
映画『エディントンへようこそ』
【監督・脚本】アリ・アスター
【出演】ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード
【配給】ハピネットファントム・スタジオ
【原題】EDDINGTON
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2025年|アメリカ映画|PG12|148分
【劇場公開日】2025年12月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
アリ・アスター監督の新作『エディントンへようこそ』が公開!
アリ・アスター監督、長編映画監督作はこれまで3作品。初の長編作『ヘレディタリー / 継承』(2018)で“21世紀最高のホラー映画”と注目を浴び、続く『ミッドサマー』(2019)は美しさが不安と恐怖に引きずり込む、ホラーの新機軸で圧倒。前作『ボーはおそれている』(2023)は中年男の母親に会うための帰省が奇想天外の旅になり、故郷で待つのはグロテスクな親子の愛憎という人間ドラマ。『ボーはおそれている』で見事な怪演のホアキン・フェニックスが『エディントンへようこそ』でも主人公の保安官ジョーで暴れまくっている、いや、暴れまくる羽目になっている。ホアキン・フェニックスがまたもや怪演、凄い。
舞台はアメリカのニューメキシコ州の架空の町、エディントン。荒涼とした広大な大地にある小さな町。さながら西部劇に出てくる町。時は2020年のコロナ禍。保安官のジョーはコロナ禍であってもノーマスク。「そんなの自由でしょ」と言いつつも最初は「はいはい」とマスクを装着。そこに現れたのが市長のテッド。ペドロ・パスカル演じるテッドはコロナを広げないために、住民の安全のためにマスクは必要とリベラルを売りにしている市長だ。二人には、テッドがかつてジョーの妻と付き合っていたという因縁もあり、ジョーはノーマスクを徹底し小競り合いが続く。
コロナ禍は日本に住む私たちも経験しているし、アリ・アスターにしては現実的な話で微笑ましくさえあるなぁと、ちょっと安心というか逆に不安というか。
エマ・ストーン演じるジョーの妻ルイーズは母親ドーンと共に陰謀論にハマり、若きカルトな指導者ヴァーノンに心酔、引きこもって動画を見まくる日々。ジョーは妻と義母に無視される日々。自尊心を失いつつあるジョーは「俺こそが市長に相応しい」と市長に立候補。住民のためなどではなくテッドに勝ちたいだけ。一方、リベラルのテッドは砂漠地帯にIT企業の誘致を進めようとしている。町を救うためと謳っているが、それだけか?
終わらないコロナ禍で住民も不満が募っていく。ジョーとテッドの小競り合いは選挙戦における対立となり、エスカレートしていく。フェイクニュース、陰謀論、リベラル vs 保守、人種差別、BLM(Black Lives Matter)運動、排外主義、拝金主義、格差、家族の分断、人々の分断、暴力。日常的でもある前半からだんだんと緊張感が高まり、後半の凄まじさと言ったら!
想像を絶する展開は文字通り言葉にできないが、言えるのは人間の愚かさ。人々の行動の動機は嫉妬だったり承認欲求だったり。
アリ・アスター監督は現代社会の問題をグイグイと凝縮させながら、とんでもなく空虚な世界を見せてくれた。荒涼とした広大な土地の小さな町に暮らす人々は、広い世界を知ることができるネットに夢中になりながら、自分と目の前の狭い世界しか見ていなかった。
とんでもないなと思いながら、グサッと胸に何かが刺さった。
アリ・アスター、またやってくれた。(Text:遠藤妙子|@TaekoEndo)














