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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BEAT CRUSADERS(2005年5月号)- 今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います

今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います

2005.05.01

ホリエモン騒動をさかのぼること1年半、電撃の買収劇でメジャー移籍したビート・クルセイダース(以下、ビークル)は、以来、数々のロック・フェスへの進出、アニメ『BECK』の主題歌提供と我々の予想を越えた活躍をみせ、この度、バンド結成8年を集大成すべくメジャー第1弾アルバム『P.O.A. ~POP ON ARRIVAL~』を完成させた。お面、「おま●コール」といった小学生並みの発想からは想像もつかない、美しいメロディとバンド・サウンドを紡ぎ出すPOP界のジェダイマスター・ヒダカトオルにビークル流POPの極意とその暗黒面 について存分に語っていただいた。心眼を開いて読まれよ!(interview:加藤梅造+やまだともこ)

所詮、俺達お面ですから

──ビークル、メジャー移籍後の第1弾アルバムがいよいよ発売となりますが、意外と助走期間が長かったですね。
 
ヒダカ:途中に『BECK』がありましたから。当初の予定ではサンボマスターと同じタイミングでアルバムが出て直接対決になるところだったんですけど(笑)。
 
──そうか、『BECK』では楽曲提供の他に音楽監修も務めたんですよね。まぁ、結果 的には『BECK』後ということで話題性も増してると思いますが、手応えはどうですか。
 
ヒダカ:このアルバムは自分で改めて聴いてみて、混沌としてるというか、すべてをひっくるめた感じがします。今までは重箱の隅をつつきに行ってたのが、今回は重箱全体を歩き回った感じで、時には重箱の外にも出て行ってますね。
 
──それは時間をかけて作ったから?
 
ヒダカ:というより、『BECK』でいろんな人と作業する中で意外な発見が多くて、例えばTROPICAL GORILLAが普段よりもメロディックな曲を作ってきて珍しくちゃんと歌ってるなぁとか(笑)、逆に、TYPHOON24にYKZのTATSUZOが入ってちょっとHIP HOP的なことをやってくれたりとか。だから、自分を一回疑ってみるというか、もっとできるんじゃないかっていう問いかけを自分にしながらやりました。今回のアルバムの初回盤には、バラード曲(「SAY GOOD-NIGHT」)が入ってるんですが、これは、『BECK』に「MOON ON THE WATER」という曲を提供してSoweluちゃんに歌ってもらったところ、「すごく素敵なバラードですね」って言われたことが大きいです。自分としてはR.E.M.の「Night swimming」みたいにフォーキーな曲のつもりが、それをバラードと認識してもらったのが新鮮で。今までロックのバラードとしてはTHE MODSの「バラッドをお前に」かRCの「スローバラード」ぐらいしか認めてなかったけど、もっとPOPになるためにはそういうチャレンジもいいんじゃないかと。
 
──なるほど。僕はまたビリー・ジョエルぐらい狙ったのかと思いましたが。
 
ヒダカ:もちろんそういうふうに聴いてもらって全然OKです。バラードを無理にトンガらせる必要もないですし、よく考えたらそもそもビークルがバラードやること自体がトンガってるんじゃないかと。朗々と愛を歌い上げても、所詮俺達お面 ですからね(笑)。
 
──お面に愛を告白されても…(笑)。
 
ヒダカ:だって、普通にバラードを歌える人は『Rooftop』に載らないでしょう。平井 堅さんとか(笑)。
 
──あと、いつにも増して80's感が際立ってますね。
 
ヒダカ:まぁ、意識しなくても出ちゃいますよね。どうしても。
 
──一口に80'sと言っても、MTV的なものからポスト・パンク/ニュー・ウェイヴまでいろいろあって、例えばニュー・ウェイヴなんかは結構リバイバル・ブームもあったりしてるんですが。
 
ヒダカ:そうですね、80'sリバイバルというよりは、ニュー・ウェイヴが良かったところをちゃんとやりたいなと。例えばディペッシュ・モードって言ったら、英米ではスタジアム・クラスのビッグ・バンドじゃないですか。でも日本だと渋公か、せいぜいサンプラザぐらいだったと思うんです。キュアーとかも。だから、そういうバンドの何が良かったのかっていうところをちゃんと伝えたいなと。
 
──当時の日本ではそれほど受け入れられていたとは言えないですからね。
 
ヒダカ:クラフトワークって、パッと思い浮かべるのはラップトップの前にメンバー4人が並んでる姿だと思うんですが、俺がイメージするのは「Robot」のPVなんです。ちゃちな書き割りの絵に人間の口だけ合成されているというあのドロドロした感じ、そういうのをちゃんとやりたい。あとDEVOの「Whip It」とかね。
 
──当時MTVで流れたヘンなニュー・ウェイヴの感じですか。
 
ヒダカ:そうですね。僕の場合、MTVじゃなくて千葉テレビの『テレジオセブン』でしたが(笑)。あと、電グルがやってた“ミュートマ”(註:TVKでやっていた伝説の音楽番組『ミュージック・トマト』)は本気で面 白かったですね。だってレギュラーが根本 敬ですよ! もうありえない。根本さんが街で見つけたイイ顔のオヤジの写 真を電グルや森若香織に説明してたりするんですよ(笑)。これ、俺の為に放送してんじゃないかと思ってましたから。
 
──当時の千葉県民と神奈川県民は恵まれてますよね。
 
ヒダカ:ああいう感じをやりたいんです。僕ら電グル見て育ちましたから。電グルはバンドというよりもユニット感が強いと思いますが、僕らはそれをバンドとしてやりたいなと。それはインディーズの頃から一貫して思ってました。極論を言えば、それだけをやりたいです。別 に武道館でライヴやりたいとか、そういうのは全然ないから。
 
──『オールナイト・ニッポン』のDJとかいいんじゃないですか?
 
