母性本能をくすぐるfOULの魅力
——初回以来今日に至るまで会場は変わらずここSHELTERですが、何かこだわりみたいなものはありますか?
谷口:やっぱり、スタッフ一人一人と我々が精通し合えるところですね。互いによく理解し、信頼し合える仲間だと思ってますし。
長森 初期の“砂上”は西村君の前任店長で、「“砂上”を土曜日にやらせないと、僕がスタッフに殴り殺されますから」ってよく言ってたよ(笑)。だからその時すでにスタッフが“砂上”のシンパになってくれてたわけ、有り難いことに。
大地:最初からPAは朋ちゃん(今井朋美)だったっけ?
長森:そう。だからあれは…初めてチケットがソールドアウトになった“極東”の「東京猪・鹿・蝶」(第5回/1996年2月7日@下北沢SHELTER)。あの時に初めて朋ちゃんがPAやって、全員が「オマエはイイ!最高だ!」ってなって。今でこそ朋ちゃんは人気者だけど、彼女を一番最初に認めたのは実は我々なの。
谷口:朋ちゃんは今も凄く大切な存在ですからね。我々が出したい音とか好きな音というのを自ずと判ってくれていますし。
平松:ライヴの日程が決まると、まず朋ちゃんにスケジュールの確認をしますからね。空いてなかったらその日はやめるか、なんてことにもなるし。
大地:朋ちゃんは曲の細部まで知り抜いてるからね。どこでヴォーカルにエフェクトを掛けるかとか、自分達が気づかない部分までやってくれるから凄く安心感があるんですよ。
——マネージャーの長森さん、楽器に携わる川上さん、PAの朋美さん、フライヤーを含めfOULの全てをデザインする石川兄貴…と、“チーム・fOUL”の一体感というか絆の強さを端から見ていると感じますね。
大地:改めて言われるとそうなんだよなぁと思いますね(笑)。
谷口:僕のフライヤーの絵を、あそこまで毎度毎度素晴らしいテイストで完成させてしまう石川君には本当に感謝しています。驚きの連続ですね。
川上:さっきの話じゃないですけど、“足元のおぼつかなさ”を何とかしてあげたいという、母性本能をくすぐる部分がfOULにはあるんですよね。既にその世界が完成されているんじゃなくて、リスナーがそこに入り込む余地があって、それで初めてfOULの世界が完成すると思うんですよ。だからその入口が判らない人にはfOULの世界に入りづらいのかもしれないですね。
大地:ウチらって、その入口が判りづらいところにあるような気がしますよね。
——でも、敷居は決して高くないじゃないですか。
大地:低いですねぇ(笑)。低いけどヘンな位置にあるんですよ。
川上:低いと思っても、入口にヘンな出っ張りがあるような感じだよね(笑)。
長森:川上さんともよく話をするんだけど、これほど評論しづらいバンドもないんだよ。“唯一無比”とか“類い稀なるアイデンティティ”みたいな言葉で片づけられないんだもん。どう考えてみても他のどのバンドにも似てないんだけど、そういう表現ではfOULを伝え切れないんです。全くもって。
——そうなんですよね。fOULの音楽に目を向かせるための言葉の選び方には凄く苦労するんです。
大地:(谷口に)もしfOULを評論する立場だとしたら、どういうふうに伝える?
谷口:やっぱり、自分のなかでは“ありきたりなコードでロックンロールをやってるバンド”っていうか…そんな感じなんですよ。特異な位置にいるという認識が自分では余りないんですよね。
大地:それがすでにオカシイよね(笑)。
——例えば“孤高の存在”みたいな表現を使うと、その時点でもう敷居が高くなっちゃうんですよ。fOULの曲は恐ろしくキャッチーだと思うし、でもキャッチーなだけじゃない奥深さもあるわけで。そのユニークな音楽性を平易な言葉で伝えるのが本当に難しい。
平松:キャッチーな方向に持っていこうと意識的にしてるんですよね。fOULの原曲からの展開って物凄いですよ(笑)。
大地:一番最初は酷いからね、自分達に課せられた試練なんじゃないかっていうくらい(笑)。原曲からどう作品として構築していくかっていうところに凄い神経を使うんですよ。
——敷居は低いけど難解なイメージがfOULにはずっとあったと思うんですが、一昨年くらいから健さんのMCがすこぶる可笑しいという別の評価が高まってきたんじゃないかと(笑)。
谷口:ステージは自分の本性をさらけ出せる絶好の機会ですし、普段の生活では出せない自分だったりもしますし…。
川上:でも今日のライヴで、健ちゃんにはタモリの生き霊が乗り移ることが判明したね(笑)。正気と狂気の二面性があるという。
大地:しかもステージ上の彼は“虚”なのか“実”なのかアヤフヤなんですよ、自分でも。
谷口:そうなんです。それがしょっちゅう表裏になるから自爆しちゃったりするんですよ。ちょっと真剣な話をしようとしても爆笑されますからね(笑)。
大地:それこそ最初の頃のライヴはMCも内向的な話が多くて、そこに喰い付いてくる人も一杯いたんですよ。でも一度、自分達のライヴは余りに内々に入りすぎてるからもっと表へ向かっていこうよ、って全員で話したことがあって。そこから徐々に変わってきたんですよね。谷口健は特に(笑)。
平松:確かにそれ以降、スタジオで3人でやってる楽しさをライヴでも表現できるようになった。余り気負うことなくそのままやればいいんじゃないかって。