映画『哀れなるものたち』
【監督】ヨルゴス・ランティモス
【出演】エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル
【原作】『哀れなるものたち』アラスター・グレイ著(ハヤカワepi文庫)
【原題】POOR THINGS
2023年度作品 / イギリス映画 / 白黒&カラー / ビスタサイズ / R18+
【上映時間】2時間22分 【字幕翻訳】松浦美奈
【配給】ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【公開日】2024年1月26日(金)
カメラワークに映像美、音楽、衣装、装飾に装具、そして俳優、ストーリー。全ての要素が合わさり濃密で繊細、大胆で豪華な『哀れなるものたち』が公開中。2時間22分、スクリーンから目が離せない、グイグイ引き込まれる。
ヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』。主演はエマ・ストーン。傑作の前作『女王陛下のお気に入り』に続いてタッグを組んだ。『女王陛下のお気に入り』は、権力のトップにいるアン王女と、トップになりたくて、トップに気に入られようとしたり蹴落とそうとしたりする二人の女の愛憎劇。男は添え物。添え物の男を見て、女の扱いはずっとこんななんだよ! とスッキリするし怒りも沸く。皮肉たっぷりの映画だ。
『哀れなるものたち』の始まりはロンドン。時代設定はしていないが19世紀ぐらい? 霧のロンドンで入水自殺した若い女性。天才外科医(マッドサイエンティスト)が、まだ命のあるお腹の赤ちゃんの脳を、死んだ母親の頭に入れてしまう。身体は20代で脳は赤ちゃんの女性、ベラが誕生。ベラは男の理想。天才外科医はベラに不自由させず娘のように大切にし、屋敷から外へ出さない。自分も天才外科医だった亡父の実験台として育ち、顔には手術の痕。外の世界で生きる厳しさは知っている(自分も父と同じようにベラを実験台にしているくせに)。だけどベラは外に出たい。外の世界を見たい。屋敷を飛び出し冒険が始まる。箱庭的な世界から外の世界への冒険の物語は、『バービー』(グレタ・セレスト・ガーウィグ監督)と重なる。
『哀れなるものたち』はセックスのシーンも多い。そもそも冒険の第一歩がオナニーなのだ。幸せは自分で作れるんだ! 自分を幸せにするのは自分だ! オナニーでそれを知ったのだ。
世界を見つめ自分を見つめ、様々な場所で様々な出会いがあり、言いたいことは言いやりたいことはやる。赤ちゃんから女性へ、どんどんアップデートするベラ。男に従う女ではなく、幸せは自分で作ると突き進む女。時に立ち止まっても立ち上がり進む女。好奇心でキラキラした意志的な大きな瞳のエマ・ストーンがとにかく魅力的。意志を持ち進む女を、女より上だと思っている男には信じられない、叩きのめされる。家父長制のバカバカしさ、それを手放さない男のバカバカしさ。ベラと出会う女たちも、各々のやり方で飛び立とうとしている。
男女差別、性差別。格差社会。倫理観や自尊心やエゴ。観ているこっちも巻きこまれ突きつけられる。
そして最後、赤ちゃんとして暮らしたロンドンの我が家に戻り幸せを手にしたベラ。ベラのアップデートは続く。なんだけど、実は最後がとてもブラック(いや全てがブラックなんだけと)。やっぱりヨルゴス監督、皮肉たっぷりの最高の映画を作る。(Text:遠藤妙子)