ヒダカ:やりたいですね。だから、僕らはテレビ・ラジオの一番いい時期に育ったと思いますよ。今、クラスで自分しか知らないみたいな気にさせてくれる深夜番組って少ないじゃないですか。シェアできる人間が限られてるんだけど、それがすごくカッコいいみたいな。音楽ってそういうものをシェアするためのツールですよね。だから、街を歩いてる人がみんなビークルを知ってるというよりは、ギラギラしてる奴だけが聴いてくれればいい。俺達も若い時はそうだったじゃないですか。チェッカーズがどうしたこうしたとか言ってる奴を尻目に、ラフィン・ノーズを聴いて自分をギラギラさせてる、あの感じですよ。
 
──情報化社会になって、売れるものと売れないものがどんどん二極化していると言われてますが、ビークルの場合、ずっとメジャーでもないしマイナーでもないという絶妙な位 置にいますよね。
 
ヒダカ:確かにその通りで、そういうのが好きなんです。永遠の5番手ぐらいが(笑)。2番手じゃちょっと上過ぎだろうと。
 
──「ビークルって知ってる?」っていう会話が成り立つぐらいな?
 
ヒダカ:でも、そういう位置って狙ってなれるものでもない。だからこそ、メジャーにいる限りは数字としての結果 をちゃんと出したいですね。
 

ロック・スター願望は一切ないです

──やはりビークルはメジャーとインディーの橋渡し的な位置と言えますよね。
 
ヒダカ:最近ライヴハウスのスケジュールとか見ると、並びとして脈絡があまりないなぁと思うんです。例えば、ギター・ポップだったり、メロコアだったり、そういったバンド間のリンクが昔はもっとあったかなと。かといって、ジャンル分けをかっちりしろっていう訳じゃないんですが、もう少し一本筋が通 ってるといいなぁと。だからビークルが接着剤みたいになって、例えば俺がいいと思っているアスパラガスとユア・ソング・イズ・グッドをくっつけるみたいなことができるのが嬉しいですね。
 
──前からビークルはそういうシーンの接着剤的な役割を担っていると思いますが、ヒダカさんは気質的にも年齢的にも今後はもっとそういう部分が増えるんじゃないですか。
 
ヒダカ:そういうのが好きっていうのがありますね。基本的にどんな音楽も好きなんです。細川たかしとかも。音楽において仮想敵っていうのが存在しないんです。例えばお化粧系のバンドでも、彼らの背景にBUCK-TICKやオート・モッドとかがあったりするのが見えると音楽として愛せちゃう。まぁそこがビークルの長所でもあり短所でもあって、どうしても音楽性がとっちらかっちゃうから、コアなものやベタなものを求める人達からはそっぽを向かれる可能性があるんです。まぁそれでもいいのかなと思いますけど。どうせ愛されないなら徹底的に笑われてやろうと(笑)。ひねくれるっていうのは性格的にできないんで、嫌われている自分を笑いたいと思います。そこがビークルの基本的なスタンスかもしれないですね。
 
──ビークルはもっとひねくれてるかと思いましたが、意外とそうでもないんですね。
 
ヒダカ:俺自身はラフィン・ノーズやウィラード世代なんで、基本的に男らしいものが好きなんです。でも、同時にフリッパーズ・ギターも好きだったというのがひとつの分岐点だったのかと思いますね。
 
──70年代ぐらいまでは、ロックなんかやってる奴は、社会からドロップアウトした不良か、ギター買ってもらえるいいとこのお坊っちゃんのどちらかって感じがするんですが、ビークルはその両端とはまた別 の場所にいますよね。すごい不良ってわけでもないけど、お坊っちゃんでもない。
 
ヒダカ:俺らはロック・スター幻想を捨てた最初のバンドなんじゃないですか(笑)。最初のCDを出した時、既に30歳でしたから。スター願望やロック・アイコンへの憧れは一切なかったです。ミチロウさんやチャーミーさんには絶対になれないと。逆に、そういったカリスマ性を切り離すことが、俺にとってのパンクだと思ってました。だからロティカにはすごいシンパシーを感じます(笑)。ロティカほどのヨゴレはできないですけど…。あれは相当の熟練と技が必要ですから。最初にあっちゃんと会った時に「あつしさん」って呼んだら、「ダメダメ。あっちゃんって呼んでよ」って、向こうから尊敬されることを否定してきましたから。さすがだなぁと。
 
──ニューロティカって唯一無比の存在だと思うんですが、もしかしたらビークルってロティカの意志を継げる存在かもしれないですね。
 
ヒダカ:俺もそう思います。まぁ、頭髪だけは継がないように頑張りたいと思いますけど(笑)。だから、ロティカのバンド感と電グルのユニット感の間を行きたいですね。といっても、両者とも現役として君臨してるんで早く引退して下さい、と誌面 を借りてお願いしときます(笑)。
 
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