ありきたりな美辞麗句や常套句を連ねるとそれだけで拒否反応を示す読者もいると思うので慎重に言葉を選びたいのだけど、ファウルとブラッドサースティ・ブッチャーズが図らずも同時期に発表するアルバムに一切の能書きは不要である。とにかく一人でも多くの人たちに聴いてもらいたい。特に、これまで両バンドに敷居の高さを感じて彼らの音楽に触れたことのなかったリスナーほど是非聴いてほしいと思う。内容はいずれも全面 的に僕が保証する。どちらも豊饒な表現力に満ち溢れた傑出した作品であり、差し込む光によって変わる海の色のように、その時々でさまざまな彩 りを与えてくれる音像である。あとはあなたの五感をフル稼働させてほしい。(interview:椎名宗之)
最初は小気味よく、徐々にネチネチと…
──非常に手応えある作品を生み落とした現在の所感を、まずファウルの皆さんから聞かせて頂けますか。
谷口:出来は非常に満足しております。今回も『Husserliana』の時と同じく非常にタイトなスケジュールだったにも関わらず、殊のほかスムーズに進みまして。3人それぞれのメンバーが満足の行く仕上がりになりました。
平松 もう大満足です。いいのが出来たなぁって。
──プロデューサーのジョー・チカレリ氏との共同作業は今度で3作目ですが、やり取りは滞りなく進みましたか?
谷口:そうですね。最初から最後までみっちりジョーさんと作業をしたのは実は今回が初めてだったので、お会いするまでは不安がなかったわけじゃないんですけど、会った途端にそれもなくなって。本当にうまくいきましたね。凄く楽しくやることができました。アルバムの流れとしては、最初は小気味よく来て、徐々にネチネチネチネチ…と来るような感じですかね(笑)。後半のほうに「留守」という、一見重くのしかかっているようで、実は爽やかに清々しく自然のことを唄った曲があって、最後に「氷の山」という、これも小気味よい曲調ですけど自然のことを重く唄った曲を配してあるんです。
──〈スペースシャワー列伝〉のコンピにも収録されてた「氷の山」、ライヴでも披露されていた「カンブリア紀」「柊の葉」と、自然を題材とする曲が増えてきてますよね。志賀直哉の『暗夜行路』のように、人間の生命と自然の調和を描くというか。
谷口:うーん…。僕は白樺派とか、志賀直哉の印象派的な作品が余り好きじゃないんですよ。だからあれを志賀直哉的にとらえられると、ちょっと不本意ですねぇ…。
──それは大変失礼しました(笑)。
谷口:まぁ、それは僕の不徳の致すところなんですけれども、自然への畏敬の念と畏怖の念を込めたことは確かなんで。それが自分なりにうまく曲として表現できたと思っていますし、満足していますね。
小松:健ちゃん、唄い方変わった?
谷口:変わりました? どういうところが?
小松:何かまぁるくなったような…。
谷口:ああ。刺々しさをなくそうと思ったからかな。言葉をいっぱい詰めちゃうと、息継ぎするところが判らなくなっちゃうんですよ。それを慎重に意識しながら唄ってますね。最初に息継ぎしないでワーッと唄っちゃうと、最後の語尾が伸ばせなくなったりするんですよ。
小松:なるほどね。あと、音の質感も前と結構違うなと思った。
谷口:『Husserliana』の時はジョーさんの愛弟子の方(クリス・ファーマン)が手掛ける比重が高かったんですよ。今回はジョーさんに最初から最後まで付きっきりでやって頂いて。
小松:前回のは音の鳴りが丸い感じがして、今度のは凄く硬質な感じがするんだよ。
大地:そうなんだよ。前の時はウッド系が多かったんだけど、今度のはスチール系が多かったから。
吉村:今度のアルバムはどういうような所で録ってんの? 広いの?
大地:一軒家を改造したスタジオだった。多分、リヴィングを改造してると思うんだけど、そこにドラムセットがボコンと置いてあって。LAの、しかもハリウッドの近くってそういうスタジオが多いんだって。
谷口:外装が凄く古くて、後から聞いたら25年の歴史を持つ由緒あるスタジオらしくて、プリンスのセカンド・アルバムもそこで録ったんだって。
小松:でも豪華なスタジオって感じではなかったんだ?
大地:そう、全然スタジオっぽくなくて、凄くアットホームな感じだったから逆にのびのびやれたね。部屋にソファとかテレビが普通 にあったしね。さすがに録る時は隣の部屋に移動させたけど。
射守矢:でも、大地はどこにいてもアットホームな感じじゃないの?(笑)
谷口:彼はどこでも寝てたからね(笑)。
──観光はできたんですか?
大地:プロモ・ビデオの撮影(曲は「あなたのレーゾン・デ・トゥール」)で観光地っぽい所は回ったんですけど…それぐらいだよね?
谷口:うん。だから観光観光はしてないですね。