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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BEAT CRUSADERS(2002年1月号)- ジレンマを解決するのって、音楽でやるしかないんですよ

ジレンマを解決するのって、音楽でやるしかないんですよ

2002.01.16

 国内最高のメロディックPOP PUNKで全国のライブハウスを次々と攻略していくビークルことBEAT CRUSADERS。その勢いはとどまるところを知らず、ついにライブハウス界のナバロン要塞・新宿ロフトも彼らの手に落ちてしまった! ロフト陥落を機に、1/26はワンマンライブ、そして1/25から1ヶ月に渡り「BEAT CRUSADERS CAMPAIGN」も開催され、ついでにhidaka、thaiがかつて在籍していたビークルの前身バンド・PESELA-QUESELA-IN(ペセラケセライン)の新録&リマスター版も発売するという。このいささか調子に乗っている彼らに、我がROOFTOP編集部隊は交渉のテーブルを用意した。[text:加藤梅造]

分析によると、これからはギター・ポップ!?

──シェルターではすでにワンマンやってますが、新宿ロフトのワンマンは初めてということで、着実にステップアップしてますね。

hidaka:そろそろモー娘。の中澤みたいに最年長の俺が卒業して、次は小学生を入れようと思ってます(笑)。今や小学生の購買層は無視できないですからね。でも、最近は大人がCD買わないですよね、特に30代になると。今、ケーブルテレビで「MTV」の20周年記念番組をやってて、それを観てると音楽をとりまく環境も随分様変わりしたなと思います。例えばRUN DMCなんかは、一時期オールド・スクールでダサイって言われてたじゃないですか。それが今、MCハマーですらリスペクトだよみたいな状況になってる。それは日本のインディーの状況も同じだと思うんです。昔インディーズだったバンドが再評価で復活したりして、もはや全然閉ざされたものじゃないですよね。

──メジャーとインディーが並列しているってこと?

hidaka:だって昔は『投稿写真』(*1)でインディーズの情報集めたりしてましたからね。よくて『宝島』(*2)(笑)。そういえば、この前『Indies Magazine』が廃刊になりましたが、これなんか『宝島』の終焉と妙にかぶってて、なんかノスタルジックな気分になりますねえ。

──それって危機的な状況ですか。

hidaka:というより、リスナーの意識が変わってるんだから、こっちも意識を変えないといけないんだと思いますよ。それが何なのかはやってみないとわかりませんけど。

──ところで、ビークルはhidakaさん以外のメンバーはもっと若いんですよね。

araki:僕が『宝島』を読むようになった頃は、ちょうどサブカル路線がなくなってエロ雑誌に変わっていた頃ですね。

hidaka:その頃(90年代初頭)ってサブカルを扱ってる媒体が急速になくなった時代ですよね。『フールズ・メイト』がビジュアル路線に変わったりとか。

──そういえばarakiさんのお母さんってゴーゴーガールだったんですよね。

araki:その影響で高校時代はネオ・モッズにはまって、地元にザ・ヘアーとかを呼んだりしてました。

hidaka:ネオ・モッズにしてもネオGS(*3)もそうだけど、音楽を客観的に分析する人が確実に増えてますね。

araki:僕がバンド始めた頃は、ネオGSが一番ダサいと言われてた時期だった。

hidaka:そのネオGSも今や再評価の対象ですから。

──言ってみれば、すべての音楽が相対化されているかのような状況で、新しいものを創っていかなければいけないわけですよね。

hidaka:そこで僕の分析によると(笑)、ちょうど『宝島』終焉の頃に流行り始めたものは何か?というのを調査した結果、それはミスチルとスピッツだったということがわかりました。それで今回、PESELA-QUESELA-INを出したんです。これからはギター・ポップだと(笑)

──じゃあ今後はミスチルが目標なんだ。

hidaka:もちろん! と言っても、PESELA-QUESELA-INはもう解散してますが(笑) 昔のメンバーは今ほとんどサラリーマンで、子供とかいますし。

──そういうのご覧になってどうですか?

hidaka:いや、うらやましいです。家庭っていいなあ…。

ビートルズよりもハーマンズ・ハーミッツ

──ビークルってかなり音楽を分析してやっているバンドですよね。

hidaka:もともと音楽を分析して聴くのが好きなんですよ。なんでメロコアが出てきたんだろうとか、パワーポップが出てきた背景とか、そういうのを考えるのが。

──一般的に、ミュージシャンは自分がジャンル分けされたり分析されるのを嫌う傾向があると思うんですけど。

hidaka:逆に分析する方がパンクだと思ってたんです。あんまりそういう人いないし。サエキけんぞうさんや電グル(電気グルーヴ)が、分析したものを茶化してよりアグレッシヴにやってるのが好きだったし、それよりビークルの場合キャラとしてこの4人が「俺達生き方がロックンロールだから」って言っても無理じゃないですか(笑) ミスチルがインタビューで自分たちの存在とは? なんて語っててもそんなの知ったこっちゃないですよね。音楽以外の部分には1秒も興味ないですから。

──電グルって言われるとなるほどなと思いますね。あとYMOとか。

hidaka:前に細野(晴臣)さんがインタビューで「僕らは結果的にああなっただけで、ヒントを与えたぐらいでしかない」って言ってたんですよ。たぶん、その場のノリで楽しくやってたのがたまたま分析的だったというのはよく分かるし、おこがましいながらも、ああいう風にできたらいいなと思いますね。

