その内なる声を掬い取り、
自刃の謎を解き明かす。
2021年2月1日、 株式会社平凡社より刊行している評伝『暴流(ぼる)の人 三島由紀夫』(井上隆史・著)が第72回読売文学賞の評論・伝記賞を受賞した。
自らの内面に渦巻く暴力性、 精神を蝕むニヒリズムを近代という時代の病、 人間存在の闇として問うた作家の実像。 『豊饒の海』の完成と自死ははぜ同時に計画されたのか。 没後50年、 三島研究の第一人者が満を持して世に問う決定的評伝。
昨年2020年は三島由紀夫没後50年という節目で、 多数の関連書籍が出版された。 この機会にチェックしよう。
はじめに」より
『仮面の告白』や『金閣寺』を読めばわかるように、 三島の内面には制御しがたい暴力性が渦巻いていた。 また、 『豊饒の海』の結末が示すように、 すべては幻に過ぎないという冷え冷えしたニヒリズムが三島の精神を蝕んでいた。 しかし重要なのは、 三島はそれを単に個人の問題としてではなく、 近代という時代の病、 人間存在の闇として問うたことである。 事実、 死後半世紀を経て、 それは私たちすべてが直面する問題となったのだ。 三島はいわば、 現代を生きているのである。