『ハニー ビター ハニー』など、恋愛や友達同士の繊細な心理描写が高く評価される加藤千恵の最新小説が刊行された。全部で六編の短編が収められているが、一編毎に二人の主人公が登場し、それぞれが一人称の文節を二つ並べているのが今作の特徴だ。さらに、ある短編のサブキャラが次の短編のメインキャラになっているのが全編にわたって共通しており、全体で一つの長編小説として読むことができる。作者はこのような、ある物語がより大きな物語の一部であるという小説を得意とするが、決して超越的な視点で描くことはなく、常に主人公と同じ目線で文章を紡いでいく。恋人同士、友達同士などの間に横たわるどうしようもない問題や抜き差しならない状況をあくまでフェアな視点で緻密に描写するのだ。それゆえ、多くの読者が加藤千恵の小説に共感するのだろう。今作は作者がこれまでに試みてきた表現手法の集大成とも言える作品になっていると思う。(加藤梅造)