロックおもしろ教科書として聴いて欲しいです。とりあえず、アジカンやエルレガーデンを好きなニュー・スクールも、ラフィンやガスタンクを忘れられないオールド・スクールも、ビート・クルセイダースを聴けば全てはひとつになるような気がします。それがおすすめポイントです。もちろん80's好きも大丈夫です。
 
これは『Rooftop』だから言いますが、アルバム・タイトルの『P.O.A. ~POP ON ARRIVAL~』は今のJ-POPに対するアンチテーゼでもあるし、もちろん元ネタである『D.O.A.』(註:セックス・ピストルズを追いかけたドキュンタリー映画。デッド・ボーイズ、シャム69なども登場)の意味も当然ある。『DEAD ON ARRIVAL』っていうのは、あの当時の80'sハードコアによくあるタイトルなんですが、要は即死っていう意味じゃないですか。あの頃ってそこまでネガティヴだったんだなって。G.B.H.、The Exploited、Discharge…どのバンドも、世界っていうのは腐っていてダメなんだっていうことを言っている。それってよく考えてみると、当時世間はバブルだったからこそああいうアンチが必要だったんだと。逆に今は世間のほうが絶望しちゃってるじゃないですか。だから底抜けのことを言っちゃったほうがいいのかなって思う。だから、G.B.H.と真逆のことやってみようっていう発想でこういうタイトルにしたんです。
 
もちろんあの頃のネガティヴ感って俺も持ってたし、ネガティヴなメッセージを発信してそれを受け止めることがカッコよかった。でも、今はカッコよくないじゃないですか。だって俺と同じ年ぐらいの人が包丁持って学校に入っちゃってるんだから。大人が路頭に迷ってる。そうすると、あの当時のハードコア闘争って何だったんだろう? って考えてしまう。まるで60年代末に安保闘争やってた人たちが普通に会社の重役になっちゃってるみたいな。そしてオレ達がまたそれを繰り返すのだとしたら、とても歯がゆい。あの頃のパンク闘争をまるで何事もなかったことにしてのうのうと生きてるぐらいだったら、俺は悪ガキでいたいですね。そういう大人なりの毒はあると思います。このアルバム、ないしはビート・クルセイダースという存在そのものに。だから簡単にキャーキャー言われたくないし、言わせないものをいつもやってるつもりなんです。だから退いていく人もいるんだろうし、それはそれで結構だと思ってる。そういう毒は常に盛り込みたいですから。今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います。
 
──「HIT IN THE USA」で底抜けに明るいアメリカを表現することが、逆に今のでたらめなブッシュ・アメリカのアンチになっているってことですよね。
 
ヒダカ:そうです。そこはロフトが抱えている問題と同じなんじゃないですか。80'sハードコア感とどう折り合いを付けていくかっていうのが勝負どころだと思うんです、平野さんの(笑)。
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