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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】 bloodthirsty butchers(2005年4月号)- 日本の至宝、ブッチャーズが提示したロック・バンドとしての矜持

日本の至宝、ブッチャーズが提示したロック・バンドとしての矜持

2005.04.01

 田渕ひさ子の正式加入後初のオリジナル・アルバム『birdy』から13ヵ月。4人編成の"タブッチャーズ"としては2枚目、バンドとしては通算10作目となるフル・アルバム『banging the drum』が完成した。悠然とそびえ立つ巨木のようにブッとい本作、どれだけ控えめに言っても傑作と断言できる。リーダーの吉村秀樹(vo, g)にはこれまで何度か取材をさせてもらっているが、このインタビューを読んで頂ければ判るように、吉村の発言はいつになく力強く確信に満ち、歯切れも良い。つまり自身でもそれだけ確かな手応えを感じているということなのだろう。間髪を入れずに発表される+/-{PLUS/MINUS}とのリスペクティヴ・カヴァー・アルバム(お互いの曲をカヴァーしたアルバム)も安直な企画盤とは一線を画す実り豊かな作品に仕上がっており、結成から18年を迎える彼らの歩みはさらに加速度を増すばかりである。(interview:椎名宗之)

これだけの僕に何ができるかと

──今度のアルバム制作に入る前に「次のはどんな感じになりそうですか?」と吉村さんに尋ねたら、確か「ドン詰まりに暗いアルバム!」と仰ってましたよね(笑)。
 
吉村:うん。最初は暗ーいアルバムになるんじゃないかとは思ってたんですよね。『banging the drum』で一番最初に作ったのが4曲目の「ゴキゲンイカガ」で、射守矢(雄)のベースラインが暗い感じで来ましたからね。この曲を作った時の一頭最初なんて、射守矢のベースラインを聴いた(田渕)ひさ子が「この世の終わりかと思った」って言ってたからね(笑)。僕はそれをメジャー進行にして明るくする方向へ一生懸命やったりなんかして。この曲は要するに、自分自身に問い掛けてるわけですよ、「これだけの僕に 何ができるかと」って。“音楽をやり続けることによって自分は何がしたいのか? 何ができるのか?”っていう課題が最初に一杯ありまして。そんな具合で“ああ、ここまで自分の暗い感じを出すのかぁ…”っていうところから今回のアルバム作りがスタートしたんですよ。
 
──『birdy』が“このバンドで存在していたい”という新生ブッチャーズの決意表明とするならば、この『banging the drum』と『bloodthirsty butchers VS +/-{PLUS/MINUS}』はその自由奔放な実践の経過報告と言えますよね。
 
吉村:まぁ、当たり前に進んだ形のものですね。
 
──言葉にするとチープですけど、ストレートな“バンド・サウンド”がより引き締まって凝固になったというか。
 
吉村:ですね。だからこそ今回はバンドと一緒になって構成とかもいろいろと考えて。今度のアルバムにプロデュースとして自分の名前をクレジットしなかったのは、そんな理由もあるんですよ。照準はすべてバンドとして合わせたから。
 
──「序章」と題された、4人が文字通り“banging the drum”するナンバーから始まりますが、今回コンセプトとしてドラムにフォーカスを当てたのは?
 
吉村:アルバム・タイトルの通り、最終的にはドラムに焦点を当てたものになりましたけど、最初はコンセプトなんて全然なかったんです。『birdy』からのタームも早すぎたし、+/-{PLUS/MINUS}やthe band apartとの合同ツアーもあって、スケジュールも立て込んでたし…。
 
──〈official bootleg vol.004&smooth like butter tour〉ツアーの開始前に、「アルバム制作のことは忘れたい」ってはっきり仰ってましたもんね(笑)。
 
吉村:はい(苦笑)。自分から逃げてたんです。でも、それが今となっては結果 的に凄くいい方向に働いたんですよ。『banging the drum』ともう1枚のアルバムが生まれるきっかけにもなったし。ツアーに出て+/-{PLUS/MINUS}と共演したことでアルバムを作る速度が速まったし、結果 的には2枚もアルバムが出来ちゃったっていう。不思議ですよね。頭で理解するより先に身体として出すっていうか。考えてもダメだったら瞬間で立ち向かえっていうのもあるし。
 
──前作の『birdy』然り、短期間でアルバムを作り上げる性急なスピード感が今のブッチャーズには適している部分もあるんでしょうか。
 
吉村:やり方的にそうせざるを得ない状況もあるし、その力を使うっていうか。ただこの、切羽詰まる感じはイヤなんですよね。逆上してしまうし…何て言うんだろう、負けん気がヘンな方向に働いてしまうっていうか。でも結果 的には出来て良かったですね。周りのスタッフも僕達を巧くコントロールしたと思いますよ。扱い方もよく判ってらっしゃるなぁというか。だから、今度のアルバムを作って思ったのは、周りの人達に対する感謝の気持ちっていうのがまず第一にあったかな。それはこのアルバムが良いからそう思えるんだろうけど。まぁ…自分自身には褒めてあげますね(笑)。
 
──吉村さん自身、この2枚のアルバムには確かな手応えを感じていると。
 
吉村:うん、単純にいいアルバムだからね(笑)。オリジナル・アルバムともう1枚あることによって、ベクトルがいい方向にあると思うんですよ。その方向がどっち向きかは判らないけど、前を向いてることは間違いないです(笑)。2枚あることによって互いを補う作用もあると思うし。奈良(美智)さんのジャケットにしてもそうだし。スプリットのジャケのイラストは、女の子が水面 に顔だけ出していて、まるでオリビア・ニュートン・ジョンのアルバム(『水の中の妖精』)みたいですけどね(笑)。
 

ベースをド真ん中に持ってきて広げようとした

──特に設けていなかったコンセプトが固まっていったのは?
 
