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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】THEATRE BROOK(2003年12月号)- ライブ盤には、その人が何を考え、何を描いて演奏しているのか一番見える

ライブ盤には、その人が何を考え、何を描いて演奏しているのか一番見える

2003.12.01

今、日本で一番ロックで、ファンキーで、ソウルフルなバンドの一つTHEATRE BROOKが、バンドとしては初のライブアルバムをリリースした。以前よりライブの迫力は誰もが認める折り紙付きのバンドなだけに、ライブアルバムとして非常に高いレベルの一枚になっている。また、「音楽は"オレ"が"オレタチ"であり得る一つの座標なのだ」というTHEATRE BROOKがライブという現場で発する力強いメッセージは、現在の不安と混迷の時代にあって、一つの確かな方向を与えてくれるだろう。来年1月からはロフトでマンスリーライブを行うTHEATRE BROOKの佐藤タイジ氏にお話を伺った。 (Interview:加藤梅造)

ライブ盤には、その人が何を考え、何を描いて演奏しているのか一番見える

──今回、初めてのライブアルバムがリリースされますが、なぜ今まで出さなかったんですか?

佐藤:
いや、たまたまですね。CDにライブテイクを入れたものやライブビデオは出てたんですが、ライブアルバムというのは初めてです。

──ライブに定評があるバンドだってことを思えば、逆になぜいままで出てなかったんだろうという感はありますよね。

佐藤:そうですね。でも、今のタイミングで出るのは逆によかったと思いますよ。楽曲もライブによって熟成して現在の形に至っているわけで、そういった時間もこのライブアルバムにはレコーディングされていると思いますし。やっぱり、THEATRE BROOKをずっと見に来ているような人はライブ音源欲しいと思うし、普通、好きなバンドがあったらそのライブ盤も聴きたくなりますよね。見えやすいじゃないですか。そこで人間が演奏しているまんまだから、その人が何を考え、何を描いて演奏しているのか一番見えるもんねえ。きっとロックが好きな人はライブ盤も好きなんじゃないかな。

──確かにこれを聴いて感じたのは、当たり前の感想だけどロック色が強いっていうことでした。タイジさん自身、好きなライブ盤というのはどんなものですか?

佐藤:ええとねえ、ジミヘンの『LIVE AT THE FILLMORE EAST』、あれはすごい。俺の中では最高峰です。あと、ボブ・マーリーの『LIVE!』、これも絶対に外せない。

──ここにきて、THEATRE BROOKのライブ盤を出すというのには、何か一つの総決算的な意味もあるんでしょうか。

佐藤:ねらってそういうのは全然ないですけど、なんだろうなあ、例えば90年代初頭にロフトでずっとやってた時期からTHEATRE BROOKを知ってる人が聴いたら、その時間はここに記録されていると思いますよ。その人の歩んできた時間と、THEATRE BROOKが歩んできた時間は必ずどこかでリンクしているはずだから。もちろん初めて聴く人にとってはこれが入り口になればいいと思う。やっぱりライブって、そのバンドの力量 が出るじゃないですか。そのバンドが過ごしてきた時間が一目瞭然に。客観的に聴いてみても、ああこのバンドってかっこいいなと思いました。

自分たちが一番いいと思う一つの「矢印」を示したい

──このライブ盤は、「ありったけの愛」「ドレッドライダー」といった初期の曲も入ってますが、個人的には、最新の5thアルバム『THEATRE BROOK』から、僕の好きな2曲「純粋無垢」と「何もないこの場所から」が入っていたのが嬉しかったですね。思い入れ的にも。

佐藤:いい曲ですよねえ(笑) 本当はこういうことを思いたくなかったんだけど、9.11以降、世の中変わってしまったじゃないですか。なんていうのかなあ、フィルモアでジミヘンがやっていたこと、あるいはジョン・レノンがやっていたこと、そうしたことにも関わらず、世界はむしろどんどん悪くなっている。それはいち人間として、疑問も感じるし、責任も感じる。60年代、70年代にあったムーヴメントがどっかで失敗しているんだろうし、またどこかしら成功しているから未だにそうした意識が残ってもいるんだけど、なんかこう、この時代でなんか欲しいですよね。ちゃんと、自分たちが思う一番いい感じのもの、それを見てみたいですよね。

──それは希望とか?

佐藤:うん、そういうことかもしれないですね。この間ね、ダライラマ14世(註1)が来日していて、それを祝うパーティーにサンパウロ(註2)で参加したんです。実は、最初にこの話をいただいた時には、今イラクとかアフガンが大変なことになっている時に、チベットどころじゃないだろうと思ったの。でも、ちょっと考えたら、ああ、だからこそ今、ダライラマの感覚が必要かもしれんなと。それは、彼が決して武力を使って中国と争おうという人じゃなくて、対話で少しづついい状況を作っていこうという活動をしていて、実際に少しづつそうなっている。それはものすごい修行を積んできたんだと思うけど、絶対キレないじゃないですか。その精神力はスゴイと思ったの。これしかないんじゃないかって。

