SAGO(Gt/Vo)によるソロプロジェクトSAGOSAIDが、5月にNew EP『itsumademo shinu noha kowai ?』をリリースした。オルタナティブ・ロック、インディー・ロックをベースに、ベッドルーム、ドリーム・ポップなどローファイな1stアルバム『REIMEI』(2021年)、キャッチーさが増して外へ向いた2ndアルバム『Tough Love Therapy』(2023年)に続く今作は、彼女の中に大事に仕舞ってあるヒリついた痛みと、穢れのないピュアな部分を大事に詰め込んだ宝箱のような特別感がある。レコーディングはライブサポートも務めるVINCE;NT、ベランダ等のメンバーを迎えて行なわれ、マスタリングをDavid Bowie、BECK、Vampire Weekendなども手掛けたグラミー賞受賞者エミリー・ラザールが担当した。6月には下北沢SHELTER&ERAによる共催イベント『EMOTIONAL RIOT』に出演。その数日後、渋谷WWWからリリースツアーがスタートし、9月7日(日)SHELTERでツアーファイナルにして初のワンマンライブを開催する。心の底から死にたかった学生時代や、救いだったART-SCHOOLの話などからEPを紐解いていくうちに、普段のステージやインタビューの発言から受ける少々強めの印象とは違った、彼女の「本当の部分」が見えた。(Interview:小野妙子)
曲が歌詞を引っ張ってきてくれる
──6月の『EMOTIONAL RIOT』はいかがでした?
SAGO:楽しかったですね。めっちゃ知り合いばっかりで刺激ももらったし、交流がなかったバンドとかも休む暇なくいっぱい見ることができてすごい楽しかった。WWWの直前だったので割と練習もしてたし、いい演奏ができたんじゃないかなって思ってます。
──今回のEP『itsumademo shinu noha kowai?』について、「学生の頃心の底から死にたかった」とSNSに書かれていましたが、その頃のギリギリな感じやヒリヒリした痛みと、キラキラした穢れのないピュアな部分を大事に詰め込んだ宝物のようなEPだなと思いました。大人になってもSAGOさんの中に残っているその特別な部分をいつかパッケージにしたいと思っていて今回作品にされたのかなと思ったのですが。
SAGO:パッケージにしようって思ってしたんじゃないけど、最終的にそうなったのかなって思います。
──長期間レコーディングされていた印象ですが、結構時間かかりました?
SAGO:結構かかりました。作ってく上で100%妥協しないってことは、納期とか予算とか現実的なところだと中々難しいんですけど、今回は自分の中で妥協を減らしたら期間がすごい長くなっちゃいました。
──特にどういう点をこだわったんですか?
SAGO:めっちゃあるんですけど、前回よりもリズム隊を強固にしようと思って、リズム隊の2人にちょっと苦労させちゃいました。何回もやり直させたりしちゃって。
──今までの作品とはちょっと別物というか、どの曲も映像的ですよね。デモの段階ではっきりイメージして作り込まれていたんですか?
SAGO:そうですね。デモの段階で全部の楽器を入れた状態でみんなに渡したんですけど、作ってるうちにより世界観を強くしていこうみたいな気持ちになりましたね。アー写とかもそうですし。
──サポートの方々の曲の世界観の理解度が高いように感じます。
SAGO:いや、あんま高くなくて(笑)。自分も恥ずかしくてあんま説明しないのと、歌詞書くのが苦手で、楽器のレコーディングが全部終わって本当に歌わないといけないってなってやっとできるんですよ。だから歌詞ができるまで自分も分かんないんですよ。何言ってるかメンバーも分かんないままやってて。自分も最後の最後にやっと歌詞できた時に「あ、こういう曲になったんだ」みたいな(笑)。だからそこまでは本当に音として捉えてるっていう感じ。でも、曲に引っ張られて歌詞もできる感じがします。「こういうこと言いたいな」とかじゃなくて、曲がこういう感じだから「あ、そういえばこういうことがあったな」って昔のこと思い出したりとか、今思ってることが出てくるみたいな感じかもしれないですね。
──そうなんですね。最初からコンセプトが明確にあって制作されたのかと思いました。
SAGO:そうではないんです。でも、それぐらいきっと曲と歌詞が合ってるってことですね。それは嬉しいことですね。多分曲が引っ張ってきてくれる。だから映像的な部分が結構あるのかもしれないですね。
ART-SCHOOLが救いだった学生時代
──学生時代、一番辛かったのはいつ頃ですか?