吉村:『banging the drum』とは言ってますけど、実はベースから始まってるんです。射守矢のベースっていうのが音像のなかの不思議な位 置にあって、それが普通じゃないんですよ。ギター、ヴォーカルよりも特別な、誰よりも普通 じゃない位置にあるんです。まずそれをド真ん中に持ってきて広げるんだっていう。最初は射守矢の弾くフレーズを引き出すところから始まって、しかもそこに差し引きできないような太いラインがあったから、これはもう“ベースのアルバムとして行こう!”と。前作に関しては、ギターに焦点を当てる面 が凄い大きかったと思うんですけど。
 
──『birdy』はひさ子さんが加入してツイン・ギター編成になった最初のオリジナル・アルバムでしたからね。
 
吉村:うん。バンドが成長していくと、パートごとに気持ち良く聴ける音の位 置っていうのが自ずと決められてしまうっていうか、ブッチャーズに関しては歌とかギターがまず普通 じゃないと思うかもしれないけど、実はベースがもの凄く重要で不思議な位置にいるバンドなんです。判ってる人は判ってると思うけど。
 
──確かに。それと、射守矢さんの書く曲は凄くメロディアスで耳に残るんですよね。
 
吉村:そうですね。そこをもっと強く出そうっていう。最初は“ギターなんてちょっと聴こえればいいや”ぐらいに考えてて。全体像はそれで行こうって始まって、途中で『banging the drum』とタイトルが付き、次のタームでは僕のギターから作る曲を入れて、最後にインストで録った…っていう、短いながらも3回ぐらいに分けて録音してるんですよ。一気に録るのはもともと苦手で…なんかイヤなんですよね。そうこうして録りながらも“訳判んねぇな、このアルバム…”っちゅうのが自分のなかで絶えずあって。その訳判んねぇ感じが、最後には歌詞に出てきたかなって思いますけどね(笑)。
 
──ははは。吉村さんの書く歌詞は、それ単体だと何を意味するのかは余りよく…。
 
吉村:判らないですからね(笑)。どうしてそんな言葉が出てきたのか、自分でも判らない時もあるし。ただ最後の「banging the drum」の歌詞も面白い表現だなとは思いますよ。何を言いたいのか判らないけど、この人多分悔しいんだろうなっていう(笑)。
 
──「悔しければ握っている」ですからね(笑)。でも、あの吉村さんの絶対的な歌声で聴くと、文字面 だけでは不明瞭な歌詞もごく自然にスーッと染み込んで伝わるんですよね。
 
吉村:唄い方について言うと、その時なりの限界を出そうとアルバムを作るごとにやってますね。“初期衝動を取り戻したかのようなアルバム”って自分では説明していた『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』の時も、“うわー、結構限界まで行ってんなぁ”って思ってたんだけど、次の『birdy』でそれよりもキツイ唄い方のところまで行って。
 
──今度のアルバムで言えば、「B2」や「サンザン」の声の振り絞り方がさらに凄味を増してますね。
 
吉村:“またどんどんキツイところまで行くなぁ”って自分でも思ってるけど、これはもうやめられないですよね。
 
──それはやはり、ひさ子さんが加入したことによってギタリストとしての負担が減って、ヴォーカリストとしてより専念できるようになったことも大きいんでしょうね。
 
吉村:うん、それはデカいです。しかも今回はベースの幅をかなりデカくして、あの音圧の上に自分の歌を乗っけなくちゃいけないっていう使命が今まで以上にあったんだけど、あれは勢いでやってたのかなぁ  やってる最中は自分でも全然判らなかったもんなぁ…。前はね、1枚のアルバムで唄うのがシンドイのは全体で1点ぐらいなもんだったんですよ。それが今は何点もあって、点が増えてるなぁっていう(笑)。今回のなかでは「B2」が一番ツラかったですね。「サンザン」は歌よりも、ベースに従ってギターの構成を考えるのに一番時間が掛かったかな。
 
──「No.6」も結構唄うのがツラそうですけど。
 
吉村:あれはね、前に録ったテイクも使ったので。「No.6」のバックは去年録ったテイクだから。
 
──「No.6」は『yamane』の前ぐらいから曲としてあって、アルバム3作越しでやっと今回陽の目を見たという…。
 
吉村:そうなんです。今まで何回も録りながらリニューアルはしてきて、歌にしてあげたいんだけどアレンジがどうも気に喰わなくて…とか、いろいろありまして。この曲はメンバーが好きだって言ってたから、“もうそろそろ曲にしてあげようよ”っていう(笑)。ちゃんと曲にしてさよならするべきだ、って。
 
──「ここから先は君と離れて行く」って…歌詞と全く同じじゃないですか(笑)。
 
吉村:そうそう、そのまんまなんです(笑)。
 
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