2023年3月31日(金)下北沢SHETERにて、東京町田発ロックバンド・アラナミによるリリースツアーのファイナル公演が開催された。現体制の4人ではじめて制作した「燈(あかし)」と「愁(うれい)」という2曲を両A面シングル『燈 / 愁』としてリリースし、1月30日の町田CLASSIXでの公演から全国17カ所を回ってきた『彼方へ謳うツアー』。
そのラストを飾る会場として選ばれた下北沢SHELTERは、アラナミが現体制の4人ではじめてのライブを行なった思い出の場所だ。3月初旬に行なったインタビューでは、これまでの“集大成”にしたいと話してくれていたアラナミのメンバー。その勇姿を見届けるために、会場には大勢の観客が集まった。
そのラストを飾る会場として選ばれた下北沢SHELTERは、アラナミが現体制の4人ではじめてのライブを行なった思い出の場所だ。3月初旬に行なったインタビューでは、これまでの“集大成”にしたいと話してくれていたアラナミのメンバー。その勇姿を見届けるために、会場には大勢の観客が集まった。
先陣を切って登場したのは、新潟発4人組ロックバンド・eriha。
革命の夜明け前、と歌うライブナンバー「花」は、ここからはじまる熱い一夜を予感させるのにぴったりだ。会場のボルテージは冒頭から最高潮かと感じるほど高く、力いっぱい演奏するメンバーの姿に観客も拳を上げて応えた。
前回、下北沢SHELTERに出演したときには悔しい思いをしたというが、飛沫防止のために付いていたマイクカバーや、ソーシャルディスタンスを示す足元のマークがなくなったことをメンバー同士で笑って話せるのは、コロナ禍を乗り越えて活動してきた彼らだからこそだ。「戻ってきましたね、ライブハウスが。いっぱい楽しんでください」と、コロナ禍では見ることのできなかった満員に近いライブハウスを、観客にも楽しんでほしいと呼びかけた。
その後もerihaの代名詞とも言える“生活を歌う”楽曲「ベランダ」や、先日配信リリースした「海を見る」など、アップテンポな曲を立て続けに演奏したかと思うと、一転テンポを落としたスローバラード「幸せの向き合い方」では、壮大なサウンドにのせて等身大のラブソングが情熱的に歌い上げられ、観客はその世界観に引き込まれていく。
「俺はあなたのことを全然知らないけど、音楽で、あなたのちょっと凹んだ毎日を少し持ち上げたり、何かしたいなって思ってる人の背中を押したりできると信じてやってます。今日はきっとそういう3バンドが集まってる。だからどうか、最後まであなたのその目で見ていってください」と、この後に登場する2組へのエールも込めて演奏されたのは「BRONZE」。Vo.タカハシユウトがステージから観客のほうへ身を乗り出さんばかりなのは冒頭からだが、Gt.のえるとBa.哲太もマイクスタンドをステージのギリギリに立て、フロント3人がなるべく観客のそばへ行き、その声を、熱を感じとっているようだった。そのままお馴染みのライブナンバー「大正解」「ハートビート」と続き、最後まで観客を盛り上げ、情熱あふれるステージを見せつけたerihaだった。
続いては、東京高田馬場発スリーピースロックバンド・シノカが登場。
erihaと同様、生活や日々についての描写が歌詞に多いシノカだが、作り手、演奏者の表現力でここまで違うものかと、続けて観るからこそ双方それぞれの良さが際立って見えるようだった。
「一生懸命歌って帰るんで、受け取るなり返すなり、自由にしてください」と、突き放すように感じるGt/Vo.こへの言葉だが、楽曲の世界観を聴き手に委ねているからなのだろう。景色の描写が叙情的なメロディーとサウンドにのって、聴き手はそれぞれの記憶の中の景色が心に思い浮かぶのではないだろうか。
アラナミのことを大好きな後輩だと言い、「好きだからこそ祝いたいし、好きだからこそ戦いたいと思う」と話すこへ。後輩の晴れ舞台に花を添えるだけのつもりはないようだ。「俺は自分が大事にしたいものは自分の手でずっと選び続けたいなと思ってるんで。色々選んできたものが集まった今日、この大事なメンバーと、大事な曲を、たくさん大事に歌って帰ろうと思いますので、最後までよろしくお願いします」という言葉どおり、最後までまっすぐに、アラナミヘ、そして目の前の大勢の観客へ、心を込めて演奏し続けた。
