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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】怒髪天(2004年12月号)- 『握拳と寒椿』──耐えて咲かせる華もある

『握拳と寒椿』──耐えて咲かせる華もある

2004.12.01

人生、喜劇でイイじゃねェか

01_ueharako.jpg──それにしても、『リズム&ビートニク』から僅か半年でよくこれだけ高水準の曲を生み出せるなとお世辞抜きで感心してしまうんですけれど。

増子:まぁ、言ってみれば霊界と繋がってるからね(笑)。曲を書くのも自動書記だから(笑)。その“降りてくる”スパンが短くなってはきてるね。生みの苦しみは毎回あるけど、そのモードにいつでも入れるようにはなってるよ。

上原子:『リズム&ビートニク』の時は前のツアーが終わってすぐに曲を書き下ろさないといけなくて、自分でも“この短期間でできるのかな?”と思ってたけど、何とかやれたんだよね。今はそういう短いスパンにも慣れたし、特に“レコーディングだから…”ってヘンに気負わずに曲作りができる環境にはあるよね。

増子:そう、いつでも曲作りのギアに入れられる状況にあるからね。友康も俺も、日常の中でふとした時に感じることを曲の主題にまで持っていけるように常に考えてるよ。だからイイものができないわけがない。例えば、回転寿司屋に行ったとする。そこで有線からJ-POPやら何やらが流れて来る。自分の隣の席で家族連れが先に寿司をガンガン取っちゃって、自分のところへはちっとも回ってこない。そればかりに気を取られて、流れて来るBGMは耳にさっぱり残らない。そんな曲を書いてちゃダメなんだよ。隣の家族連れから関心を向かせるような曲じゃないと。

──仮にパチンコ屋のような騒がしい場所で「愛の嵐」が流れたら、“何だコレ!?”って客の気を引かせるだけの威力は間違いなくあるでしょうね。

増子:うん、自信あるね! ただ、曲を掛けた店員はクビになるかもしれないけどね(笑)。

──今回、その「愛の嵐」を“風速2004メートル”ヴァージョンとして再録したのはどんな理由で?

増子:再録自体は前からやってみたかったんだよ。ただ、今までやるタイミングがなかなかなかった。たまたま今回、『愛の嵐』の再録と『一番星ブルース』のカヴァーのリクエストをT氏から受けて“やってみるか!”と。

──『如月ニーチェ』(2001年2月発表)収録のオリジナルとアレンジに大幅な変化はありませんけど、これは意識的に?

上原子:うん。アレンジ自体はオリジナルを録った時点で4人が完全に詰めた状態にしてるわけで、今回新たにアレンジを変えなきゃいけないっていう必然性を感じなかった。曲自体はすでに完成されたものだからね。でも今度のほうが勢いや説得力があって断然にイイね。

増子:そう、断然にイイよ! なぜなら俺達が成長してるから。人間力で鳴らしてるからね。歌詞を書いた時点から心情の変化なんてものは余りないんだよ、俺は。別 に大金持ちになったわけじゃないし、アフリカ人になったわけでもないしさ(笑)。

──なったらそれはそれで大変ですけど(笑)。しかし『トラック野郎』主題歌の「一番星ブルース」はバッチリハマりましたね。原曲を知らない若い世代が怒髪天のオリジナルと見紛うんじゃないかと思うくらいに。

増子:うん。元々『トラック野郎』は大好きな映画だし、この曲はいつもDJで掛けてたし、カラオケでも唄ってた。とにかく俺達のカヴァーは友康のアレンジが抜群にイイよ。

上原子:俺は『トラック野郎』をそれまで観たことがなくて、昨日初めてビデオで観た(笑)。この歌自体も、シミがカラオケで唄ってるのを聴いて覚えたんだよね。でも曲の先入観がなかったからこそ逆に良かったっちゅうか、ああいう大胆なアレンジでやることができた。その頃、個人的にアダム・アントにハマってて、何かの曲でああいうジャングル・ビートみたいなことをやってみたかったんだよね。セッションで割とすんなり行って、出来上がるまでの時間は凄い早かったね。

──7月にロフトで行われた『ザ・ルースターズ ラストライブ前夜祭 ~RESPECTABLE SHOW~』でも、「FOOL FOR YOU」や「風の中に消えた」を完全に血肉化するバンドのアクみたいなものが核としてあるんだと改めて思い知らされましたね。


増子:今でこそそんなアクがイイって褒めてくれる人も増えたけど、それが困る時期もあったんだから(笑)。昔はライヴで洋モノのカヴァーも結構やったんだよ。CCRの『Suzie Q』とかキンクスの『You Really Got Me』とかね。歌詞を覚えられないから“ユー・リリィ・ガッミィ!”って全部同じ唄い回しだもん(笑)。

──僕がこのアルバムで一番打たれたのが、5曲目の「実録!コントライフ」なんです。辛酸を嘗め続ける日々の生活を赤裸々に綴った歌であり、“ダメだコリャ次ぎ行こう”という歌詞もあるように、今春急逝したいかりや長介氏に捧げた愛情溢れる鎮魂歌でもあり…。とにかく今まで発表されてきた怒髪天の歌のエキスがすべて集約されている。

増子:うん。全くその通り。この曲を聴いてグッとくるヤツは、イイところにスイッチ付いてると思うよ。

──“でもよォ 人生、喜劇でイイじゃねェか/そうさ 涙にサヨナラだ 笑ってまた明日”というフレーズが歌詞の最後にありますが、至言だと思うんですよ。人生、ホント喜劇だなって思う瞬間が日常の中で多々ありますからね。

増子:今度のツアーで販売されるTシャツ、凄いよ? そのフレーズがそのまま後ろにプリントされてるから!(笑)。

上原子:『実録!コントライフ』はすべて“人生、喜劇でイイじゃねェか”っていう歌詞に集約されてるからね。実は今回、この曲が一番時間が掛かったんだよ。A・Bメロまでの展開はできてたんだけど、何かが決定的に足りなくてずっと悩んでた。そしたらあの最後の詞が曲に載っかって凄く締まったんだよね。

清水:そう、あの最後のフレーズが入らなかったら、ホントただの曲になってたね。

上原子:今回、その最後のフレーズにみんなでコーラスを当ててみたんだけど、増子ちゃんが唄う“でもよォ 人生~”の部分が耳に入ってきた時に“ウワ、これヤバイわ!”って思った。唄いながら胸にグッと迫るものがあって…。

清水:“こりゃ絶対みんな泣くぞ!”って思ったよね。

──かと思えば、コントで使うラッパの“パフッ!”っていう効果音もあり(笑)。

増子:あれね、坂さん本人が“パフッ!”って言ってるから(笑)。それでツンタタツンタ、ツンタタツンタってあり得ないリズムで叩いてるんだからホントにコントだよ(笑)。でもこういう曲ができて思うのはさ、例えば『如月ニーチェ』なら『夕暮れ男道』、『マン・イズ・ヘヴィ』(2001年9月発表)なら『酒燃料爆進曲』みたいなリード曲っていうはっきりした存在が以前は必ずあったんだけど、今はリード曲以外の曲も全部クオリティが高くなってるから、何とも言えない感じになってはきてるよね。そこからさらに突出するような曲を作ろうとしても、全部が全部イイ曲できると思うから、突出しようがないんだよ。それは贅沢な悩みかもしれないけど、そんな部分に俺達はこれからも挑戦していくんだろうね。前に自分達が作ったイイ曲を超えるべく、自分達自身で勝手にハードルを上げていくっていう…。

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