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COLUMN

画と映画のはざまで!?』歌人・枡野浩一の場合

『漫画と映画のはざまで!?』歌人・枡野浩一の場合

2013.12.06

漫画家・羽生生純古泉智浩タイム涼介、歌人・枡野浩一、注目の漫画家たちが自らメガホンを取った異色のオムニバス映画、『ポーラーサークル 〜未知なる漫画家オムニバス』が、12月7日(土)よりオーディトリウム渋谷にて5日間限定レイトショー公開!

劇場公開を記念して、『漫画と映画のはざまで!?』をテーマに、リレーコラム形式で4監督の製作秘話をお届け!
いよいよ明日12/7に初日を迎える最終第4週目は、歌人・枡野浩一さんです!
 

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 「映画と漫画と短歌とお笑いの狭間で!?」枡野浩一の場合


漫画家ではないのに、
「漫画家オムニバス」に混ぜていただいた。
十年前に離婚した元配偶者が漫画家だったから、
漫画家の知り合いはとても多い。
離婚したあと、
つきあいの続いた漫画家と、
そうでない漫画家に、
まっぷたつに分かれた。
私の人生も、
離婚前と、
離婚後に、
まっぷたつに分かれた。
元配偶者の描く漫画の大ファンだったけれど、
彼女に自著の装画をお願いすることはもうできない。
漫画レビューを朝日新聞に連載していた時代もあった。
今は漫画レビューを書くこともほとんどなくなった。



映画はまるで詳しくない。
『もう頬づえをついてもいいですか?』(実業之日本社文庫)という、
映画コラム短歌集を一冊出しているのだけれど、
この世にここまで映画に詳しくない者の書いた
映画本はほかに存在しないかもしれないと思う。
同書のタイトルは配偶者だった漫画家と一緒に考えた。
思いついたとき二人で笑い合ったのはいい思い出だ。
映画コラムの連載中に離婚していったから、
同書の後半は悲しい感じになっている。



離婚後、
松尾スズキさんの監督する映画『恋の門』に出演した。
私と顔がそっくりな漫画家、
河井克夫さんと組んだニセ双子ユニット「金紙&銀紙」は、
酒井若菜さんの働く店に松田龍平さんがあらわれるシーンで、
アニメソングを口ずさんだりする。
『恋の門』の撮影は楽しかった。
離婚後の苦しい日々の中に、
あんなに楽しい時間を挿入してくださった
松尾スズキさんは命の恩人だと思っている。
死にたい夜に松尾さんの書いたエッセイを読み、
爆笑してしまったことがある。
「あ、自分は今、爆笑している」
と驚いた。
死にたい気持ちと爆笑が同時に存在できるなんて知らなかった。



短歌を始めたのも死にたいと感じていた二十歳のころだった。
なんだかんだ二十五年もやっているけれど、
私の短歌はとくに成長していないと思う。
成長しない短歌のほうがよいと思っているふしすらある。
今年の春、
高校の国語教科書に自作短歌が掲載された。
自分は歌人としてこれ以上は出世しないと心底実感した。
そしたらまた死にたくなってしまった。
乗るところをすごく高く設定した竹馬に乗り、
ロープに首をかけたのち、竹馬をはずす。
そんな「竹馬自殺」をしたら歴史に残るだろうと思った。



鬱々とした気持ちを有料メルマガに書いていたら、
奇特な購読者のひとりである松野大介さんが
お笑いのライブに行かないかと突然誘ってくださった。
松野さんはむかしテレビによく出る芸人だったが、
そのころのことを私はほとんど全然知らない。
小説家になってからの松野大介のファンで、
色々あって面識ができた。
テレビは昔も今もあまり得意ではないのだけれど、
ライブで見るお笑いはなぜかずっと好きだ。
たとえばバカリズムは二人組だったころから見ている。
ヨシモト芸人のライブで
「文化人」として審査員の一人をやったこともある。
松野さんが誘ってくれたのは、
ソニー・ミュージックアーティスツ、
という事務所にいる芸人たちのライブだった。
お笑いなのか、そうでないのか、微妙な、
すれすれのラインのことをやっている人が
けっこういて、その自由さが楽しかった。
うらやましいと思った。
なんで自分はこういうことをやってないのか。
短歌をお笑いにすることはできないだろうか。
そう思いつめているうちに、
お笑い芸人をめざすべきだと思えてきた。
そうだ、めざせばいいんだ。
だれにも共感されないだろうけれど。
反対する妻子もいない身なのだから。
中目黒の花見が雨で中止になった日に、
一人で桜を見ながらそう誓ったら、
くもっているはずの空が遠くまで明るく輝いて見えた。



初めて映画をつくったのは離婚後、
ある映画プロデューサーにすすめてもらったからだ。
へんな自主映画が好きでよく見に行っていたら、
「枡野さんも撮ってみませんか」と言われたのだ。
自分が映画を撮るなんて想像したこともなかった。
当時たまたまトイレ修理業者の男性とトラブルになっていて、
その電話でのやりとりをそのままカメラにおさめたら、
つくったみたいなドキュメンタリー映画になった。
悪いのはトイレ修理業者のほうなのに、
映像で見ると自分のほうが何倍もこわい男だった。
こんなだから離婚されたのだなと感心した。
《枡野浩一の『バイバイと鳴く動物がアフリカの砂漠で昨夜発見された』は
「この人とだけは関わりたくない!」と思わせてくれる粘着質の映画。
つまり、作者の人となりが(たぶん……ぼくは付き合ったことがないので!)
完璧に表現された傑作。》
http://garth.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/la-camera-cfd9.html
と、柳下毅一郎さんは書いた。
「これ見ると、みんな、枡野くんが嫌いになるよ」
と、町山智浩さんは困ったように優しく言った。



