絵恋ちゃんの ああ えらそうに コラムが書きたい
カットパインが好きでよく食べます。「バレンタインにカットパイン」と書かれた強引なパッケージが、「桃の節句にカットパイン」とより図々しくなり、季節の変化を感じます。
わたしは知らない人が苦手です。地下アイドルをやっていると人見知りなんて言ってられない場面も多いですが、普段のわたしは極力同じ、慣れた人とばかり接しています。担当してもらってる美容師さんが遠くの美容院に移れば、わたしは長時間電車に揺られその人についていくのです。
そんな理由で毎月の美容院は小旅行です。そして帰りは美容院のすぐそばにあるパスタ屋さんで、決まってカルボナーラかペペロンチーノを頼みます。
ある月、わたしは体型を気にして初めてパスタ屋さんでサラダを注文しました。全然楽しくなかったけど、大好きなカルボナーラかペペロンチーノは来月また食べればいいのです。その日はレジでポイントカードを出すと、店員さんが「スタンプ全部ためちゃいますね」となぜかたくさん押してくれました。
「今月で閉店するので、あと2日ですけど、またお待ちしてますね」
次の月、わたしは閉まったパスタ屋さんの前を通り美容院へ行きました。その次の月はパスタ屋さんの看板がなくなり、その次の月は工事中、その次の月には跡形もなくなってしまいました。ひょっとすると、パスタ屋さんもカルボナーラもペペロンチーノも本当は最初からなかったのかもしれないけど、わたしのお財布の中にはたまったポイントカードがきっと残ってます。大切にしてるわけではなく、お財布の中をしばらく整理してないから、きっと残ってます。
こういう文章を書くと、「地下アイドルだっていつ会えなくなるかわからないんだから今応援してね」という脅しだと思われそうですが、そんなことはまったく思いません。変わっていくのは、いつもわたし以外なのです。ママは「この人のためなら変われる」と思える人がいつか現れると言います。そんな人に会わないように、気をつけて生きる必要がありそうです。
絵恋ちゃん(えれんちゃん)地下アイドル。2019年、ロフトブックスより初の写真集『地下アイドルの絵恋ちゃん』を発売。予想より売れたので調子に乗ったロフトブックスから「第2弾を出しましょう」と持ちかけられたが、1冊目ですべてを出し切ってしまったため「それよりコラムとか書きたいです」と言い、本当に書くことになった。ネイキッドロフトでトークイベント『絵恋ちゃんの限界集会』をだいたい毎月開催。