潜在意識と無意識。自分の中にあって、どうしようもないものではないか。いつも気をつけてはいても、今まで生きてきた経験と言っていいものか。数々の自分の中にできてしまった「反復をおびた行動」。これがもし、消せたら私は違う人間になれるのだろうか？　『このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。』そんな出だしから始まる本書。これは中村文則さんの17冊目の本になる。自分の中にある、本当に誰にも見せたくない小さな悪意。こんな事を思ってはいけないのだろうとすぐ打ち消すであろう思い。そして、ちゃんと生きようという思い。全てが詰まっている。主人公の小塚の小さい頃の経験、そして、記憶の欠落、新しく作られた記憶？　私たちの日々で記憶している人生が本当に自分の人生なのか。人の記憶は作られるのだ。

　読むとどっぷりとその世界の中にハマり、そして救われる。私にとってそんな本である。そして、多くの人にとってもそうであると思う。ぜひ、手に取って中村さんの世界を堪能してほしい。（ネイキッドロフト：日野弘美）