Rooftop ルーフトップ

COLUMN

トップコラム 朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」第27回「白昼夢というパラレルワールドにいるときの孤愁感」

7回「白昼夢というパラレルワールドにいるときの孤愁感」

第27回「白昼夢というパラレルワールドにいるときの孤愁感」

2019.07.08

 現実、くっきりしていますか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

 先日、7月31日に皓星社さんから発売となる2冊目の書籍『伝説にならないで』の表紙が公開、Amazonでもご予約が開始になりました。推薦文は、スピッツの草野マサムネさん、ドリアン助川さんが書いてくださいました。どちらも、1冊目の書籍を通して…つまり、"言葉"を通してご縁のあった方です。お忙しい中、言葉を寄せてくださり感謝でいっぱいです。

 ところで、白昼夢をよく見ます。…いや、白昼夢の状態によく入ります、と言ったほうがぴったりくるかもしれません。現実のわたしは仕事をしたり、誰かの話を熱心に聞きながらも、頭の半分では別のことを考え、そのもう半分では記憶の中の世界にいることが多いです。

 いわゆる、「心ここにあらず」状態。

 しかも、たちのわるいことに、その白昼夢状態でも一応話もそこそこ聞いているので、なんだかいいタイミングで相槌ができてしまうのです。「ああ、そうなんですね」「それでどうなったんですか」。興味のあるような顔で、熱心なふりをして、意識の半分がここにいないというのに。

 じゃあ、“ここにあらず”のほうのわたしはどこにいるかというと……

 この前は、子どものころ近所にあったホームセンターを眺めていました。
 その店舗は地方都市にあるような、チェーン展開をしていないホームセンター。店頭には日焼けをした洗剤や芳香剤が並び、特売品の缶ジュースやお菓子が箱買いできます。そのうえ、幼児向けの玩具つきお菓子や、ちょっとしたおもちゃも並んでいて、子どもながらになんとなく楽しい場所だなと思っていました。

 ホームセンターは何度か名前を変えて、今はすっかりしまむら系列のショッピングモールになっています。今となっては、当時のお店の名前はぜんぜん思い出せません。どの店名の時代にも行ったことがあるはずなのに、ひとつも思い出せない。検索をしてみても出てこない。でもお店の外観や、中の様子ははっきり思い出せます。

 「わー、なるほどー」と、また適当な相槌をしながら、なんだかさみしくなりました。懐古厨じゃないはずなのに、ときどき昔に戻りたくなります。

 わたしは昔から、耳からの情報、つまり聴覚としての情報を処理することが苦手なので、ドラマを見てセリフを聞くよりも本で読んだほうが理解ができます。そもそもドラマは、表情や背景で起こっていることは空気を読んで、自ら進んで情景をすくいとらないといけません。見ているうちに、「これは誰だっけ?」「この人はなんで黙っていたの?」「そんなこと起こっていたっけ?」など、物語についていけなくなります。情緒のある余白はいらないよ、と思って空気を読み取れない自分がむなしくなります。

 そう。白昼夢状態になるときは、なにかを聞いているときが多いみたいです。
 そして、ぼんやりと過去に自分が見た世界を探索しては、寂しくなったり悲しい気持ちになって、またなにかの拍子にハッと現実に対して正気に戻ります。…あれ、よく考えてみると、白昼夢であの世界に一人で戻ったとして、大人になってやっとできた友だちもいないし、解放されたはずの血縁のしがらみに戻されるし、なによりタピオカもない。やだ、今がいい、過去になんて全然戻りたくない!

