開始5分で即こわい。タイムループしては殺される地獄の草むら
スティーヴン・キングとジョー・ヒルが2012年に発表した短編小説『In the Tall Grass』が原作の映画『インザトールグラス 狂気の迷路』。
自分の背丈よりも高く、どこまでも広がる草むらから助けを求める少年の声。そして、「呼んじゃだめ!」と叫ぶ母親。なにが起こったのかわからないまま様子を見に行く主人公兄妹。草むらに足を踏み入れた瞬間、今までいたほんの数歩のはずの道路に戻ることができなくなる。
再生を押したら、開始5分で即こわい。
なにしろ現場は草むら、ストーリー設定に時間をさかなくていいので効率がよすぎ。全編にわたってほぼ草むらしか出てこない。逃げるのも、なにかに呼ばれるのも、人が狂っていくのも、過去の因縁が見えるのも、時間軸がゆがむのも、全て草むら。
そして、自分の死体を見つけるのも草むら。
草むらの中にそびえたつ岩を崇めていた先住民族たちの、言葉ともとれない声に重なる草のザワザワがとにかく気持ちがわるい。まともだと思っていた人がいちばんヤバい、あの人もこの人も信じないで。地獄の緑色のなかを逃げ続け、恐怖に怯え、タイムループしてはまた同じように追われ、逃げ、そして殺される。草むらに入り込んでしまった人間は、どうやったらその繰り返しから逃れられるのか。
6人の登場人物の背景が少しづつ見えていき、変われない者と変わっていく者の行く先を映画として目撃してしまった。わたしたちの中にも同じような過ちをかかえていないか、「やだー、こわいー」で終われるのか、うなったまましばらく考え込んでしまう。
映画を見終わってからNetflixのサムネイルを見返すと、あざやかな草の色が不気味に見えるし、別の映画に出てきた草むらのシーンにも「うっ…」と声が出た。この草、トラウマになりそう。(成宮アイコ)
『インザトールグラス 狂気の迷路』
製作国:アメリカ合衆国
Netflix配信:2019年