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誕生日のできごと

2010.11.01   CULTURE | BOOK

加藤千恵 (ポプラ社)540円

18歳の誕生日、あなたは何をしてました?
 

 加藤千恵といえば高校生の時にデビューした天才歌人というイメージがあるが、昨年出た短編小説集『ハニー ビター ハニー』では20代の女性の様々な恋愛の物語を繊細に描き、小説家としても類い希な才能を見せてくれた。約1年ぶりに出された本作もまた小説であるが、今度は初の長編小説だ。

物語は7つの章からなっているが、1章毎が主人公・恵里の18歳から25歳までの誕生日の出来事で構成されていて、彼女の変化と成長が誕生日という定点を軸に描かれている。


第1章、18歳の恵里は大学進学を控えた高校生で、誕生日は家族と一緒に食事をしている。第2章、1年後の恵里は大学の友達の部屋で誕生日を過ごしている。そして読者はこの1年間で恵里に何があったのかを少しずつ理解しながら、来年はどうなるんだろうと想像を巡らせる。

この読書体験はなかなか楽しく新鮮な感じだ。加藤千恵の小説ではどこにでもいそうな平凡な女性が多く登場するが、18歳から25歳という人生でもとりわけ変化の大きい時期を描くことで、主人公の喜びや哀しみ、不安や葛藤を細やかに表現している。そしてそれは多くの読者にとっての特別ではない人生と相似形な物語でもある。平凡な人生の中にもその時々には多くのドラマが起こっているし、僕も読書中、自身の昔の記憶や出来事を思い起こす場面が何度もあった。

「わたしはきっと、自分で思っているよりもずっと多くのことを選べるし、決められる」という恵里の言葉は、一見平坦な道でも実際は多くの曲がり道を選ぶのが人生だということを改めて教えてくれるのだ。さて、恵里は25歳の誕生日に一体どこで何をしているのか? 是非本書で確認してほしい。(加藤梅造)

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