『佐藤圭写真集 秘密の絶景 in 北海道』が7月11日(火)に講談社ビーシー/講談社より発売された。
新千歳空港からJRとバスに約4時間半ゆられてたどり着く小さな村、大雪山系の奥まったところにあって夏から秋の4カ月しか入れない沼沢群、山手線の内側がすっぽり入る人がほとんど住まない原野、そんなところに、あなたの心をゆさぶる絶景がひっそりと隠れている。
著者・佐藤圭のあとがきより
私は、北海道の西海岸、道北に位置する留萌で生まれ育ちました。
十代の頃はサーフィンに夢中でした。そして、波間に漂いながら眺める夕陽のあまりの美しさに、この光景を写しとりたいとカメラを買ったのが、写真を始めたきっかけでした。
海岸には、群れ飛ぶカモメや波間に顔を出すアザラシなど面白い被写体が多く、サーフィンの合間にぽつぽつと撮影を続けていたある日、海に向かう途中で、電信柱の上に巨鳥が止まっているのに気づきました。大人が体育座りしているほどの大きさがあり、まるでアニメの「ガッチャマン」のようなかっこよさにしびれました。
帰ってから調べるとそれは絶滅危惧種の猛禽類オオワシでした。以来、あれほど夢中だったサーフィンに集中できなくなり、いつのまにかサーフボードは部屋の隅に置きっぱなしになり、日々カメラを手に、道北の雄大な自然とそこに暮らす野生動物たちを追いかけるようになりました。
私が暮らす道北は、長い冬の間豪雪に閉じ込められる厳しい環境ゆえ、人には知られていない手つかずの自然がたくさん残っています。
今回掲載した写真を撮影した場所は、有名な観光名所ではなく、アクセスもよくないので訪れる人も少なく、「秘密」にしたくなくとも「秘密」になってしまっているところがたくさんあります。そこで、この写真集のタイトルを「秘密の絶景」としてみました。
今回掲載した写真は、ファインダーを覗いたときに、その迫力にシャッターを押す指が震えたり、あまりの美しさにうるうるしながら撮影したものです。この写真集が、見ていただいた方の心を癒し、元気の源になってくれることを切に願っています。
掲載された写真の一部と佐藤圭の解説を紹介
萌ゆる海
北海道北部の西海岸、日本海に面する留萌市黄金岬は、日本の夕陽百選にも選ばれている夕焼けの名所です。四季それぞれの美しさがありますが、秋になると雲が高くなり、視界がすべてオレンジ色に染まる爆焼けの確率が高くなります。
大雪高原沼にひそむ秘景(滝見沼)
札幌や旭川から見ると大雪山系の最高峰・旭岳の裏側に位置する大雪高原は、アクセスがよくないため、道産子にもあまり知られていない、秘境といってもいい紅葉の名所です。大小30以上の沼が点在し、その周辺には手つかずの原生林が広がっています。秋にはダケカンバやウラジロナナカマドの紅葉が沼に映り込むシンメトリーを楽しむことができます。
紅葉の見頃は9月後半。札幌や東京(旭川空港経由)からもバスツアーがあるようなので、お気に入りの沼を探しにぜひ!
星を浴びる!
初山別村は、留萌と稚内の中間に位置する日本海沿岸の村です。公共交通機関を使えば、新千歳空港から約4時間半、稚内空港からも2時間半以上かかるというアクセスがよくないところですが、日本最北の天文台「しょさんべつ天文台」が設置されるほど、星空が美しい村です。海岸に面する海の守り神・金比羅神社には、海中に大鳥居がすっくと立ち、絶好の撮影ポイントです。
茜色に染まる美田の朝焼け
沼田町は、深川市の西、石狩平野の北端に位置する町です。この町の魅力は、美しい水田が広がる田園風景とホタルが生息する清流です。
朝焼けを撮影した田んぼは、整然と植えられた稲のラインが遥か彼方まで続き、私のお気に入りの撮影スポットです。
湿原にあふれ出す雲海
雨竜沼湿原は、北海道日本海側の真ん中辺り、標高1000メートルの高原にある湿地帯です。「北海道の尾瀬」とも呼ばれ、夏には、ミズバショウやエゾカンゾウなどの高山植物の花が咲き乱れ、点在する沼沢には、ハート形の葉っぱがかわいい固有種「ウリュウコウホネ」の群生を見ることができます。
最北のダイヤモンド富士
サロベツ原野は、北海道の北部、日本海に面する海岸線に広がる湿原です。山手線の内側がすっぽり入る湿原は、人の手がほとんど入っておらず、日本では数少ない秘境だと言えます。
その沖合には、利尻島が浮かんでいます。島の大部分を締める利尻山は別名「利尻富士」とも呼ばれ、サロベツ原野から眺めると、水平線からどーんとそびえ立ち、本家に負けない迫力があります。
グリーンフラッシュ
「グリーンフラッシュ」とは、太陽が水平線に沈む直前に緑色に光る現象です。南洋の島には「見た人は幸せになれる」という伝説があるそうです。肉眼ではなかなか見られないので、観察するには双眼鏡か望遠レンズを用意して、目を痛めないよう、夕陽が沈む直前を狙います。(撮影地/留萌市黄金岬)
花はご馳走 エゾナキウサギとチングルマ
エゾナキウサギは、北海道の山岳地帯(大雪山系連峰、日高山脈、夕張山地、北見山地など)の岩場にのみ生息しています。そのため、登山をしなければ会えないのですが、「ピキーッ」というホイッスルのような声を聞くことはあっても、身体は手の平サイズと小さく、動きがすばやいので見つけるのは至難の業です。
北海道の山の夏は短く、高山植物チングルマの開花期は1週間ほどです。ナキウサギが花弁をくるくる回しながら食べる姿はかわいくてたまりません。
葉の頃 エゾフクロウの雛たち
エゾフクロウは、春に繁殖し、孵化してから1ヵ月ほどで巣立ち、夏の間に親から飛び方や狩りの仕方を習い、秋には完全に独立します。この兄弟はまだ巣立ったばかりの兄弟で、夜中に親から特訓を受けた疲れなのか、夜行性の動物の習性なのか、暖かい日射しの中、2羽で寄り添いすやすやと眠ってしまいました。
本書には、これらの写真を含む67点の写真が掲載されている。
【著者プロフィール】
佐藤圭(さとう けい)
1979年、北海道留萌市生まれ。自然写真家。SLASH写真事務所代表。アルパインブランド「MILLET(ミレー)」アドバイザー。
故郷・留萌の黄金岬から望む美しい夕陽を撮影するために写真家の道に入る。北海道道北の自然風景と野生動物を中心に撮影を続け、各地で写真展を開催し、企業や自治体、雑誌、新聞などに写真を提供している。
2018年、日本の自然写真コンテストの最高峰である『日本の自然』写真コンテスト(主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会)で第35回最優秀賞受賞(エゾナキウサギの写真「貯食に大忙し」)、2022年、第70回ニッコールフォトコンテストで最高賞である長岡賞(サロベツ原野を舞台にした3部作「生命萌ゆる」)を受賞他、多くのフォトコンテストで受賞歴がある。
2019年2月1日から丸1年間、WEBマガジン「現代ビジネス」でフォト・エッセイ「北海道から毎日お届け中!」を連載。
著書に『山の園芸屋さん エゾシマリス』(文一総合出版)がある。