小学館
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3月と言えば卒業シーズンだが、卒業式は遙か遠い昔の思い出でしかない私は、この加藤千恵の新刊「卒業するわたしたち」を、少々ノスタルジックな思いを抱きながら読み始めた。1 話目は高校の卒業式を迎えた女の子の喪失感と未来への不安を抒情的に描いている作品。友達同士のなんでもないやりとりの中に彼女達の戸惑いが感じられて、作者はこうしたさりげない心理描写が本当に上手だなと思う。続く2話目は自動車学校を卒業する女子大生の話。確かに車の免許を取るとなぜか大人になった気分になるものだ、と改めて思い返した。他にも、女性アイドルグループから脱退するメンバーの卒業コンサートに行く女子ファンの話や、母子家庭の母娘の母の方が自分より先に再婚することになったOLの話など、人生のおける様々な形の「卒業」が描き出されている。本書を読み終えた後、人生には学校以外にもたくさんの卒業があるんだなと自然に思える清々しい短編集だ。（加藤梅造）
