シンガーソングライター・Ranによるワンマンライブ「i 20210302 band session」が3月2日、渋谷WWWにて行われた。
Ranは現在20歳。2020年8月にデビューしたばかりである彼女の初ワンマンライブは、同時に初のバンドスタイルでのライブでもあった。アンコールを受けたことも、MCを事前の用意なしに行ったことも初めてだという。初めてづくしであったからか、MCやバンドメンバーとのやり取りでRanの初々しさが弾けたライブとなった本公演。それと対になるかのように楽曲を披露する際、彼女の特徴のひとつでもあるときに切なく、ときに内省的な歌詞が強調された。Ranの光と影を交互に目の当たりにしているような、印象的な公演となった。
そんな本公演は、2月26日にリリースされたばかりの「華たち」で幕を開けた。宮田'レフティ'リョウ(Ba)、Yuumi(drms)、北村真奈美(Key)、香取真人(gt)といったバンドメンバーがそろう中、ステージの真ん中に立つRanの佇まいは初ワンマンとは思えない堂々たるものだ。1曲目を丁寧に歌いあげ、間髪入れず繋がった「黒い息」では一転して曲調が激しくなる。サビの澄んだ高音のミックスボイスと迫力あるベースの低音が成す対比が会場のボルテージを上げる。アウトロのギターソロの激しさを受け取ったRanがアコギと歌声で静かに着地させ、「蘇生」へ。決して感情的に歌っているわけではないが、静かに会場を揺らす歌声には迫力があった。
MCに移ると、Ranを取り巻く空気は一変し、気さくさが顔を出す。「一週間前から緊張していたんですけど…どうですか?」と不安そうに問いかけるRanに対して、会場からは微笑みが漏れた。それもつかの間、「悲劇ごっこ」のクールな歌いだしでRanは再び影を纏う。「靡かない」「そんなこと」と続き、キーボードがRanのファルセットのつややかさを強調する、ドラマタイアップ曲の「せかい」を披露した。
初披露の「夜逃げ」から笑顔の歌声が弾む「ビーナス」へと繋げると、Ranは「今日は一人じゃないんですよ」と嬉しそうに語る。初めてのバンドメンバー紹介を済ませると、ステージ客席ともに熱気が一段階あがったように見えた。
その熱を更にヒートアップさせながら、ライブは後半戦へと突入。「行方」「愛おしい日々」とバンドの勢いを増していく。ライブ前半部は内省的な歌詞と落ち着いた声質を活かした、感情をRanの歌い方によって変換し音に乗せるような音楽。後半は一変、バンド演奏で音楽そのものを届けることに重心を移しているように感じられた。Ranの音楽の幅広さと表現力のポテンシャルを目の当たりにすることとなった本編は、清々しい歌声が響く「環」で幕を閉じた。
アンコールの手拍子で一人ステージに戻ってきたRan。一曲限りである弾き語りの選曲に迷いに迷ったという彼女は「ねえ」を披露。大人っぽくも甘酸っぱい歌詞に聞き入った。
バンドメンバーを呼び寄せ、再びにぎやかになったステージにゲストとして登場したのは、Ranの楽曲のアレンジにも参加するセカイイチ・岩崎慧。岩崎がコーラスとしても参加している「オレンジ」で生コラボを実現させた。顔を見合わせ身体を揺らし歌うRanと岩崎、笑顔で演奏するバンドメンバー。Ranはこの日「リハでバンドとあわせて「音楽できてる!」と思った」と語っていたが、まさしくその喜びが最も爆発している瞬間であっただろう。
MC中、バンドメンバーに問われ、次の夢はツアーをすることだと答えたRan。ワンマンライブを成功させ、新たなスタートを切る日でもあったこの日のラストに選んだ楽曲は「ご飯の食べ方」。〈明日を信じよう 未来を信じよう 君を信じよう 僕を信じてくれ〉と決意表明するように歌いあげ、初のワンマンライブを締めくくった。
このライブの模様は、Streaming+にて3月8日21:00までアーカイブ販売している。(視聴可能期間・3月8日23:59まで)
取材・文 村上麗奈