ツイッターでスカウトされ、
新鋭監督の初長編映画に出演したこともある。
杉田協士監督『ひとつの歌』。
町山智浩さんが解説を書いてくださった『結婚失格』(講談社文庫)を
文庫化以前に読んで、
この著者に出てほしいと思ったそうだ。
ひとを殺して、
自分も殺す男の役だった。
その撮影中も楽しかった。
監督は私を撮るのに手を焼いたらしい。
詳しくは杉田監督と私の共著『歌』(雷鳥社)に書いたが、
映画に関わっているとき自分は機嫌がいいと自覚した。
演劇の舞台に何度か立たせてもらったこともある。
書くことにしか興味がない人生だったのに。
自分の肉体を外側から見られ、
面白がられることをうれしく感じるようになった。



そしてまた映画をどんどんつくるようになったのは、
離婚後に知り合った漫画家、
古泉智浩さんが誘ってくださったからだ。
映画撮影を通じて、
漫画家の新しい知り合いが増えた。
たくさんの短編を撮ったし、
たくさんの短編に出演した。
ツイッターで映像編集のプロ、小堀由起子さんと出会い、
一人ではつくれなかった作品がつくれるようになった。
「古泉智浩よるひる映研」というサークル活動は、
阿佐ヶ谷の「よるのひるね」という喫茶店が
本拠地になっている。
何度か住んだことのある阿佐ヶ谷のことが
ますます好きになった私は、
十年ほど暮らした吉祥寺を離れて、
去年から阿佐ヶ谷を拠点にして仕事をしている。
めったにオープンしないけれど、
仕事場は「枡野書店」という名前の店でもある。
ごくごくたまに小人数のトークイベントをやる。
自主映画の撮影場としても活用している。
お笑い芸人としての稽古場にもしている。



私に映画を撮ることを
最初にすすめてくれたプロデューサーは、
若くして亡くなってしまった。
お別れの会にも行けず死因も知らないけれど、
死にたい死にたいと文章を書きながら
自分は生きているのだという事実を、
こうして文章を書くと見つめざるを得ない。



昨年末から今年の正月にかけて撮った自分史上初のSF映画は、
中村うさぎさんが事実上の主役で、
2013年に亡くなってしまう「中村うさぎ」役だ。
うさぎさんが急病で倒れ、
入院したときは絶句した。
しゃれにならないし死なないでと毎晩祈った。
この一文を書いている日の前日、
うさぎさんは退院した。
ベッドの上で早くもゲームをしているらしい。
DVD-Rは入院中に送ったのだけれど、
完成した映画はまだ見てくれてないと思う。
もっともっと元気になり、
渋谷での上映を見てくれたらいいなあ。
うさぎさん。
生き返ってくれてありがとうございます。



私のつくる映画は短いものばかりだけれど、
タイトルが少し長いというか、
57577の「短歌」になっている。
映画という言葉を、
短歌に詠んだことが一度だけある。
高校時代の旧友が詠ませてくれたような一首なのだけれど、
こんな歌だ。



ハッピーじゃないエンドでも面白い映画みたいに よい人生を (雷鳥社『歌』)

 

羽生生純、タイム涼介、枡野浩一と、蔭山プロデューサーが語る
『未知なる漫画家オムニバス』対談!!

 

『その部屋でかたくなったりやわらかくなったりキスをしそこなったり』(25分)

監督 出演:枡野浩一
出演:中村うさぎ 上埜すみれ 飯塚未生 宮下拓也 森一生 川崎タカオ 羽生生純 古泉智浩

 

【作品解説】

キスが嫌いなために、1人だけ生き残ってしまった男の独白。歌人で漫画原作者でもある枡野浩一が、南阿佐ヶ谷「枡野書店」を舞台に撮影したドキュメンタリー風SF短編。枡野監督の飲み仲間である作家の中村うさぎのほか、「古泉智浩よるひる映研」の参加者である漫画家たちが多数出演している。

 

【監督プロフィール】

枡野浩一
1968年、東京西荻窪うまれ。歌人。
2008年、イメージリングス背徳映画祭のプロデューサーであった故・しまだゆきやす氏のすすめで初の短編映画をつくる。映画作品のタイトルは原則としてすべて57577の短歌になっている。2009年に五反田団、2013年にFUKAIPRODUCE羽衣の新作公演に役者として参加。また松尾スズキ監督『恋の門』、杉田協士監督『ひとつの歌』など、いくつかの長編映画に出演している。小手川ゆあ初の原作つき漫画『ショートソング』(集英社)の、原作小説(集英社文庫)を執筆した。2013年春より、高校国語教科書(明治書院)に短歌代表作が掲載中。2013年秋、芸人コンビ「詩人歌人」を結成、ソニー・ミュージックアーティスツ所属。漫画家である元妻とのあいだに2000年うまれの息子がいる。

 

『ポーラーサークル 〜未知なる漫画家オムニバス』
http://ameblo.jp/michi-manga/

2013年12月7日(土)〜11日(水) 5日間限定レイトショー!
オーディトリウム渋谷にて
http://a-shibuya.jp/
開場21:00 上映21:10より
特別鑑賞券 ¥900 当日料金 ¥1,000
(2013年/日本/カラー/104分/ポーラーサークル配給)
 

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