どうです? 終わりました? 5月病。わたしは終わる予感がしません。こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。
前回のフォーラムから一転して、今回のライブ会場は日本一の貧困街、スラム街と呼ばれることもある大阪の釜ヶ崎。福祉マンションやドヤが立ち並ぶこの街に初めて足を踏み入れたのは、5年前、鬱が絶頂期だった頃です。
対人恐怖が強くて精神科の順番待ちもできなくなり、ティッシュの箱を抱えた看護婦さんに付き添われ、わけもわからず泣き続けていたわたしは、「やばい、このままでは人生ロング・グッドバイしてしまう。その前にどうしても行かねばならぬ場所がある」となぜか釜ヶ崎にやって来たのでした。これが火事場の馬鹿力か。そもそも、なぜ知ってなぜ行かねばならぬと思ったのか、まったく思い出せないのですが、人生ってそういうことがありますよね。
さすが日本の縮図と言われる釜ヶ崎。カラオケスナックは朝から大繁盛、懐の広さと人情味、怒号や笑い声や野良犬(飼い慣らされているからお手ができる)で溢れています。
そこで知り合ったおっちゃんたちに「横文字が苦手だからさ、あっちゃんって呼ぶね」と言われ、アイコって横文字じゃないんだけどなぁと思いながらも、わたしは人生で初めてあだ名を手に入れたのでした。感激。なにせ学生時代は友人がいなかったので、あだ名には縁遠かったのです。老若男女多種多様。それぞれが自分のことをただ生きている。居心地が良くて年に何度か通うようになりました。
さて、ライブのお話。この日は釜ヶ崎プロレスというイベントでの朗読。街のど真ん中にある公園に設営されたプロレスのリングが舞台。そこで読んだ詩のうちの1本「再会の歌」のワンフレーズ「そして今だと思ったらそのイスを捨ててくれ」と叫んだら、ベンチで酒盛りをしていたおっちゃんがわたしの目を見て、真剣な顔で頷き、スクっと立ち上がったのです。今じゃないよ! と笑いそうになったけれど、確かに目の前で言葉が届いた瞬間を見ました。
ライブ後、「男は泣いちゃいかんって育てられたからね、今までの我慢がね、こぼれてしまうんよ」と声をかけてくれたおっちゃんがボロボロ泣き始めました。片手にはちゃっかりカップ酒。隠しきれない人間味が愛おしくて、わたしもつられて泣いていました。
リングの前にそびえ立つのは超高層ビル・あべのハルカス。ふと、行政の窓口が閉まってしまう年末年始を生き抜くための「越冬闘争」のライブ中、あべのハルカスに向かって中指を突き立てていた野宿者のおっちゃんがいたという話を思い出しました。抱えきれずに何度もこぼれ落としてきた寂しさは、ちゃんとこうして繋がっていくのだ。わたしも、そびえ立つその姿に向かって指をかかげてみました。中指ではなく、小指を。
「いいか、あべのハルカス、これは約束だ。わたしたちは自分のことを諦めないからな」
そして今だと思ったら そのイスを捨ててくれ
わたしたちはここから立ち上がり 走り出すあなたの伴走をしよう
あなたがあなたでいる限り どこまでも伴走をしよう
あなたがあなたをやめないでいる限り 終わらせずに待っているから
わたしたちは 出会おう
成宮アイコ&内藤重人(ThreeQuestions)
「再会の歌」2017.05.06 JAMFES2017
成宮アイコ プロフィール
赤い紙に書いた生きづらさと人間賛歌をテーマにした詩や短歌を読み捨てていく朗読詩人。こわれ者の祭典・カウンター達の朗読会メンバー。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。赤裸々な言動により、たびたびネット上のコンテンツを削除されるが絶対に黙らないでいようと心に決めている。「詩の朗読であなたを人生の当事者にしたい」