──9.11後、多くの表現者のメッキが剥がれていったと思うんです。やっぱりロックっていうのはどこかで時代と無関係ではいられないというか。

佐藤:9.11以前もそうだったはずなんだけど、ロックっていうのは、単に商業だけじゃない所、それが一番ロックの大事な所だと思う。社会に対して絶対批判的じゃなければならないとも思わないし、反発だけがロックじゃないと思うけど、でもなんか、日々生活していく中で、一つの「矢印」を提示したいですよね。

──以前にARBの石橋凌さんにインタビューした時に、「ロックは学校では教えない重要なことを教えている」と言ってたんです。

佐藤:そうかもしれないですよね。なんかそういった感じの責任はあると思います。なんだろな。最初はなギター弾ければよかったんですよ、俺は。カッコいいギターが。じゃあ、カッコいいギターはなんだ?と思ったら、どんどん精神的な所に行くよね。ボブ・ディランが言っていることとか、ボブ・マーリーが言っていることとか。カッコいい人間じゃないとカッコいいギターは弾けないんですよ。

──ニール・ヤングのギターってそうですよね。

佐藤:そうですよ。俺、一昨年のフジ・ロックで泣いちゃったもんね。あの人のギターは真似できない。わかんないですよ、どうなってんのか。でも本当にカッコいいから。9.11後にアメリカで「イマジン」が放送自粛になった時、ニール・ヤングがテレビ番組で「イマジン」を歌ったんでしょ(註3)。それもカッコええし、ものすごく真っ直ぐじゃん。最短距離をカーンって行くじゃん。あれがロックでしょ。

──テクニックだけじゃない部分ですよね。

佐藤:「思い」の塊だよ。ああいうギターを弾く人は日本にあまりおらんよね。

──まあ年齢的な成熟みたいなのも必要かもしれない。でも、タイジさんのギターは間違いなくニール・ヤングの線上に位 置していますよね。

佐藤:ほんと、そこにいたいですよ。ここに来て、いろいろ自分のやりたいことも見えてきてるし、うん。若いときは音楽で飯を食いたいっていうのがメインだったけど、そういうことではなくなっていることも事実だよね。ほんまに、幸せになるためのものというか。

──5thアルバムのテーマであった「“オレ”は無力だ。だが“オレタチ”は無力だろうか?」ってすごくいい言葉だったんですけど、昔のタイジさんは「オレがオレが」みたいな時代もあったんですか?

佐藤:そりゃありましたよ。結構周りにひんしゅくをかってましたね。

──「オレタチ」の範囲っていうのも変わりましたか?

佐藤:それはそうかもね。確かに「オレタチ」は広くなってきてると思う。昔は狭かったから、ほんま、2,3人の世界だったかも。

──今はどのぐらい?

佐藤:わからんけど、少なくともフジロックに来ている10万人は「オレタチ」ちゃうか?って。もちろん世界中におるだろうしね。

本田宗一郎にとってのレースが俺らのライブ

──来年1月から4月までロフトでマンスリーライブがありますが、これはどういった思いつきで?

佐藤:いや、あんまりないですけどね。最近は、夏のツアーがあって冬のツアーがあるっていうのが定番になってるんだけど、いつもツアーが終わった後は「やっぱ、こりゃもっとライブやらんといけねーよ!」って毎回言ってるのね。ツアー終わる度に「よし、これからは毎月やろう!」って。そう言っててもう3年ぐらいたってるから、これじゃあいかんと。昔は月イチでライブやってて、毎月新曲を披露していたり、ある意味「実験」だった。(HONDAの)本田宗一郎にとってレースが実験場だったように、俺らにとってはライブが実験場なんです。昨日の夜も考えてたんだけど、次の新作をライブ盤で出すっていうのもありかなあって。そのほうがTHEATRE BROOKらしいのかなってちょっと思ったりもしてる。

──そう聞くとなおさら来年のライブが楽しみですが、今の段階で、なんか考えている実験はあります?

佐藤:漠然とね。例えば、ピンク・フロイドの『狂気』のB面を全部コピーとか(笑) プリンスの『パープル・レイン』を一枚全部とか。ちょっとオモロそうじゃん。それをレコーディングして出しちゃう。THEATRE BROOKの『狂気』。どう、よくない?

──メチャいいっす。楽しみにしてます!

(註1)ダライラマ14世──

チベット仏教の最高指導者。中華人民共和国の成立によって1959年にチベットを追われ、インド北部にチベット亡命政府を設立。その後、非暴力によるチベットの自治を求めて世界各地で講演活動を行っており、1989年にノーベル平和賞を受賞している。11月に来日して講演を行った。
(註2)サンパウロ ──
佐藤タイジ、森俊之、沼澤尚によるJAM系ダンスミュージックのユニット。
(註3)ニール・ヤングの「イマジン」 ──
9.11直後に全米で放送されたチャリティー番組「America; A Tribute to Heroes」で、他の多くのミュージシャンが「ゴッド・ブレス・アメリカ」などの国威発揚歌を歌う中、ニール・ヤングは、放送自粛曲になっていた「イマジン」を歌い賛否をよんだ。この番組はCD化されているので、聴きたい人は輸入盤屋で探すといいでしょう。

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