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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】 bloodthirsty butchers(2005年4月号)- 日本の至宝、ブッチャーズが提示したロック・バンドとしての矜持

日本の至宝、ブッチャーズが提示したロック・バンドとしての矜持

2005.04.01

先のことなんて判らないし、だからこそ楽しい

──収録曲の真ん中辺りにインストを配すのはここ数年のアルバムで定着化しつつありますが、今回は「This is music」と「maruzen house」の2曲がそれぞれ曲順のジャストな位置に収められていますね。
 
吉村:今回のインストは、レコーディングの一番最後の肉付けに持ってきたんです。これだけ曲があるなかで、あと数曲足せばアルバムとしてはもう充分なんじゃないか? って声もあったんだけど、“いやダメだ、説得力がない”って思ったの。アルバムを形づけるのに今ひとつ説得力がないから、「インストを録らせてくれ」って言ったんですよ。「maruzen house」は、歌が乗りそうなんだけど乗らない曲として、その前の段階のレコーディングでも録ってあったんだけど、これはこの形で過不足ないんです。僕のなかのこだわりであるハードコアの一部をちょっと出した感じっていうか。「This is music」のタイトルは、皮肉ですよね。射守矢にしてみればフレットすらも押さえてないし。「このフレーズだけあるんだけど…」って射守矢が持ってきて、それをどうにか曲にするのが僕の役目ですから。自分では素直に作り上げたつもりなんだけど、録り終えてみたらブースの向こうから「うわ、ヘンな曲…」ってスタッフに言われたんですよ。自分が思ってる以上に、みんなのヘンな感情を引き出せてる、これはラッキーだ、って思って。じゃ、“これが音楽だ”って皮肉的に思い付いたんですよ。
 
──射守矢さんが曲の断片を持ってくるパターンは今までも結構ありましたよね。
 
吉村:ありましたね。今回で言うと「B2」もそうだし、「サンザン」、「ゴキゲンイカガ」、「This is music」、「No.6」、「banging the drum」。
 
──吉村さんが完全に一人で一から作り上げたのは…。
 
吉村:「プラス/マイナス」とか、あの辺かな。
 
──この「プラス/マイナス」はやはり+/-{PLUS/MINUS}からインスパイアされたものですか?
 
吉村:その名前を貰ったのは確かですけど、直接は関係ないですね。単に“プラス思考、マイナス思考”ってことですよ。言いたいことがあるんだけど、言いたいことが言えるまでの過程っていうか、その情景だけを書いて終わったですね。自分でもプレッシャーがあって、“この曲が恐らくレコーディングのヤマになるな”って思ってて。でも、山の頂点を描き出せれば良かったんだけど、その昇る過程を描いたに過ぎなかったというか(笑)。ポイント、ポイントで“あそこの音、最高でしょう!?”っていうのがあるんです。「プラス/マイナス」で言えば、一頭最初のギター、僕だけのギター(笑)。「maruzen house」ならギターだけのイントロ。“ここッ!”っていう(笑)。
 
──「banging the drum」に「嬉しいけれど泣いている」という歌詞がありますけど、まさにブッチャーズの音楽を的確に表したフレーズだと思うんです。表と裏、光と影、清と濁、肯定と否定…相反する要素が一緒くたになって無理なく共存している。
 
吉村:まぁそれは、音楽を聴いて泣くもあり、高まるものもありで、いろんな感情が引き出されるものですからね。
 
──今回のカヴァー・アートに起用されている奈良さんのイラストも、無邪気なタッチで可愛らしいのと同時に毒気にも満ちていて、ブッチャーズの音楽と相通 じる部分がありますよね。だから凄く相性がいいなと思って。
 
吉村:そうですね。結果的にはホントそう思ってます。奈良さんは何回かライヴに観に来てくれたこともあったし、僕は本も持ってたし、その本のなかで楽器を弾いてる絵もあったし、こちらのイメージ以上のものを広げてくれるかな? っていう期待もあってお願いしたんです。「banging the drum」の歌詞の上に絵を描くっていう、その感覚が最高でしたね。あのザッとした感じが一目見て気に入りましたから。
 
──この『banging the drum』には、これまで発表してきたアルバムのエッセンスがすべて詰まっていると思ったんですよ。『i'm standing nowhere』や『LUKEWARM WIND』の荒削りな激情も、『KOCORONO』の叙情性も、『yamane』の大胆ながら緻密な部分も、『荒野ニオケル~』の巨木のようなブッとさもすべて。
 
吉村:“らしさ”みたいなものは絶対に外さないし。普通だったら差し引きするはずのベースの位 置やドラムの在り方とかを一番最初に取っ払っちゃうなんて考え方が、まずもって…(笑)。
 
──うん、スタートラインが思い切りイビツな形をしてますよね(笑)。それこそが、ブッチャーズがブッチャーズたる所以である“らしさ”でもあり。
 
吉村:そういうちょっとバカな感じっちゅうか…「ベース行こう、ベース! ほとんどベースしか聴こえなくていいんだ!」っていう、そんな考え方ひとつかなぁ…。別 に奇をてらってやってるわけじゃないんですよ。みんなと同じアンプを使って、同じようなギターを使って、誰でも弾けるフレーズを弾いてるつもりだし。自分では未だに判んないですね。…そう、“判んないでいいんだ!”っていう答えが最近の流行りですね(笑)。先のことなんて判んないし、でもだからこそ楽しいんだよ、っていうか。それしかないかな。そうじゃなかったら今頃ブッチャーズは終わってますよ。
 