SAGO:中学校が本当に辛かったです。特に何もなかったんですけど、とにかく学校に行きたくないって思っていて。でも親が結構厳しかったんで、行かないって選択肢がなかったんで行くしかないんですけど、行きたくないんで家出したりとか。「学校行け」って言われるんで家にもいられないし、どこにも行けなかったのが辛かったですね。友達はいて、よくあるいじめられましたとかもないし、家庭環境が悪かったわけでもなく、ただ行きたくないっていう状態になっていて。これといった理由はないんですけど。
──自分でもなんでこういう状態なのか分からないし、「分からない」っていうことを周囲に理解してもらえないもどかしさが辛かった?
SAGO:そうですね。とにかく分かってもらえない、もう誰も分かってくれないってなって。みんなは「何か辛いことがあるから不登校になるんでしょ?」みたいな感じで。「いや、ないんだけど行きたくない」っていうのが全然理解されなくて辛かった。だからもう死ぬしかないんじゃないかぐらいに追い詰められてました。
──そういう時期に、夜中に一人で音楽を聴いてる時間だけが息ができた?
SAGO:本当にそうでした。その時CDウォークマンとかiPodがギリ出てきたかなぐらいな時期だったんで、夜中に一人で音楽を聴く時間は一番楽しかったですね。
──今日もART-SCHOOLのキャップを被られていますけど、その時期にART-SCHOOLの音楽が救いになっていたんですか?
SAGO:すごい救いになってました。日本の邦ロックであんまりないタイプだったんで「なんだこの音楽は?」と思って。歌詞も「頑張れ」感がなくて居心地がよかったですね。なんか違う世界のことを歌ってるし、文学とか映画からの引用が多くてそれもよかったです。ああしろこうしろって言ってくる感じの歌詞じゃないから。
──EPの1曲目「Am I afraid of dying?」の<ねー言われたかった 「そのままがいさ」>という言葉に尽きると思うのですが、ART-SCHOOLの音楽は当時のSAGOさんに「そのままでいい」と言ってくれている感じがありました?
SAGO:ありました。当時そこまでは考えていなかったかもしれないんですけど、聴いてて楽しいというか没頭できるし、熱中できる感覚でした。
──今回のEPに感じるART-SCHOOL感はそこから来ているんですか?
SAGO:ART-SCHOOLは好きなんでどのアルバムにもちょっとは入れようっていう気持ちはあるんですけど、今回歌詞が日本語になったことによってすごい出てきたのかなっていうのと、編成も今ギター3人で一緒なんで、そういう部分も似通ってきてるのかなとは思います。影響を受けた曲とかも木下(理樹)さんと近しいんで、コード進行とかも似通ってきてしまうのかなって思いますね。
──この曲はノスタルジックで、ギターの音が悲鳴のように聞こえるんですよ。中学生の頃のモヤモヤした感じとか、夜中にART-SCHOOLを聴いて救われていたというのがすごく詰まっている感じがします。本当にギリギリだったと思いますが、一方で自分が形成されていった特別な時間でもあったんじゃないかなって。
SAGO:まさにそうですね。今は忙しいからゆっくりなんかするっていうこともないんですけど、たまに朝の4時とかまで起きて音楽聴いたりすると、その頃音楽聴いてたの楽しかったなって思い出して、幸せだなって思いますね。
──大人になって学生時代のモヤモヤは解消されました?
SAGO:今は全然解消されて楽しいです。