私は82年生まれなのだが、日本の戦後文化の黄金期は60年代〜70年代という印象があり、その時代への憧れは持っている。一方、80年代と言われると空疎な「バブル文化」というイメージが強くて、今迄、もう一つ関心が持てずにいた。「80年代はスカだった」なんて揶揄されていた時もあるそうだが、そんな否定的側面ばかりが語られがちである80年代を、個人的な体験に基づきながら再検証したのが本書である。基本的には、宮沢章夫が東京大学で行なった講義をまとめたものなのだが、宮沢独特のユーモラスな語り口が読みやすく、また彼が悩みながらその時代の本質に迫ろうとしていく姿勢がドキュメンタリー映画を観ているようで刺激的だ。表現者が一個人として歴史に向き合う事への愉楽がこの本には詰っている。今年は、新宿ロフトが出来て40周年になる。本書を足がかりに80年代当時のロフトについて考えてみるのもいいかもしれない。(小柳元)