自分のギターにはもう飽きました(笑)

──一方の+/-{PLUS/MINUS}と互いの曲をカヴァーしたスプリット・アルバムですが、去年+/-{PLUS/MINUS}とツアーで共演した交流のなかから生まれたものですね。
 
吉村:うん。+/-{PLUS/MINUS}と共演したのはブッチャーズにとってもデカかったんですよ。共演して思ったのは、率直に言えばバンドとして凄くいい音を出してるなぁ、と。特にあのドラムは凄いですよ。ライヴだと、音源で聴く感じとはまた違いましたけどね。
 
 ──『banging the drum』が完成してすぐにレコーディングに取り掛かったそうですが、収録された4曲はどれぐらいで完成に至ったんですか? 
 
吉村:一日で音を録って、一日で歌を入れて。ミックスだけは2日ぐらい掛かったけど。
 
──また凄まじい速さですね。選曲の基準は、吉村さんお気に入りの曲というところですか?
 
吉村:いや、メンバーみんなで意見を出しました。全員が1曲ずつ出してる感じになるのかな。僕が最初に取り掛かろうと思ったのが「SUMMER DRESS{ALL WINTER CLOTHES}」だったんです。「I'VE BEEN LOST」が小松(正宏)、「CHROMATIC」は射守矢、「WAKING UP IS HARD TO DO」はヴォーカルも取ってるひさ子かな。
 
──原曲がアコースティックの「SUMMER DRESS」はブッチャーズの轟音サウンドで潤色していますが、あとの曲は日本語訳詞も含めて割とストレートにカヴァーした感じですね。
 
吉村:うん。自分達はバンド形態でやるんだっていうのを最初に決めてたから。“まんますぎるんじゃねぇの?”って思ってはいたけど、勢いでやっちゃおうと。ひさ子にヴォーカルを任せた「WAKING UP~」は、イントロ入ってからの蝉鳴りギター…あれをやることに僕は青春を燃やしてるんです。あのギターを弾くためにこれまで何十年も弾いてきたんだ! っていうか(笑)。+/-{PLUS/MINUS}の曲はポップだけど実は難しいなぁと思うけど、バンドでやるとまたさらにいいなぁっていう発見がありましたね。彼らとは打ち込みをやってる距離感はあるけど…何と言うか、メロディ的にはアメリカでもない、イギリスでもない、敢えて言うなら和風かなぁ、と。微妙な取っつきやすさがあるんじゃないかと思いましたね。
 
──それにしても、+/-{PLUS/MINUS}による「ゴキゲンイカガ」の日本語カヴァーたるや恐ろしい破壊力でしたね(笑)。
 
吉村:僕はそれ、想定ついてましたよ。彼らがあの曲をやりたいって言ってたから、ああいうチープな打ち込みで来るだろうなって思ってました(笑)。
 
──+/-{PLUS/MINUS}はその「ゴキゲンイカガ」、「JACK NICOLSON」、「banging the drum」をカヴァーしていますが、特にパトリックのヴォーカルによる「banging the drum」を聴くと、原曲の良さが際立ちますね。
 
吉村:僕も昨日、マスタリングを終えたのを聴いてそう思いました(笑)。+/-{PLUS/MINUS}にも、僕らがカヴァーすることによって同じようなことを思ってほしいんですよ。“自分達の曲、いい曲だなぁ”って。「banging the drum」は、言葉で言えば“音の洪水”なんです。自分でも美しいと思いますね。
 
──+/-{PLUS/MINUS}はブッチャーズのカヴァー4曲を聴いて凄く喜んでいたと聞きましたが。
 
吉村:そう言ってもらえると嬉しいですよ。なかなかあるようでないようで、難しいところをクリアして世に出せたなぁと思ってて。それはバンドの器量 がそれぞれあったからだと思いますね。
 
──今回『banging the drum』と『bloodthirsty butchers VS +/-{PLUS/MINUS}』を生み出したことによって、バンドの懐がより深くなったというか、さらに自由度が増したんじゃないですか?
 
吉村:それはありますね。だから今考えているのは…まだメンバーにも言ってないので判らないけど、“ベース2本でもいいんじゃないか?”っていう。僕がベースに転向しようかな、と。
 
──えーッ!?
 
吉村:もうギターは飽きた(笑)。“この音を出したかったんだ!”っていうカタルシスは、「maruzen house」の最初にしても、「WAKING UP~」のコードにしても良く出来たとは思うけれど…今はベースを弾きたいなぁっていう。でもね、実は過去にもチャレンジしてるんですよ。Wベースだと射守矢の真ん中にあるベースとぶつかるんですよね。なかなか巧く行かないんです。それでメロディが簡単になったら面 白いなぁとは思ってますね、漠然と。ギターじゃないところでやりたいとは思いつつも、でもやっぱりギターになるのかなぁっていう感じもあるんだけど…。まぁ、またそんなアホなことばかり考えてますよ。落ち着くんじゃなくて、もっともっとやってやろうと思ってますから。
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