Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】怒髪天(2004年12月号)- 『握拳と寒椿』──耐えて咲かせる華もある

『握拳と寒椿』──耐えて咲かせる華もある

2004.12.01

揺るぎないリレーションシップ

01_shimizu.jpg──リスナーの視点で言うと、怒髪天の曲は初めて聴いた時点でその良さが判らなくても、空手の三年殺しのように後からジワジワ効いてくることがありますよね。個人的な話ですけど、「小さな約束」(『TYPE-D』収録、2003年7月発表)は増子さん主演の映画『Colors of Life』に使われたことで曲の良さが格段に増したんですよ。

増子:『小さな約束』はね、ライヴでやるとその良さが凄くよく判るんだよ。今回の『知床旅情』もそう。

──「知床旅情」!? 森繁(久彌)ですか?(笑)

増子:一番最後に入ってる『孤独くらぶ』ね。俺の中では『知床旅情』のイメージなんだよ(笑)。あの曲もライヴでやって威力発揮。

上原子:『孤独くらぶ』は、冬の寒い感じっちゅうのを出したくて。北海道の冬っぽさみたいなものを。

清水:あの曲は『リズム&ビートニク』を作ってる時にはもうできてたよね。

増子:そう。でもまだ春先だったから、今度のアルバムまで待ってみた。それがさっき言った季節感を意識した部分。

清水:『孤独くらぶ』の音色を決める時に友康さんに呼ばれて、曲を聴かされて…北海道の冬を連想させるなぁって。

増子:俺も友康が作ってきた曲を聴いてそう思った。大概ピンと来るものは共通 するからね。そこでピントが絞れて方向性が決まればあとは早いよ。最近曲を作るのが早くなったのは、そういう現時点でのフォーマットができてきたからだよね。まず俺以外の3人がスタジオに入って曲の骨組みを作る。それが3割くらいできるまでは、俺はあえて極力聴かないようにしてる。最初は友康が作った曲をシミが聴いて、形にしてみて、そこに坂さんのドラムが加わって、友康とシミの思う方向性に俺が混じって“これはこういうイメージじゃない?”って伝えて肉付けをしていく…そんな感じかな。

清水:増子さんは、言ってみれば曲の原型を伝える一番最初のお客さんなんだよ。だからその意見は凄く貴重だし、参考にしてるんだよね。

増子:俺はそれを聴く時、アルバム全体のバランスまで考えるからね。

上原子:増子ちゃん以外の3人で音とメロディだけで詰めていっても限界があるんだよ。せいぜい曲の半分くらいしかできない。何でそこから加速していくかっていうと、やっぱり詞なんだよね。詞が出来上がってきて、その内容を見て一気に加速が付く。
増子:その歌詞は、同じ曲でも2、3パターン考えてくることもあるわけ。その中でどれがイイのかっていうのを、今度は逆に友康とシミに委ねてみる。

清水:だから、友康さんだけは全く何もないところからまず曲を生み出さないといけないから、一番大変だろうなって思う。

上原子:俺はまず、増子ちゃんが“これだ!”ってパッとイメージの湧くようなメロディを考えなくちゃいけない。それが第一関門。そこで何の情景も浮かばない、どんな詞を付けていいのか判らないようなただのメロディを作っても全然意味がないし。

清水:でも、友康さんの作るメロディはどれも景色がすぐに浮かんでくるもんね。

増子:そう。“これはこういう感じの曲だろうな”って、元々あった曲のように判るんだよ。

──そうなんですよね。怒髪天の曲はどれも、どこかで聴いたことがあるようでいて全くのオリジナルというデジャ・ヴュ(既視感)があるんですよ。歴史に残るスタンダード・ナンバーというのは概してそういうものじゃないですか。

増子:そうだね。俺達もアルバムを作るたびにいつも感じるんだけど、元からあったみたいな錯覚に陥るんだよ。ずっと前からそこにあったかのように。不思議なんだよねェ…。

清水:メンバーそれぞれの経験の中で、何か共通する絵柄が浮かぶんだよね。それが1曲の歌として形になる。

増子:シミは俺が聴いてきた音楽と完全に被ってるから、俺が言わんとしていることはシミがやっぱり一番理解が早いわけ。俺はそれを音楽的に友康に伝えることができないんだよ。でも、そこをシミが友康へしっかりと音楽的に伝えてくれる。

──なるほど。見事なバンドのリレーションシップですね。

増子:(坂詰を見て)ところがそうでもないんだよなァ(笑)。一人だけ名前が挙がってないからね(笑)。

坂詰:(相変わらず料理と酒に夢中)……ああ、いや。ははははは。

増子:坂さんはみんなが迷った時の肯定係だから。3人が煮詰まって“うーん、どうしよう?”ってなった時に“大丈夫、最高です!”って必ず言ってくれるからね(笑)。言ってみれば社長のハンコと同じ(笑)。まぁホントはね、もっとパカーン!と開けたアッパーな感じのアルバムがテイチク第1作目としては相応しいのかもしれないけどさ、これまでと地続きなわけだし、力強いものができて良かったと思うね。どの曲が一番の押しと言えないようなアルバムを作るのがやっぱり一番イイわけ。

このアーティストの関連記事
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