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トップレビューbloodthirsty butchers / NO ALBUM 無題

bloodthirsty butchers / NO ALBUM 無題

2010.03.01   MUSIC | CD

KICS-1518 2,940yen (tax in) / 3.10 IN STORES
kocorono 完全盤
KICS-90587 2,800yen (tax in) / 3.10 IN STORES

快挙だ。あっぱれだ。万歳三唱だ。前作『ギタリストを殺さないで』から約2年振りのオリジナル・アルバムが聴けるだけでも充分嬉しいというのに、何とあの不朽の名作『kocorono』が“完全盤”と銘打って同時発表されるのだ。この一大事に小躍りせずにいられるものか。日本の至宝、ブラッドサースティ・ブッチャーズなのである。大人になんか解ってたまるものか。

 『NO ALBUM 無題』という如何にもブッチャーズらしい挑発的なタイトルの作品は、途方に暮れるほどの長い熟成期間を経て生まれた作品である。途中、吉村秀樹が正式加入したディスチャーミング・マンの制作が入り滞った時期もあったが、待たされただけの甲斐は十二分にある作品だ。冒頭を飾る『フランジングサン』のジリジリと身を焦がすような音圧。行き場のない悲哀と虚無がない交ぜになった『散文とブルース』のアンサンブルの妙味。しんしんと降り積もる札幌の雪景色が脳裏に浮かぶ『僕達の疾走』の息を呑む美しさ。呻吟の如きギターの音色が全編を覆う『1.2.3.4』の重厚さ。苦渋に充ち満ちた感情を主題とした『black out』の得も言われぬ疾走感。少年時代の記憶を綴った『幼少』の透き通った瑞々しさ。ポップでサイケで煌びやかな音像ながら、通底するトーンは内省的で陰影に富んだ風合いの本作、その方向性を集約しているのは『ocean』という大作だ。苦渋を舐め尽くし、ジタバタと七転八倒した末に辿り着いた蒼く澄んだ海。避け方を知らない無頼漢が叫ぶ“生きている、生きて行こう”という言葉はあまりに重い。まさにブッチャーズにしか表現し得ない、砂を掴んで立ち上がる夜明けのブルースだ。
 一方、『kocorono 完全盤』は『Cinderella V.A』にのみ収録されていた『1月』を追加収録してリマスターを施した紙ジャケ仕様・完全生産限定の逸品。裏ジャケットはスヌーピーの人形だけを取り除いて再現していたり、『1月』の歌詞をジャケットの内側に白インクでプリントしていたり、パッケージのこだわりにも注目したい。内容はもちろん折り紙付き。リマスターに際してはコーパス・グラインダーズ時代からの盟友である名越由貴夫を再びプロデューサーとして迎え、当時のマスタリング・エンジニアを起用しているのだから悪くなろうはずがない。音のゆらぎや細部の音の輪郭までが生々しく真に迫るものになったことが本作の大きな特徴のひとつで、悪戦苦闘しながら納得の行くリマスターになるまで実に3日(このご時世では破格の時間)を費やしたという作り手の惜しみない愛情が注がれた作品である。『2月』に始まり『12月』で終わる未完成の魅力がオリジナルの『kocorono』にはあるが、12ヶ月の物語が完結した本作にもここにあるだけの魅力が存分にある。それは現物を聴いた人だけのお楽しみだ。天性の天の邪鬼である我がココロのボスが一筋縄で行くはずもないのココロ。これでいいのだ。(Rooftop編集長:椎名宗之)
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