ギターパートは、曲が求める景色に応じて、エレクトリックとアコースティックを巧みに使い分けており、M-3「Diffused reflection」の瞬間的なひらめきに富む躍動感と、M-4「Walk along」、M-8「I miss you」の精巧かつ緻密に変化していくフレーズのコントラストが、絶妙である。
中盤のM-4「Walk along」、M-5「Cloudiness」、M-6「時の色」というナンバーは、その緩やかな展開の中で、様々な情景を描き出す。ここでは、2022年発表のアンプラグド形式のセルフカバー作『IN MY OASIS Billboard Session』を彷彿とさせる、飾り気のないギターと歌による、深みのある世界観が存分に表現されており、INORANの歌声は、息づかいまで伝わるほどに、極めて生々しい。
M-4「Walk along」は、“walk along 立ち止まらずに歩いてゆくんだ”という、INORANの想いの詰まった歌声が胸を打つ。M-5「Cloudiness」は、原曲のおぼろげな雰囲気を保ちながらも、3分24秒から加速していくバンド・アンサンブルが心地良い。M-6「時の色」では、作詞時に自然に浮かんだという“I love you”のメッセージが、確信を得た今のINORANの歌唱によって、さらなる意味を持って優しく響いている。エンディングでは、エモーショナルな歌声に呼応するように、Ryoの繊細なシンバルワークが、クライマックスを一層と引き立てる。
終盤は、M-7「Anything」、M-8「I miss you」、M-9「Discus」、M-10「存在のカケラ」が、情緒的なストーリーを美しく描き出す。特にM-7「Anything」と、M-9「Discus」のインストゥルメンタル曲は、ダブやアンビエントのなどの要素をセンス良くミックスした、オリジナル版の要素を踏襲しながらも、より現代的なEDMのテイストを加えることで、新たな方向性を提示している。アップデートされた、これら2曲は、1997年の1st『想』、2008年の6th『Shadow』、2020年の13th『Libertine Dreams』からの3部作など、INORANらしいダンスビートを展開した作品が好きなファンならば、思わず引き込まれる仕上がりだ。
現在と未来を繋ぐような、印象深いインストM-7「Anything」の余韻が、曲の冒頭に宿るM-8「I miss you」は、幽玄的なアルペジオと、それに呼応する野生的なベース、艶やかなヴォーカルが溶け合うことで、切ない余韻が心に残る。南国を彷彿させるようなキャッチーなインスト曲のM-9「Discus」を経た、M-10「存在のカケラ」は、イントロに夕焼けのような淡い情景を宿し、ゆっくりと躍動するグルーヴに乗りながら、大きな盛り上がりを見せながらラストに向かう。“終わらない旅は続くよ”というサビ部分の、INORANの心のこもり迫力に満ちる歌力は、まさにハイライト。そんな落ち着いたムードに、優雅で伸びやかな歌と、力強いドラムのビルドアップが交わることで、エンディングに相応しい、ドラマティックな情感が立ち上がる。
完成から18年の歳月を経て、再構築された『ニライカナイ -Rerecorded-』。本作は、INORANの過去と現在、そして未来という、時空を越えた創造行為が結実し、進化と深化を遂げた音楽性と、その表現力が際立っている。今回提示された、この新たな世界観は、9月27日からスタートする『INORAN TOUR Determine 2025』のステージに繋がり、そこから、さらなる高みへと向かっていく。
『ニライカナイ -Rerecorded-』で描かれた音の情景が、バンド編成のツアーでどのように響き、様々なオーディエンスたちを通して、どんな姿へと変わっていくのか…ぜひライブ会場で、この新しいニライカナイの世界を、体感してほしい!(text by Takahiro Hosoe)