この日は「閃光」や「もしも海がなくなったら」、「せいかつのこと」など、昨年7月サブスクでの配信を開始した3rd demoの楽曲を中心に、音源化が待ち望まれる人気曲「エイプリル」や「Landscape」なども含む全10曲を披露。「俺は俺らしく、俺がしたいようにライブハウスで歌ってるんで、あなたはあなたらしくいてほしいし、あなたらしくしたいことをしてくれていればいいと思うし、そのための手助けならいくらでもするんで、そのままでいてほしいです」と、最後まで真摯にありのままの言葉を紡ぎ、ラストは3rd demoのリード曲「エンドロール」で締め括った。歌詞にある“0.1秒が惜しくなるような”瞬間を、観客は噛みしめただろう。
そして、いよいよアラナミの登場だ。
事前に行なったインタビューで“過去から今が「愁」で、今から未来に向けてが「燈」”なのだとメンバーは話してくれていたが、この日の1曲目に選ばれたのは「愁」だった。2曲目には未発表曲「あのころ」と、これまで応援してきたファンにとっては、アラナミの“過去から今”に思いを馳せずにはいられない楽曲が続く。ステージに登場したメンバー4人の表情には緊張の色も見えたが、先に立った先輩たちの背中と、目の前の大勢の観客は、彼らにとって大きな力になっただろう。代表曲「桜前線」ではフロア全体で手拍子が起こり、ステージのメンバーにもうれしそうな笑顔が見えた。「最後まで俺たちが楽しませます。最後までよろしくお願いします!」というVo/Gt.石川敦也の声に応え、ラストは会場全体で熱いシンガロングが起こった。
MCでは、まずはDr.じうから「夜遅くまで残ってくれてありがとうございます。生意気ながらツアーファイナルにこの下北沢SHELTERを選ばせていただいたんですけども、受け入れてくださってありがとうございます」と、観客へ、そして下北沢SHELTERのスタッフへ感謝の言葉が。話を振られたBa.nomuおはフロアを見渡し「いっぱい人いますね!」と本当にうれしそうだ。
はじめての全国ツアーで、「いろんな大切な場所に出会ってきました」と石川。「いろんな波を越えて、海を渡るように、いろんな経験をしてきました」と、続いて披露されたのは「PUEBLO BEYOND」。「星を探して」や「雪化粧」など、未発表曲やお馴染みのライブナンバーを織り交ぜて演奏していく中で、メンバーもこれまでのツアーのことを思い返していたのではないだろうか。新曲「トワイライト」は、さわやかな疾走感の中にも夕暮れ時のような切なさを感じさせる楽曲だった。いつも頑張ってる君に、と歌う人気曲「エール」ではフロアで多くの拳が上がり、ライブはいよいよ終盤に。
石川が「あっというまだね」と、晴れやかに、けれどどこか寂しそうに話すのは、この日のライブはもちろん、2カ月半に渡るツアーのこともだろう。「見に来てくれるあなたがいるから、俺はどこに行ったって背筋を伸ばしてしっかり自分の歌を歌えた」「俺も、俺たちも、バンドでもっともっと上に行って、もっともっとあなたに見てもらいたい。だから今日だけじゃなくて、なんか悩みがあったり、元気が出なくなったりしたら、いつでもいい、ライブハウスに、俺たちに会いに来て。俺の歌を、俺たちの音楽を、忘れないでほしい」そう言って最後の曲に選んだのは、もちろん“今から未来へ向けて”の「燈」だ。石川の魂を込めた歌声に、メンバーの力強い演奏とコーラスが重なり、そこへ観客の熱いシンガロング。おそらくこの日一番の爆音が会場内に響き渡っていた。大きな拍手に包まれて、ここでメンバーは一度ステージを後にする。
鳴り止まないアンコールの手拍子の中、再び登場したメンバーは時間も時間なので…と急足だが、新曲「Journey」の披露というプレゼントもあり、代表曲「トゥーザフューチャー」では前奏のギターソロでGt.yukiが、そして終盤のシンガロングシーンでは石川がフロアへ飛び出してしまうというハプニングもあり。最後まで疲れを感じさせない全力のパフォーマンスを見せ、今のアラナミの“集大成”を観客の心に刻み込んだ。
歌うことだけが僕らの証になる──「燈」の歌詞にあるように、歌うことで“アラナミ”を表現してきた4人。はじめての全国ツアー『彼方へ謳うツアー』はここで幕を閉じるが、全国で出会ったたくさんの仲間や観客が、これからのアラナミの旅路を照らす燈になるだろう。メンバー、バンド仲間、観客、そしてライブハウスというかけがえのない存在との絆を深めた4人が、今後さらにロックバンドとして飛躍すること、そしてその未来が輝きつづけていくことを、一ファンとして願っている。
文:たまきあや(下北沢Flowers Loft)
写真:ヨシハラミズホ