民謡は良いものです。わたしは以前、NHKラジオの『日本の民謡』という番組をよく聴いておりました。
この番組は、日曜日の昼前に放送していたのですが、残念ながら、今年の春に終了してしまったのです。調べてみると、51年間も続いていた長寿番組だったそうで、現在は、『吉木りさのタミウタ』という番組になり、新たな形で民謡を紹介しているそうです。
とにかく日曜日の昼どきに流れてくる民謡は、なんとものんびりした気持ちにさせてくれ、とても良かった。
こんな感じで、民謡の番組をよく聴いていたのですが、民謡に関しては、別に詳しいわけではないです。
それでも以前、島根県の安来へ、安来節の踊りを習いに行ったことがあります。安来節とは、ほっかむりをして、滑稽な動きで、どじょうすくいをする、あの踊りです。
そのとき、安来節演芸館で、島根の民謡を生で聴いたりして、あらためて、民謡は良いなと思ったのです。
民謡の唄い手さんは、声に迫力があり、魂にビシビシ響いてくる感じがします。まさしく日本のソウルミュージック。
そんなこんなで、この前、ラジオを聴いていたら、普通の民謡とは違う、とてもイカした「炭坑節」が流れてきました。
「なんだこれは!」と思ったら、それは、民謡クルセイダーズというバンドが演奏する「炭坑節」でした。
新しい感じでもあり、ワールドミュージックのようでもあり、それでも紛れもなく民謡で、魂にビシバシと迫ってくるのでした。
そこで、わたしは、民謡クルセイダーズの『エコーズ・オブ・ジャパン』というアルバムを手に入れました。
聴いてみると、驚きました。エチオピアンファンク、アフロビートなどの、ワールドミュージックを通過しつつも、やはりどれも、日本の民謡なのです。
とにかく格好良いのです。いままで民謡を聴いてこなかった人だって、絶対に好きになってしまうことまちがいなし。
もしかしたら、世界は、民謡でひとつになることができるんじゃないかとすら思えてきました。
まだ冬ですが、夏場は、民謡クルセイダーズの「炭坑節」で、「掘って掘ってまた掘って、担いで担いで、後戻り」のあんばいで、踊り狂ったら素敵なんじゃないかと、いまから思ってます。
戌井昭人(いぬいあきと)
1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。