──細野さんの音楽変遷ってすごいと思いますけど、時々理解できない所にいっちゃうじゃないですか。ラウンジとか。

hidaka:遠いところにね。俺等もそのうち行くんじゃないですか。黄泉の国とか(笑) でも最近はライブハウスから話題になるっていうのが減りましたよね。もちろんバンドの相対数が増えたっていうのもあるんでしょうけど、リスナーの方にもパーソナルな部分に対する興味が薄れてきているような気がします。それが行くところまでいくとどうなるんだろうって思いますよね。もう一度熱い時代が来るのか、それとも『2001年宇宙の旅』みたいにすごい冷たい時代が来るのか? それを見てみたいですよね。

──自分が熱い時代を作ろうっていうのは?

hidaka:全然ないです。僕らはビートルズやストーンズよりも、むしろハーマンズ・ハーミッツ(*4)みたいな、「ああ、いたねえ…」っていう方が好きなんですね。その「いた、いた」感がやれればいいなあと。

──でもビークルは上り調子だから、どんどん有名になってるんじゃないですか?

hidaka:いや、お面のおかげで道歩いてて誰かに声かけられることもないし、というか、お面付けてても気づかれないから。ただの変な人(笑)

カラオケで歌えない「歌もの」

──では、今後ビークルはどーなっていくんでしょう?

hidaka:一つには「歌もの」って所を追及したいですね。カラオケで歌えないような歌ものを。例えばビリー・ジョエルの「オネスティ」とかって、あれ素人では絶対歌えないんですよ。あとゴダイゴ(*5)も。なんとか歌えるのって「ガンダーラ」ぐらいじゃないですか。あれをもう少し今風にやれたらいいんじゃないかなって。今考えるとゴダイゴって奇跡的なバンドだったと思うんです。英語の歌詞であれだけ市民権を得たという所が。

──ゴダイゴってロックから歌謡曲の世界に行って、それでずいぶん損してると思います。

hidaka:やっぱり芸能界というイメージがつくとそこから抜けるのは難しいでしょうね。

──でも、今は歌謡曲とロックの境界線がよくわからないですよね。

hidaka:それはミスチル・スピッツの功罪がでかいと思いますよ。境界線がなくなっちゃったでしょ。まあ、俺等もインディーの境界を曖昧にしちゃってるのかもしれないけど。だから、CAPTAIN HEDGE HOGみたいな、自分らできちんと積み上げてきた人達と一緒にやるのは楽しい反面、申し訳ないという気持ちもあります。俺らと一緒にやることで軽く見られるんじゃないかって。俺ら自体が軽く見られるのは全然構わないけど。

──考えてみると、ビークルの立ち位置って微妙ですね。

hidaka:ワンマンがソールドアウトになるのはもちろん嬉しいんですけど、そうすると本来やりたかった「外れたところにいる美学」みたいなものからそれちゃいますよね。で、そのジレンマを解決するのって、音楽でやるしかないんですよ。テレビに出る事で解決するもんでもないから。まあ、その意味で今回出したPESELA-QUESELA-INが何らかの答えになるんじゃないかな…とかいいながら、実はそんなこと何にも考えてないんですが(笑)

──今のギターポップの悪い面って、なんかオシャレになりすぎてしまって、初期の頃にあった前衛性や攻撃性が薄まってるところだと思うんです。だから今あえてPESELA-QUESELA-INを出すのって、そうした現状に対するエクスキューズとも言えるんじゃないでしょうか?

hidaka:確かにそれはありますね。本来ギターポップは一番美学を追究しなきゃいけないものなのに、今のギターポップには、かつてelレーベル(*6)などが持っていたような美学が失われつつありますよね。そういえば、奇しくもカヒミ・カリイさんが80'sネオアコのマニアなカバー集(『My Suitor』)を出してるんですけど、やはりこの世代の人達の中にそういう気持ちがあるのかもしれないですね。グシャグシャになってるギターポップをもう一回ちゃんとやろうよっていうね。

 

(*1)投稿写真──アイドル盗撮などを中心としたエロ本だが、コラム欄にはマイナーな情報が多数載っていた。

(*2)宝島──現在の同誌とは全く異なり、80年代はインディーズ情報満載だった。バンド・ブームの終焉に伴い誌面は大幅に変更された。

(*3)ネオGS──80年代後半にGS+サイケを基調としたバンドが多数出現。ファントムギフト、レッド・カーテン、ヒッピー・ヒッピー・シェイクスなどカッコいいバンドがたくさんいた。

(*4)ハーマンズ・ハーミッツ──マンチェスター出身のブリティッシュビート・バンド。ビートルズに続いてアメリカに進出しそこそこ成功した。

(*5)ゴダイゴ──テレビ「西遊記」のサントラが全曲英語にも関わらずヒットチャート1位を獲得。大ヒット曲「銀河鉄道999」では、英語パートになると歌えなくなる小学生が続出した。

(*6)elレーベル──ネオアコ/ギターポップの聖域ともいえるレーベル。Louis Philippe、Simon Turner、Marden Hillなどが代表。

 

 

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