 そして、「今、わたしと会話をしてくれているんですよね!? 現実! 現実最高! 今ここにいる! まじで現実ありがとうございます」と讃えたい気持ちになります。それまで話半分で聞いていたくせに、まったく都合のいい性格です。

 時期的にヤバい情緒や、自分は世界でいちばん無能だと思ってしまう認知の歪みや、言い争いや勝負ごとからは遠いパラレルワールドで暮らしていたいので、「あー、嫌だなあ」と思うことは、パールレディで黒糖タピオカを2倍にしてニギニギと噛みくだいて、正気の自分を保ちたいものです。

 それにしても心ここにあらず状態の終了タイミングって、なにがきっかけなんだろう。

 

Aico Narumiya Profile

 朗読詩人。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。2017年に書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』刊行(書肆侃侃房)。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。ニュースサイト『TABLO』『EX大衆web』でも連載中。2019年7月、詩集『伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている』刊行(皓星社)。

このアーティストの関連記事

成宮アイコ 第一朗読詩集
「伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている」

発行:皓星社
発売日:2019年7月31日
ページ数:96ページ
価格:1,500円(+税)
版型:四六判並製

amazonで購入

LIVE INFOライブ情報

書籍刊行ライブ
■7/27 【東京】風知空知
■8/30 【京都】ComingSoon
■8/31 【大阪】西成永信防災会館
■9/14 【新潟】北書店
・・・他、随時追加
 
イベント
■7月9日@古書ほうろう
ナンダロウアヤシゲ&成宮アイコ 1日店員
■8月5日(月)@ネイキッドロフト
『ゲンバシュギ!!第26回 アウトロー俳句『屍派』のゲンバ!!』
■8月26日(月)@ロックカフェロフト
スーパー猛毒ちんどんの裏・全部見せます『バカ元年 vol.2』
■9月12日(木)@阿佐ヶ谷ロフトA
『ゲンバシュギ!!第27回 大島てるのゲンバ!!』
 

COLUMN LIST連載コラム一覧

  • 特派員日誌
  • PANTA(頭脳警察)乱破者控『青春無頼帖』
  • おじさんの眼
  • ロフトレーベルインフォメーション
  • イノマー<オナニーマシーン>の『自慰伝(序章)』
  • ISHIYA 異次元の常識
  • 鈴木邦男(文筆家・元一水会顧問)の右顧左眄
  • レズ風俗キャストゆうの 「寝る前に、すこし話そうよ」
  • 月刊牧村
  • 「LOFTと私」五辺宏明
  • 絵恋ちゃんの ああ えらそうに コラムが書きたい
  • おくはらしおり(阿佐ヶ谷ロフトA)のホントシオリ
  • 石丸元章「半径168センチの大問題」
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の歴史のふし穴
  • 煩悩放出 〜せきしろの考えたこと〜
  •  朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
  • 今野亜美のスナック亜美
  • 山脇唯「2SEE MORE」
  • 大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」
  • 能町みね子 新中野の森 アーティストプロジェクト
  • 能町みね子 中野の森BAND
  • アーバンギャルド浜崎容子のバラ色の人生
  • 戌井昭人の想い出の音楽番外地
  • さめざめの恋愛ドキュメンタリー
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の ああ夢城
  • 吉田 豪の雑談天国(ニューエストモデル風)
  • ゲッターズ飯田のピンチをチャンスに変えるヒント
  • 最終少女ひかさ 但野正和の ローリングロンリーレビュー
  • 吉村智樹まちめぐ‼
  • いざゆかんとす関西版
  • エンドケイプの室外機マニア
  • 日高 央(ヒダカトオル)のモアベタ〜よ〜
  • ザッツ団地エンターテイメン棟
  • 劔樹人&森下くるみの「センチメンタル「非」交差点」
  • 三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン
  • ポーラーサークル~未知なる漫画家オムニバス羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一
  • the cabs 高橋國光「アブサロム、または、ぼくの失敗における」
  • “ふぇのたす”ちひろ's cooking studio
  • JOJO広重の『人生非常階段』〜今月のあなたの運勢〜
  • マリアンヌ東雲 悦楽酒場
  • 大谷雅恵 人生いつでも初体験
  • ジュリエットやまだのイケメンショッキング
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ ロック再入門
  • 岡留安則 “沖縄からの『書くミサイル』”「噂の真相」極東番外地編
  • 高須基仁 メディア論『裏目を読んで半目張る』
  • 田中 優 環境はエンタメだ!
  • 雨宮処凛 一生バンギャル宣言!
  • 大久保佳代子 ガールズトーーーク!!!!!
  • DO THE HOPPY!!!!!

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